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3章

お留守番 その5 ギルマス

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 今日一日は全く仕事が捗らなかった。

まあ、朝の勇者の件で王都のギルド本部と連絡したりと色々あったせいもあるのだが‥‥‥。クソーわかっているよ。

勇者PTと一緒に行ったヒデの事が気がかりなのも仕事が捗らない要因の一つだ。

「なによー、渋い顔しちゃって。強めのお酒にする?」
考え事をしていた俺の思考が中断されて目の前の大男をみる。
「はあ、いや、いい」
「そう?ヒデちゃんの事が気になるのはわかるけど‥‥‥」
言葉をかぶせるように俺が反論する。
「心配などしてない。その為にザルドを付けたし、キャロラインも一緒だ。何も起こるわけがない」
「はいはい、そうね。どうせ心配したって飄々とした顔して帰って来るんだからねー、ヒデちゃんは」
「フン、それよりチビ共は?」

ゴンザ‥‥‥ママはさっき断ったはずなのに強めの酒をカウンターに置きながら話す。
「さっき夕食済ませて診療所に入って行ったわよ」

その言葉に俺は少し離れた診療所のドアを見る。
何やらドタバタと大騒ぎをしている様な音の後にハルナの大きな叱る声が聞こえて静かになった。
きっとゲンとトランが何かをやらかしてハルナやミラが怒っているのだろう。そんな何気ない様子を考えているとつい笑いが漏れた。

「あらあら、なんか幸せそうな顔ね?
ママがわざとおじいちゃんの部分を強調させていいやがった。
「おじいちゃんじゃねえ。まったく」
「ハイハイ」
ママはおーコワいコワいとか言いながら他の奴の注文のつまみを作りに中に入って行った。

カウンター席から酒場の中を見渡すと今日は客が少ない気がする。そのことを戻って来たママに訊いてみる。
「ああ、その事ね。さっきまで普通通りだったんだけどねー。ちびちゃん達が診療所に泊まるって聞いたら騒いでうるさいといけないからってアードル達が若い冒険者連中連れて他に飲みに行ったのよ」

アードルか確か最初にヒデを連れてきたのがアードル達のPTだったよな?クエスト中に拾ったって言ってたけどな。

 さて、どうするかな?ここからそう離れてない自分の家に戻るか、またいつも通り仕事部屋のソファーで寝るかだが?まあ、こう考えた時は大抵答えは出てるんだがね。
酒場のカウンターから離れてママに挨拶をして自分のカードを魔法球に当ててからいつもの仕事部屋に戻りソファーに転がる。

 そんなこんなで特に情報も入らず次の日の夕方近くに下の階から何やら魔力の暴走に近い感じを感じて急いで部屋から出て階段を降りる。

 階段を降りると酒場の方から騒ぎが聞こえたので急いでそちらに向かう。その途中いつもミラの横にいる小さな守護獣が光り出している。魔力の暴走というより供給?なんだ?召喚獣は持っていないが召喚士は呼び出した精霊にMPの受け渡しが出来ると聞いた事があるが‥‥‥。

 そもそも、こいつらはヒデが呼び出したとか言っていたがどうもヒデの奴、何かを隠しているようだったしこんな魔力を持った精霊など見た事もない。

 ただこの状態がMPの供給なら特に問題はないはずだが‥‥‥いや、まさかヒデの方で何かあったのか?離れている召喚獣のMPを受け取らねばならないような状態が?

俺は遠回しに見ている連中をかき分けて召喚獣の周りにいるチビ共に声をかける。
「おい、どうした?なにが起こっているんだ?」
俺の声にゲンが急いで答える。
「あ、ギルマス。なんかベンテンがね、このままだとご主人さまがって言って急に光り出したんだ」
「ね、ねえ、ギルマス、ベンテン平気?なんか力がドンドン減っていっている感じがするの。このまま減り続けたら‥‥‥」

いつも大人しいミラが俺に助けを求める様に守護獣を抱えて俺に詰め寄って来る。

俺も召喚獣に詳しくないし、ましてや守護獣なんてその上の存在なんてわからんのだが。
「うーん、魔力の塊のような存在の精霊達は魔力が貯まればまたすぐに復活できる。この守護獣はヒデを守るのを第一にしているからな、ヒデに何か起こって魔力を必要としている事態が起こっているという事だろう」

 俺はそう説明しながら冷や汗をかいていた。あのアホみたいにMPを持っているヒデが魔力の枯渇?考えられん。治療の為に使うMPなどいくら多くてもそんなに一気に使う事など無いはずだ。これも門外漢なのでハッキリとは言えないが‥‥‥

クッ、情報が欲しいどうなってやがんだ。俺が毒づこうとした時診療所のドアが開き第二王子‥‥‥じゃなくて若様だったな、がこちらに向かって歩いてきた。

それに気が付いたミラがさっき俺に言った事を若様にも聞いていた。
若様はベンテンの様子を見ると俺に目配せをして診療所に来るようにと合図してきた。

俺は周りの冒険者に特に問題が無いと言って後の事をサブギルマスのオファンに任せて診療所に向かう。中にはチビ共四人と若様それによく見るお付きの女騎士がいた。

俺がドアを閉めると若様が話し出す。
「えーっと、ヒデ君に付けた隠密‥‥‥ゴホンゴホン、護衛のモノから連絡があってね。そのチョット信じがたい報告だったから確認しようと思ってこっちに来たんだけど」

なにやら歯切れの悪い言い方だが相手は王族だ、ここは我慢して聞いていよう。

「ヒデ兄は無事なの?」
ハルナが顔を強張らせて恐る恐る聞く。
「あ、ああ、それは大丈夫だよ。ただ、ヒデ君がね。め、女神様を顕現させちゃったらしいんだよ」

‥‥‥‥‥‥はぁ?え?え?なんだって?女神様を?なんだって?え?え?顕現って女神様をこの地上に呼んだって事か?

「若様、顕現って何?」
ミラが落ち着いた声で訊いている。

「ああ、えっと。簡単に言うと。ヒデ君が女神様を呼び出しちゃったらしいんだよ」

「「「「えーーー」」」」

少しの間を置いてチビ達四人が大着な声をあげた。
ヒデ兄スゲーとか言っているが、スゲーで済む話ではないぞ?下手したら神聖王国辺りが動くぞ。
などと考えていたら、若様も当然その考えに行きついているようだ。

子供達に背を向けて俺に目配せをする。俺が若様の近くに行くと小声で話し始める。
「どうやらヒデ君が上手い事動いているらしくて、勇者ケヴィンが女神様の顕現をなさった。って感じになっているらしいよ。まったくどうやったのかその場にいなかったのが悔やまれるよ」

最後の方は楽しげに話していたが俺のこめかみは破裂寸前だ。

まったく、あの神聖王国なんぞに目をつけられたら大変な事になるぞ。俺の心配をわかっているのか若様が続けて話す。
「今回の事でヒデ君を少し王都にというか王城に連れていきたいんだけど平気かい?」
言葉は質問口調だがこれはもう命令だろう?俺はため息をついて肩をすくめる。

「ハハ、ヒデ君が断れば無理には連れていかないよ。ただ今回の事の話は聞きたいからね。それに前に招待するって約束してるし」

 楽しげに話す若様。まあ、ヒデは上手い事乗せられて王都行きが決定だろうな。それに神聖王国からヒデを守れるのは王国くらいだしな。
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