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第二十話 竜人の里
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あれから二日が経ち、無事にアリオンに着いた俺たちは、半日かけて徒歩でアリオンの外れにあるタミラの森まで来ていた。
「レオナ、大丈夫か?」
「うん……」
時折休憩は挟んでいるものの、さすがに歩き疲れてきたのか、少し前から口数が少なくなってきていたレオナに声をかける。
本人は大丈夫だと言っているものの、顔色からも疲れが伺えた。
「……」
さらに歩くこと一時間、時折レオナの様子を気にかけていたが、やはり疲れが出ているように見えた。
「レオナ」
「──?」
俯きがちに後ろを歩くレオナの方に振り向いて彼女を呼ぶと、レオナが顔をあげて不思議そうにこちらを見てきたので、彼女の元へと向かいそのままお姫様抱っこする。
「あっ、レオナさんだけズルいです!」
「おっと」
先程までレオナの隣を歩いていたオリビアが甘えるように後ろから抱きついてくる。
「ルシェフさん、えっと……」
「嫌だったか?」
「……ううん」
レオナも腕の中で大人しくしてくれていたので、このまま竜人の里を目指すことにする。
本当なら、徒歩ではなくジャックさんに運んでもらうのが一番楽であったが、新聞の件があったことと竜人の里行きの馬車が存在しないため、今回は徒歩で向かわざるを得なくなってしまっていた。
「オリビア、歩き辛いから離れてくれ……」
「……」
オリビアは、俺の言葉に沈黙で返してくる。見なくても機嫌が悪くなっているのが雰囲気からわかった。
「ルシェフ、何なら私が代わってあげようか?」
俺がオリビアの対応に困っていると、少し前から俺たちの様子を見ていたアメリアが助け船を出してくれる。
「……」
レオナ的には嫌だったのか、俺に抱きつく腕の力を強くすることで、離れる気がないことを伝えてくる。
「……振られたっぽいかな」
レオナの様子を見たアメリアが愛想笑いを浮かべて前に向き直る。
レオナは少し冷たかったのではないかと気にしているようだったが、アメリアの方は大して気にはしていないようだった。
途中で一度休憩は挟みはしたものの、特に問題なく進み、夕方には竜人の里の麓へと到着した。
「かなり魔素が濃くなってきましたね」
「あぁ」
オリビアが竜人の里が近づくにつれ、魔素が濃くなっていることに気づいたようだ。
レオナも何となくそれを察したようで、周囲の動植物をいつもより注意深く観察している。
「ジャック様、そちらの方々は?」
俺たちが竜人の里に着くと、銀と黒の竜が門の前に立ち塞がり、門番らしき二人のうち、銀の方の竜がオリビアたちの方に目を向けながらジャックさんに声をかけてきた。
ジャックさんに声をかけてきたあの銀の竜は、古竜種のシュタンバウムドラゴンだ。
シュタンバウムドラゴンは、一匹で都市の一つは簡単に落とせるとまで言われている強力な個体だ。
前にここを訪ねてきたときには黒い方の竜は見ていなかったので、種類までは分からないが、恐らくそれなりの個体なのだろう。
「アメリアの知り合いだ。詳細は後で親父から話がある。通してもらっても良いか?」
「はい」
銀の竜がそう言って道を開けると、それに合わせて黒の竜も道を開ける。
ジャックさんとアメリアはどんどんと中に入って行ったので、取り敢えず軽く会釈だけして二人に続く。
他種族がここを訪ねることは珍しいので、道中、すれ違う竜種や竜人達が奇異の視線を送ってくる。
「アメリア!」
暫く進むと、金髪の好青年が大きく手を振りながらアメリアの名を呼んでいる。
彼の名前は、フレディ。竜人の里の住人であり、彼も竜人だが、諸事情でセカンドネームはない。
彼は、アメリアの後ろに続く俺の存在に気づくと、睨むそうな視線を送ってきた。
フレディに関しては、アメリア関連で昔色々とあったので仲が良いとは言えないが、見ず知らずの他人というわけでもないので、会釈だけはしておく。
俺はフレディと面識があるが、二人は彼のことを知らないため、里長の家へと向かいがてら簡単に二人に彼の紹介をした。
「?」
