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うぇあー?(何処ですかここ)
しおりを挟むここは深い、深い森の中
人っ子一人訪れない 動物達の楽園
そこに一匹…いや、一人
人が倒れていた
その身体はピクリとも動かず、鼓動や呼吸による胸の浮沈をしていない
しかし──
その時は突然訪れた
何も無かったはずの空中からステンドグラスを割って降らせたような光がその少女へ降り注ぐ
そして、少女の刻は動き始めた
「ん、んぅ…」
瑞々しく光る桜色の少女の唇から悩ましげな吐息が漏れる
次に動いたのは目元。筆先で撫で書いた様な流麗な眉が八の字を描き、美しく生え揃った睫毛がふるりと揺れ、薄い瞼に隠された緋色の眼球が覗き宝石のようにキラキラと光を反射する
(あれ、ここは…?)
当の少女は 困惑していた
────
はて、私は確かいつもの様に病室のベッドに横になっていたはずだ
こんな森の中まで歩くような体力はないし、車で移動するにも木の根にタイヤが取られて危ないだろうし、まず過保護な父が歩くにも大変そうな山の中に連れてくるとも思えない
『メア、メアッ!!』
突然、声が聞こえた気がした。頭に水を注がれたかのように脳に直接響く様な声だ
でも、聞き覚えがある。聞き間違えようのない大切な人の声
母さん…?
ふと脳裏にひとつの場面が過ぎる
私の名前を呼び取り乱す母と、難しそうな、でも鼻と目元とを赤らめた顔をしてそれを支える父だ
(あ、私…容態が悪化して…)
意識を繋ぎ止めるのも困難だったのか、ブツ切れの記憶から必死に思い出す。鼓動の音が『これが現実だ』と押し付けるように、鈍痛のように頭に響く
次に思い出せたのは慌ただしく看護師に指示を出す、いつも穏やかな顔で素敵な話をしてくれた主治医の先生の声と、川の流れのように忙しなく動き回る看護師のお姉さん達
先生、こんな声が出せたんだ。看護師さんは何でそんな泣きそうな顔してるの、私の前じゃ可愛く笑ってたのに。美人な顔が台無しになってる
次は電子音。不規則なテンポで聞こえていたが、数秒もしないうちに音の途切れがなくなり、耳鳴りのように音が遠ざかってゆく
そして、
『メア、私の愛しいメア…強く生んであげられなくてごめんね...でも貴女がいたから私は強く在れたし、幸せな日々を過ごせたの…!』
『僕らのメア、色んな国から良い医者を呼んだけれど、治してあげられなくてごめんよ。メアは「大丈夫」と言ってくれたけれど、僕は何もしてあげられなかった。そのことが悔しくて歯痒くてたまらなかった。
メア、君がいてくれたから、「頑張って」って励ましてくれたから、僕は仕事を頑張れたし、君の笑顔があったから僕は色んなクレームも仕事の押し付けだって何でもこなす事ができた。本当に励ますべきは僕の方なのに…』
『メア、私たちの元に生まれてきてくれてありがとう、私たちはあなたが居てくれてとても、言い表せないくらい幸せだったわ。』
『『…おやすみ(なさい)、僕(私)たちのメリア』』
目蓋越しにも強かった蛍光灯の光が薄れていくのと同時、私にかけられたくぐもって聞こえる別れの言葉
(…私、死んだの…?)
信じられなかった
でも、病室じゃなくて森の中にいる上に 節々が軋んで動くのも辛かった体が全く痛くなくなっている。この状態は私の身体じゃ "ありえない" と物語っている
なんとなく理解はできたが、"それ"と"これ"とは訳が違う
そして…
「それより、なんでもりのなk…ぇ…?」
舌足らずな、子供と赤子の間ような声が私の口から紡がれた
思わず弾かれるように立ち上がる
しかし、
「わぁっ!!?」
ぽて、とでも音が聞こえてきそうなくらい簡単に後ろへ倒れて座っていた元の位置に戻った私の体。病状が悪化する前はリハビリを続けていたから立つことぐらいはできると思ったのに
「あれ…ざこう、ひくくない…?」
気が動転しているせいか全く気付かなかった。いや、気付けなかったが、立った時と座った時で見えている視界の高さにあまり差がなかった
(と、いうことは…)
背筋を嫌な汗が伝う
幸いというべきか、少し歩いた所に湖⋯ほどの大きさではない。泉というべきか、水場があるのを見つけ、立ち上がってよろよろと、今度こそ倒れることのないように足元に気を配りながら歩みを進める
緊張で歩みが遅かったのか長い時間をかけてたどり着いた泉にチラリと目をやる
「う、わぁ……きれい…」
澄んだ水を湛える泉の中には浮いたり沈んだり、水中を漂っていたりふよふよと動く、物としての境目が見えない様々な色をした何かが池の中に溢れていた
(えっと、何だっけか…水に入れると膨らんで、形がすぐ崩れちゃうやつ…お祭りの時に掬ってとったり、消臭剤の中に入ってたりするあれ、テレビでよく見たなぁ)
場違いにもそんなことを考えてしまう
歩く亀と同じくらいのスピードで泉へと近づき、こくり、と 緊張の為か口に溜まった唾を飲み下す
さっきから鳴り止まない鼓動が私を急かすように身体中にその音を響かせる
「あ…」
池まであと1m、といった所でカラフルなボールたちが瞬きのうちに逃げていく。いつぞやのまっ●ろ●ろすけのようだ
ごめんね、ちょっと覗いてすぐ終わるだけだからね、と心の中で謝りつつ泉を覗き込んだその先にいたのは、肩口まで流れていた金髪でも両親とお揃いの空色の瞳でもない、油を塗りなじませたかのようにてらりと輝く青銅色の長髪と今にも輝き出しそうな緋色の瞳を持つ少女だった
それを見た私は…
「わっ」
驚き、
「ふぅ...」
次の瞬間には気を失っていた
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