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3章

side ヨイ 前編

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 ここは、後に楽園、この世の天国と謳われる地、この地に訪れた者は心安らかになり、身体を癒される。諍いのない土地。

この楽園を作ったのは各国の王族お抱えの庭師、名人と呼び名の高い人達の師である一人の老人の手によるものだった。

各国の名人から老師と呼ばれたこの老人の最後の作品だ。

楽園を作った数年前に話を飛ばそう。

花の都と謳われるだけあって何処を見ても美しい花が咲き誇っていた。この街が花の都と言われる由縁は訪れた者にはすぐわかる。この街は暖かいのだ。その為、いつでも花が咲き誇っている。

町全体を覆うように特殊の膜のようなものが張ってあるのだ。その膜は光を通し水を通すが熱を逃がさないようにできていた。もちろん魔法でその熱の温度が一定に保つように出来ている。

 この技術が開発されたのは最近だが、一昔前は公園のある一角を透明の膜で覆って温度を上げていたそうだ。確かビニールハウスと呼ばれていた。

 なんでもこの技術のおかげで一年中花を咲かせる事が出来るようになったのだ。一時はとん挫していた街の改革が一気に進んだそうだ。



そんな歴史のある街の入り口に、わかる人が見たら卒倒しそうなくらいに次々と名人と言われる庭師達が現れた。

「お、何じゃ?お前さんも老師に呼ばれたのか?ハク」
「む?お、おお、なんじゃ?老けたなー、チュイ」

軽口をたたかれた初老の男が呆れた顔をして言い返す。
「アホか、お前と同い年じゃろ?お前よりは毛がある分ワシの方がマシなジジーじゃ」
「これは剃っているんじゃ。ハゲじゃないわい」
「ハン、どうだか?そう言えば老師の下にいた時からお主おでこがヤバかったな?」

ハクと呼ばれた人が言い返そうとしたその時後ろから声がかかる。
「おお、先輩方。お久しぶりですなー。相変わらずお元気そうで」

ハクとチュイの二人が振り返ると二人よりは少し若い男が立っていた。

「お、なんじゃ?トンも呼ばれていたのか?」
「ハク先輩にチュイ先輩も物好きですねー。あんな手紙一枚でこんな田舎町まで来るなんて。老師のお手伝いは私がやっておきますから、お二方は帰っていいですよ」

「帰るか!!あの老師が庭園を造りたいから力を貸してほしいと言って来たのだぞ?それに老師ももう高齢だ。老師の技が見れるのも、これが最後になるかもしれんしな」

ハクの話にチュイとトンが少し渋い顔をして頷く。
その後現状の話をしながら老師の家に向かった。

三人が着いた家は、どこにでもある普通の家だった。いや、どちらかと言うと少しくたびれた感じのある家だ。
ハクがドアをノックすると中から直ぐに返事が返って来た。
「おう、開いておるぞ。中に入っておいで」

ハクがドアを開けると中には椅子に腰かけた老人が、杖をもてあそびながらこちらを見て楽しそうに話し出した。

「おお、やっぱりお前さんたちじゃったか。花たちが何やら嬉しそうだったのでなもしやと思ったのじゃがな。相変わらず花たちに愛されておるのう、羨ましい。ハハハ」

花が喜ぶ、老師がよく言う言葉だ。老師は花と話す事が出来るそうだ。花に愛されている俺達が羨ましいと言うが花たちの声を聞ける老師の方が羨ましいのだと皆が思っていた。

「忙しい中みんなよく来てくれたのう。手紙に書いた通りこの街の公園を改築してほしいと領主様から仕事を受けたのじゃが、ワシももう年じゃから断ったのだが是非にと言われてな、お前たちの誰かの手伝いがあればなんとかなると思って、お願いしたのじゃがまさか三人とも来てくれるとはな。よい弟子を持って嬉しいぞ」

ハクが急いで言う。
「そんな、老師の頼みですし、我らのような若輩者を頼りにして下さりこちらこそ嬉しく思っていますよ」
ハクノ言葉に二人も頷き頭を下げる。

この三人も既に数十人の弟子を持つ身なのだが、老師の前だと駆け出しの小僧に戻ってしまう。

老師は嬉しそうに笑いながら再度ありがとうと頭を下げ新たな公園の説明を始める。

その次の日からハク、チュイ、トンの弟子も加わって工事が進められていく。


数か月後、完成に近づいた頃作業中のハクに老師が話しかける。
「おお、流石はハクじゃ。花たちが喜び歌っておるわい」
「あ、老師どうでしょうか?こんな感じにしてみたのですが」
ハクは軽く口にしたが、その内心はドキドキしていた。子供の頃から老師について学んできたその総決算のようなものを評価されるのだから。
「フムー、素晴らしいのう。昔からお前さんは優しい庭園を造るのが上手かったが、これは凄い優しく調和のとれた素晴らしい庭園じゃ」

老師からの褒め言葉に飛び上がりたい気持ちを抑えて「ありがとうございます」と頭を下げる。

「この素晴らしい調和をわざとこのあたりだけ、こんな感じにするとどうじゃな?」
そう言いながら庭園の一角の花の色を変え、緑の葉を増やすと。今までの完璧な調和が崩れた。が、くずれ切る寸前でとどまっている。

「どうじゃ?ハクのは良い緊張感があってそれもよいのじゃがワシはこういった姿勢を正すよりもゴロゴロとしたくなる方が好きじゃな。ハクには申し訳ないのじゃが今回はこうさせてもらえんかのう?」

 ハクは自分の完璧な作品が、きっとどこかが崩れてしまったら全てが壊されると思っていた自分の作品を少しだけ手を加えて、しかも壊すことなく良い作品にしてしまうなんて。

驚きのあまり声も出せないでいると老師が続けて話し出す。
「ハクよ、いま一度自分の作品を壊す勇気を持て。そうすればお前さんは更に上に行けるぞ」
ハクはその場に片膝をついて老師に礼をした。

同じ様な事を他の二人にもして、さらに作業は進んで行った。


+++++++++++++
わわ、書き始めたら止まんなくなってこんなに長くなっちゃった。もう少しお付き合いください。

あと、そろそろ、三巻が出ますので、よろしくお願いいたします。_(_^_)_

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