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その少女は(??side)
しおりを挟む「ん?」
どこからか音が聞こえてくる
木々の間を通る風切り音でもなく、動物の鳴き声のよう...でもないか。...叫び声?
狩りを嗜んだ帰りの道中、森の中に場違いな声が響く
「奇襲か?」
一緒に来ていた友人のナル...ナルスト・ハートメントが呟き、同伴していた騎士も警戒を強め、私たちを囲むようにその場を固める
「いや、違うと思う。奇襲なら居場所がバレるようなヘマをするか?」
「じゃあ何だと思う?」
「さあ?」
「さあ、って...」
ナルの呆れた声が聞こえてくる気がするが気にしない。分からんもんは分からんからな。今はこの声がどこから、何故聞こえてくるのか、だ。
だんだんと近づいてくる声の発生源。左前方、木々の先。随分遠くに見えてきたのは...鹿?鹿は走りながら鳴けたのか?あれ、首に何かある。首輪...いや、ここは貴族の男らが狩りをするための区域 故に動物が人に慣れないよう手を加える事は許していないから違う。...小さな腕、か?
子供が乗っている?
どうやら鹿の背に乗っている子供がはしゃいでいるのか、叫び声をあげていたようだ
「な~んだ、子供かぁ」
目を細め子供を認識したらしいナルがホッとしたように息を吐き、騎士らの警戒も緩まる。あんなに遠くを走っているが進行方向はここの近くだ。辿り着くまでにも時間があるだろう、あれは操縦できていないだろうから場所を開けるべきか?
「ここはあの鹿の進行方向だ。ぶつからないよう少し先へ歩くか」
「そうするか」
道を開けようと隊列を馬三頭分ほど進める。にしても狩りをしに来た貴族の子供か?親はどうしたんだろうか
...それはいいが、ナルがこちらを見てニヤニヤと笑っているのが目につき気になる。なんだと言うんだ
思わず声をかける
「...なんだ」
「いやぁ~まさか王子様が親や兄以外に道を譲る日が来るとはねぇ~」
「やめろ。...近衛の気が立つと面倒だ」
「へーへー」
後半を小声で呟けば肩を竦めて返される
...こういう砕けて話せる相手、というのは貴重なものなのだが父や教育係はともかく母や近衛の者には理解できないらしく、ただの揶揄いにも殺気立つから手に負えない。もう慣れたが
子供を乗せた鹿が近づいてきたようで周囲の注意もそちらへ引かれる。丁度いい、その顔を覚えて今度の社交でその親に話をふっかけてみるのもまた一興か
そう思い、鹿の通り過ぎ際にちらりと子供を見やる。そして目に飛び込んできたものに驚愕する
銀と青を混ぜた鉱石のような長い髪とその間から覗くのは美しくも少しの可愛らしさを残した幼い顔立ち。そして宙にキラキラと光るものを散らしながら一瞬で通り過ぎてしまった。涙...?泣いている?
私は馬を反転させ走らせた
「?!で、殿下っ!!?」
「おいっ、シド!?」
後から追いついたナルが馬を併走させる
「おい!なんだよ、何かあったのか?!!」
「あれは女の子だ!怖がって泣いていた!!」
「はぁ!!?あの子供馬鹿じゃねえの、親は!?」
「私が知るわけないだろう!」
「貴族の顔全部覚えてるお前がか?じゃああれは貴族の子女じゃねぇのな!」
「あぁ、そうだな。それにあれは魔眼持ちだ!発見者である私には保護義務がある!」
一瞬覗いたあの瞳は緋色...炎か焔か、しかし髪の色は空や銀の様な色だから氷か石系統かもしらぬ、なんの能力か判断がつかなかったが、得も言えぬ感覚が身に走ったのは確かだ。あの瞬間だけでそれだ、今を逃せばどこかで問題を起こすことは必至。捕獲せねば
「魔眼!?まじか~面倒じゃん…」
「つべこべ言わず、第2発見者のお前も走るんだよっ!」
「りょーかいっ!!」
「面倒」と口にしながらも威勢のいい返事を返す友人に頼もしさを感じ軽く笑みを返す
鹿は相当スタミナを消費していたようですぐに追いついた。鹿の左サイドに並び併走する
「おい!お前!!」
「... ぅ、」
「そこの!鹿に乗ってるお転婆なお前だ!!!」
「ぇ...へぇ、ぷ...むぃ...」
静かになっていると思ったら捕まるだけで精一杯の様で途切れ途切れに呻き声が聞こえるだけだ。どうやらスタミナ切れらしい じゃあ叫ぶなよ馬鹿かアホだし間抜けだな
「チッ...足はまだ動くよな?!次にそれが飛んで体が浮くタイミングでこっちに飛べ!分かったか?!!」
いつ落馬?落鹿?するかいつまで持つか分からず焦りで語調も荒くなる
こんな小さい子供だと言葉が理解出来ているかも怪しい為簡単な手振りで「こっちにこい」と示す。最悪の場合ギリギリまで近づいて両脇を抱えて持ち上げるか髪を引っ掴んで浮いたところに片手で脇を抱えるか...どちらも避けたいな...
特に2番目は無理だ。女の髪を触るのはマナー的にも外聞的にもこいつの教育にも良くない
「ぅ...」
呻き声であることは変わらないが微かに頷きを返されその事に安堵する。
よし、じゃあこいつが跳ぶまで俺は馬を併走させてまた何か問題があれば状況を見て対応すればいいか、とここまで考えた所で少女が鹿の上で蹲った
は?まさか吐くのか、不味い、そこまで考えてなかったぞ!?
どう対処しようか頭を巡らせていると、当の少女が──跳んだ
キラキラと輝く不思議な色合いの髪がふわりと舞い、それは天使の翼を彷彿とさせ 薄く開いた瞳からは赤色が覗く
おいお前、鹿の動きに酔ってたんじゃないのか、まず体力大丈夫だったのか、と頭は混乱するも、体は最適な行動を選び 少女を抱きとめた
ふわりと香る太陽と植物の匂い。その香りと少女を助けられた安心ゆえか、ほっと息を吐く。よかった…
馬をゆっくり止め、足が投げ出された状態では辛いだろうと少女を横抱きにする
少女を乗せていた鹿はパニック状態が落ち着いたのか、頭を振りながらこちらへ近づき、「大丈夫か?」とでも言うように少女の顔を覗き込む。
その視線につられるように、私も少女へと目を移す
小さな身体は子供ゆえか、私の腰の高さにも届かないだろう身長に、荒い吐息とドクドクと速い脈動が薄い背中越しに手のひらへと伝わってくる
その身には肌触りのいい大きな布一枚を纏い、肩付近でラベンダー色のブローチで留められているのみだ
その肌は最上級の大理石か、ケーキを彩るホイップの様に白く透き通り美しい
卵型の顔には低めの小さな鼻に桃色の頬と唇、温もりを求めるように小さな額をぐりぐりと押し付けられるが弱々しく、先程見た伏せられた瞼を彩る睫毛は綺麗に生え揃っている
その手は恐怖ゆえか震え、私の服を掴んで離さない
私はその様子に体を動かせないでいた
しばらくして ふと、呼吸を落ち着かせた少女が私の様子を伺うようにそっとこちらを見上げる
私の視線に真っ直ぐに見つめ返すその瞳はよく見ると金で縁取られた緋色をしていて
まさに美術品かのような少女がそこにいた
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