全員で里長の家へと向かう道中、後ろを歩くオリビアが立ち止まったように感じて振り返ると、オリビアが脇道で片膝をついて咳き込む白髪の老人の元へと歩み寄っている。
勿論、俺やジャックさんが通ったときには老人の存在には気づかなかった。
「大丈夫ですか?」
「おぉ、すまないのぅ」
オリビアが老人の元に着くと、老人が立ち上がろうとしていたので、彼女がそれに手を貸そうとする。
「待て、オリビア!」
「おっと」
「⁉︎」
ここにきて老人の正体に気づいた俺が、慌ててオリビアに制止をかけるが一足遅かったようで、老人がわざとらしく倒れ込み、オリビアの足元から上を見上げる。
「っ!」
「ふむ、白か。なかなか良ヴッ……」
オリビアを下から覗き込んでいた老人が最後まで言葉を言い終える前に、耳まで真っ赤になったオリビアに靴底で顔面を踏まれていた。
「……大丈夫か?」
他のメンバーと共に二人の元へと行った俺がオリビアに声をかけると、彼女は俺の元に駆け寄り、そのまま後ろに隠れてしまう。
「親父……」
ジャックさんも呆れ顔でオリヴァーさんを見下ろす。
彼の名前はオリヴァー・ハーヴィー。アメリアの祖父に当たる人物であり、竜人の里の里長だ。今は人化を用いて老人の姿をしているが、彼の正体は南の国の神話にも登場する邪竜である。
彼の邪竜としての戦闘力の高さもさることながら、その影響力を活かした統治によって、数人の竜人がいるだけだった竜人の里は、他国からの竜人の移民などで今や人口百人を越える一集落として発展していた。
まぁ、今の彼の振るまいを見る限り、邪竜としての要素など欠片もないように見えるが。
「おぉ、アメリアよ。息災であったか?」
「……」
オリビアがいなくなったことで立ち上がることのできたオリヴァーが孫娘の存在に気づいてにこやかに彼女に声をかける。
アメリアは特にそれに答えるようなことをせず、自身の祖父に氷点下の如く冷たい視線を浴びせていた。
紆余曲折あったものの、オリヴァーも加えて全員で里長宅に向かう。
「わぁ、人間だ~!」
俺たちが里長宅に到着したところで、付近で遊んでいた三人の竜人の子供が俺たちの元に駆けてきた。
「ねぇ、おばちゃん。この人たち誰~?」
竜人の子供の一人が、無邪気な笑顔でアメリアにそう尋ねてくる。
「中央の国の冒険者だよ。少しの間こっちで過ごすんだ」
アメリアがおばちゃんという単語に反応して一瞬殺気を漏らすものの、何とか笑顔を保ったままそう答えた。
「そうなんだ~」
アメリアと竜人の子供たちが少し不穏な空気を孕みながらも和気藹々と話すなか、一人の子供がレオナの元に来た。
「お姉ちゃんも人間なの?」
どうやら、この竜人の子供はレオナと俺たちの違いに気付いているようだ。
「ううん、私はエルフだよ。少し前にこっちに来たんだ」
言いながら、子供と目線を合わせるために屈んでいたレオナが子供の頭を撫でる。
「そんなんだ!何かこまったら、俺に言えよ。全部解決してやるからな!」
「可愛い……」
「……」
随分と微笑ましい光景であったが、アメリアだけはそれを無の表情で見つめていた。
「……姿は子供に見えるかもしれないけど、その子は五十年位は生きてるからね」
「!?」
アメリアの衝撃的な発言に、思わず子供を撫でていたレオナの手が止まる。
そう、竜人という種族は、人間よりも強靭な肉体を持ち、長寿であることで有名だ。
竜人の長寿であるというのは、成長が遅いとも言うことができ、五十年生きたくらいでは、人間の五歳児とも見分けがつかない。
「──?どうかしたの?」
「……何でもないよ」
竜人の子供の問いにレオナは優しい声で答えるが、動揺を隠しきれていなかった。
その後は、積もる話もあるので子供たちと別れて里長宅に入れてもらう。
そこで、ジャックさんが事情を説明してくれて暫く滞在する許可も得られたので、アメリアたっての希望で、少しの間ジャックさん宅でお世話になることになった。
「この後はどうしますか?」
里長の家を出た後、オリビアがそう尋ねてきた。
「今日は歩きっぱなしだったし、明日連携も兼ねて近くのダンジョンの下見に行こうと思う」
本当なら、何らかの依頼を受けておきたかったが、適当なものもなかったからな。
「じゃあ、この後は暇だよね!」
「あぁ」
無駄にテンションの高くなったアメリアに少し動揺しながらも、それに同意する。
