この世界の平均寿命を頑張って伸ばします。

まさちち

文字の大きさ
175 / 185
4章

王都へ その5

しおりを挟む
  
 ポールさんの店の近くに来ると数人の子供達が遊んでいた。

その中の一人がこちらに急いで駆け出してくる。
「ミラちゃんいらっしゃい。ハルナちゃんとトランにゲ、ゲンも来たんだ。ひ、ひさしぶりだなー」
そう言ったのはポールさんの孫、そしてウィルさんとモニカさんの娘のラウラだ。

子供たち同士で挨拶の終ったラウラに話す。
「よっ、ラウラ、ポールさんはいるかい?」
「ん?じいちゃんならいつもの研究室にいるよ」
「わかった。俺はポールさんと少し話があるからミラ達はここで待っててくれ」

 俺がそう言い終わった途端子供達は近くで待っていた子供達に向かって走って行く。その後ろ姿を少し眺めてからポールさんの店に入る。

ドアに設置されたベルがカランカランと鳴り客の来店を報せる。
「いらっしゃいませ。ヒデさん。いつも主人がお世話になってます」
反射的に挨拶をして入って来たのが俺だと気が付くと、営業用の笑顔でなく友人に向ける笑顔で話す。

「こんにちはモニカさん。お世話になっているのはこっちですよ。ポールさん居ますか?」
「フフ、はい。お義父さんならいつもの部屋ですよ」
俺はいつもの様に挨拶をして奥の部屋に向かう。

ドアをノックして声をかけると中からポールさんの声が聞こえた。
「おお、ヒデ君か入りなさい」
その声に従ってドアを開けて中に入る。中に入るといつもの様に壁一面の書物と薬の調合に使う道具に何やら大きな装置と、こちらで何というのか知らないがオウムのような鳥の剥製?‥‥‥剥製だよな?動いたの見た事ないし??が迎えてくれる。

 久し振りに来たポールさんの研究室をキョロキョロと見回しているといつもの優しい声が聞こえてきた。

「さあさあ、こっちに座って話をしよう」

俺は挨拶したのち少しこちらに来れなかった事を詫びてから、今度王都に行く事とその時にエル商会に行ってサスペンションとタイヤの話を積めて来ようと思っていることを話す。

ポールさんは俺の話をいつものロッキングチェアに座りながらだまって聞いている。

「ふむ、それは丁度良かった。ヒデ君から頼まれていたタイヤとサスペンションの資料が出来上がったところじゃった」
ポールさんはそう言うと書類の山から一束の書類を引き抜きこちらに渡す。
なんか躊躇なく引っこ抜いたけど何がどこにあるのか全て把握しているのかこの人?

そんな事を考えながら書類を受け取る。
その書類にはタイヤの図が描いてあり詳しく説明が書いてある。詳しい図解も補足してあり見やすくなっている。その後に素材や耐久など色々な事が書いてある。もう一束の方はサスペンションの事の様だ。
俺にはよくわからない所もあるがエル商会の技術者に見せればきっとわかるだろう。

「あれから少し改良してみたんじゃがな実験する暇がなくてのう。まあ、それを向こうの技術者に見せれば続きは向こうでやってくれるじゃろ」

ポールさんはそう言いながら満足そうにロッキングチェアを揺すりながらパイプを咥え吹かす。

「すいませんポールさん。研究途中の物を取り上げるみたくなってしまって」
「ん?何を言っているヒデ君。ワシが出来るまでの事はすべてやり尽くしたよ。寧ろ畑違いの研究が出来て楽しかったわい。ヒデ君の話を聞いて自分で思考錯誤するのは楽しかった。まあ、分野が違うのでなキチンとした専門家に診てもらうのが一番じゃ」

 この人は思考する事と研究が大好きなのだ、その知識は薬だけでなく色々な分野にも手を伸ばしている。ポールさんにその事を聞くと薬の調合に必要だったから色々勉強したと言うのだがその知識量には頭が下がる思いだ。

そんな事を考えているとポールさんがもう一束の書類をさし出してきた。
「この書類はそのタイヤとサスペンションの実験結果の可能性と対処法が書いてある。それも一緒に向こうの連中に渡してくれ。まあ、必要ないかもしれんがな」
最後に一言付け加えて渡された。

「フォフォ、ヒデ君と話していると楽しくて時間が直ぐに経ってしまうのう。昼過ぎには出発をするんじゃろ?」

ポールさんのその言葉に顔を上げるとお昼の鐘の音が聞こえてきた。

「うわ、昼前には出るつもりだったのに。すいませんポールさんもう行きますね」
「フォフォ、うん、道中‥‥‥は平気じゃったな、あの若様のスキルで行くのじゃしな。まあ、元気でまたここに遊びに来てくれ。王都の土産話も聞きたいしのう」
「はい、王都から戻たら必ず報告に来ますね」

そう言うとロッキングチェアに座るポールさんに頭を下げてドアを出て店にいるモニカさんに挨拶をしてから外に出る。

その時、隣の店そうモブの店に入って行く人影を見た。チラッとだがあれはギルドでよく見かけるランさんだ。ランさんとモブの接点っといえば、お祭りの時のお見合いパーティーに二人共参加していたはずだ。

え?ええー?何?まさかうまくいったのか?モブが?ク、クッソー時間があれば覗いて行くのにー。恨めしそうにモブの店を見ると店のガラス窓から興味津々に覗いている老婆の姿があった。

あれってモブの母ちゃんか?
そう思って目を凝らすと俺に気が付いたのか、こちらを向いてニヤリと笑ってサムズアップしてきたので俺もニヤリとしてサムズアップして返しておいた。

モブの母ちゃんの様子を見ている限り上手くいっているのだろう。
王都から戻ったらその事をネタにからかってやろう。今日は時間がないのが残念だ。


広場で遊んでいる子供達に声をかける。さっき見たより子供の数が減っていたのは昼の鐘が鳴ったからだろう。
俺の声が聞こえて急いでみんなが駆けてくる。
「そろそろかえるよ。ゆっくりしすぎちゃったから少し急がないと」


そう言うとラウラ達に挨拶をしてから冒険者ギルドに向かう。


しおりを挟む
感想 621

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。