「それなら、少し行きたいところがあるんだけど」
俺の言葉を聞いたアメリアは、嬉々としてそう告げた。
「レオナ、大丈夫か?」
「うん……」
時折休憩は挟んでいるものの、さすがに歩き疲れてきたのか、少し前から口数が少なくなってきていたレオナに声をかける。
本人は大丈夫だと言っているものの、顔色からも疲れが伺えた。
「……」
さらに歩くこと一時間、時折レオナの様子を気にかけていたが、やはり疲れが出ているように見えた。
「レオナ」
「──?」
俯きがちに後ろを歩くレオナの方に振り向いて彼女を呼ぶと、レオナが顔をあげて不思議そうにこちらを見てきたので、彼女の元へと向かいそのままお姫様抱っこする。
「あっ、レオナさんだけズルいです!」
「おっと」
先程までレオナの隣を歩いていたオリビアが甘えるように後ろから抱きついてくる。
「ルシェフさん、えっと……」
「嫌だったか?」
「……ううん」
レオナも腕の中で大人しくしてくれていたので、このまま竜人の里を目指すことにする。
本当なら、徒歩ではなくジャックさんに運んでもらうのが一番楽であったが、新聞の件があったことと竜人の里行きの馬車が存在しないため、今回は徒歩で向かわざるを得なくなってしまっていた。
「オリビア、歩き辛いから離れてくれ……」
「……」
オリビアは、俺の言葉に沈黙で返してくる。見なくても機嫌が悪くなっているのが雰囲気からわかった。
「ルシェフ、何なら私が代わってあげようか?」
俺がオリビアの対応に困っていると、少し前から俺たちの様子を見ていたアメリアが助け船を出してくれる。
「……」
レオナ的には嫌だったのか、俺に抱きつく腕の力を強くすることで、離れる気がないことを伝えてくる。
「……振られたっぽいかな」
レオナの様子を見たアメリアが愛想笑いを浮かべて前に向き直る。
レオナは少し冷たかったのではないかと気にしているようだったが、アメリアの方は大して気にはしていないようだった。
途中で一度休憩は挟みはしたものの、特に問題なく進み、夕方には竜人の里の麓へと到着した。
「かなり魔素が濃くなってきましたね」
「あぁ」
オリビアが竜人の里が近づくにつれ、魔素が濃くなっていることに気づいたようだ。
レオナも何となくそれを察したようで、周囲の動植物をいつもより注意深く観察している。
「ジャック様、そちらの方々は?」
俺たちが竜人の里に着くと、銀と黒の竜が門の前に立ち塞がり、門番らしき二人のうち、銀の方の竜がオリビアたちの方に目を向けながらジャックさんに声をかけてきた。
ジャックさんに声をかけてきたあの銀の竜は、古竜種のシュタンバウムドラゴンだ。
シュタンバウムドラゴンは、一匹で都市の一つは簡単に落とせるとまで言われている強力な個体だ。
前にここを訪ねてきたときには黒い方の竜は見ていなかったので、種類までは分からないが、恐らくそれなりの個体なのだろう。
「アメリアの知り合いだ。詳細は後で親父から話がある。通してもらっても良いか?」
「はい」
銀の竜がそう言って道を開けると、それに合わせて黒の竜も道を開ける。
ジャックさんとアメリアはどんどんと中に入って行ったので、取り敢えず軽く会釈だけして二人に続く。
他種族がここを訪ねることは珍しいので、道中、すれ違う竜種や竜人達が奇異の視線を送ってくる。
「アメリア!」
暫く進むと、金髪の好青年が大きく手を振りながらアメリアの名を呼んでいる。
彼の名前は、フレディ。竜人の里の住人であり、彼も竜人だが、諸事情でセカンドネームはない。
彼は、アメリアの後ろに続く俺の存在に気づくと、睨むそうな視線を送ってきた。
フレディに関しては、アメリア関連で昔色々とあったので仲が良いとは言えないが、見ず知らずの他人というわけでもないので、会釈だけはしておく。
俺はフレディと面識があるが、二人は彼のことを知らないため、里長の家へと向かいがてら簡単に二人に彼の紹介をした。
「?」
全員で里長の家へと向かう道中、後ろを歩くオリビアが立ち止まったように感じて振り返ると、オリビアが脇道で片膝をついて咳き込む白髪の老人の元へと歩み寄っている。
勿論、俺やジャックさんが通ったときには老人の存在には気づかなかった。
「大丈夫ですか?」
「おぉ、すまないのぅ」
オリビアが老人の元に着くと、老人が立ち上がろうとしていたので、彼女がそれに手を貸そうとする。
「待て、オリビア!」
「おっと」
「⁉︎」
ここにきて老人の正体に気づいた俺が、慌ててオリビアに制止をかけるが一足遅かったようで、老人がわざとらしく倒れ込み、オリビアの足元から上を見上げる。
「っ!」
「ふむ、白か。なかなか良ヴッ……」
オリビアを下から覗き込んでいた老人が最後まで言葉を言い終える前に、耳まで真っ赤になったオリビアに靴底で顔面を踏まれていた。
「……大丈夫か?」
他のメンバーと共に二人の元へと行った俺がオリビアに声をかけると、彼女は俺の元に駆け寄り、そのまま後ろに隠れてしまう。
「親父……」
ジャックさんも呆れ顔でオリヴァーさんを見下ろす。
彼の名前はオリヴァー・ハーヴィー。アメリアの祖父に当たる人物であり、竜人の里の里長だ。今は人化を用いて老人の姿をしているが、彼の正体は南の国の神話にも登場する邪竜である。
彼の邪竜としての戦闘力の高さもさることながら、その影響力を活かした統治によって、数人の竜人がいるだけだった竜人の里は、他国からの竜人の移民などで今や人口百人を越える一集落として発展していた。
まぁ、今の彼の振るまいを見る限り、邪竜としての要素など欠片もないように見えるが。
「おぉ、アメリアよ。息災であったか?」
「……」
オリビアがいなくなったことで立ち上がることのできたオリヴァーが孫娘の存在に気づいてにこやかに彼女に声をかける。
アメリアは特にそれに答えるようなことをせず、自身の祖父に氷点下の如く冷たい視線を浴びせていた。
紆余曲折あったものの、オリヴァーも加えて全員で里長宅に向かう。
「わぁ、人間だ~!」
俺たちが里長宅に到着したところで、付近で遊んでいた三人の竜人の子供が俺たちの元に駆けてきた。
「ねぇ、おばちゃん。この人たち誰~?」
竜人の子供の一人が、無邪気な笑顔でアメリアにそう尋ねてくる。
「中央の国の冒険者だよ。少しの間こっちで過ごすんだ」
アメリアがおばちゃんという単語に反応して一瞬殺気を漏らすものの、何とか笑顔を保ったままそう答えた。
「そうなんだ~」
アメリアと竜人の子供たちが少し不穏な空気を孕みながらも和気藹々と話すなか、一人の子供がレオナの元に来た。
「お姉ちゃんも人間なの?」
どうやら、この竜人の子供はレオナと俺たちの違いに気付いているようだ。
「ううん、私はエルフだよ。少し前にこっちに来たんだ」
言いながら、子供と目線を合わせるために屈んでいたレオナが子供の頭を撫でる。
「そんなんだ!何かこまったら、俺に言えよ。全部解決してやるからな!」
「可愛い……」
「……」
随分と微笑ましい光景であったが、アメリアだけはそれを無の表情で見つめていた。
「……姿は子供に見えるかもしれないけど、その子は五十年位は生きてるからね」
「!?」
アメリアの衝撃的な発言に、思わず子供を撫でていたレオナの手が止まる。
そう、竜人という種族は、人間よりも強靭な肉体を持ち、長寿であることで有名だ。
竜人の長寿であるというのは、成長が遅いとも言うことができ、五十年生きたくらいでは、人間の五歳児とも見分けがつかない。
「──?どうかしたの?」
「……何でもないよ」
竜人の子供の問いにレオナは優しい声で答えるが、動揺を隠しきれていなかった。
その後は、積もる話もあるので子供たちと別れて里長宅に入れてもらう。
そこで、ジャックさんが事情を説明してくれて暫く滞在する許可も得られたので、アメリアたっての希望で、少しの間ジャックさん宅でお世話になることになった。
「この後はどうしますか?」
里長の家を出た後、オリビアがそう尋ねてきた。
「今日は歩きっぱなしだったし、明日連携も兼ねて近くのダンジョンの下見に行こうと思う」
本当なら、何らかの依頼を受けておきたかったが、適当なものもなかったからな。
「じゃあ、この後は暇だよね!」
「あぁ」
無駄にテンションの高くなったアメリアに少し動揺しながらも、それに同意する。
「それなら、少し行きたいところがあるんだけど」
俺の言葉を聞いたアメリアは、嬉々としてそう告げた。
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