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第十九話 西の国入り
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昼食後は、完全復帰したアメリアを含めた全員でショッピングに繰り出し、簡単に夕食を済ませて一度自室へと戻ってきた俺は、すぐにレオナの部屋へと向かう。
途中、アメリアが身バレしそうになったりとハプニングはあったものの、特に問題もなくショッピングを終えることができていた。
一度部屋へと戻ったのは、アメリアやオリビアの目を外すためだ。俺たちが出かけるのを知れば二人ともついてきかねなかったし、レオナとは出来れば二人で話かったからな。
「はい」
レオナの部屋に着いた俺が扉をノックすると、すぐに返事が返ってきた。
「今、良いか?」
「うん」
彼女の返事を聞いてから扉を開けると、レオナが丁度椅子から立ち上がったところだった。
レオナは風呂上がりだからか、自身の髪をルーズポニーテールに纏めていた。
風呂上がりだし、外に連れ出すのは避けた方が良さそうだな……。
「邪魔したか?」
「ううん、大丈夫。それより、どうかしたの?」
「少し話がしたかっただけだよ」
「そう」
レオナに座るように促されたので、彼女の隣の椅子に座る。
「そういえば、レオナも船初めてだったよな」
「うん……?」
俺の言葉を聞いたレオナが俺の意図を察しようとして不思議そうに首を傾げる。
「アメリアは船酔いキツかったみたいだけど、レオナは大丈夫か?」
「……うん」
レオナの表情が、時折見せるようになった辛そうな表情になる。やはり、アメリア関連で間違いなさそうだ。
「……アメリアは苦手か?」
「ううん。アメリアさんは良い人だよ。だからこそ、辛いんだけどね」
言い辛そうにそう聞くと、俺の意図を理解したレオナは、そう言いながら眉を下げた。
「……」
「──ルシェフさん、アメリアさんのこと好きでしょ?」
どう聞き出そうか頭を悩ませる俺に、レオナは唐突にそう切り出してきた。
「っ」
レオナからの思いがけない言葉に驚きながらも、すぐに返答を考える。
「……昔の話だよ。それに、どちらかと言えば欽慕の方が強い」
別にやましいことがあるわけではなかったが、考えて出た言葉は言い訳染みたものにしかならなかった。
「否定はしないんだね……」
言いながら、レオナが自嘲気味な笑みを浮かべる。
「事実だからな。それに、今は君のことを愛してる」
「本当に?」
レオナが不安そうに俺の目を覗き込んでくる。
「あぁ。それを証明できるから、少し目を閉じていてくれるか?」
「うん」
不思議そうな顔をしながらも、レオナは素直に目を閉じた。
レオナが目を閉じたことを確認し、【四次元空間】からあるものを取り出す。
「右手を出してくれ」
レオナが右手を出すと、用意していたものを彼女の右手に着ける。
「もういいよ」
レオナは目を開けるや否や、自身の右手に目を向けて瞳を輝かせた。
「ルシェフさん、これって……!」
「真金剛石のブレスレットだ。本当なら、もう少し状況を選んで渡したかったんだけどな」
嘘だ。単に臆病風に吹かれて渡せなかっただけだ。
「ありがと」
花の咲いたような笑みを浮かべたレオナが、浴用洗剤の匂いを引き連れ、力一杯に抱きついてくる。
暫くドキマギとしていると、満足したのかレオナがそっと離れた。
「それにしても、これ、いつ買ったの?」
「買ってないよ。前に真金剛石の生成をしたときに見惚れているようだったから、これで何か作れないかと思って」
「そうなんだ」
アメリアとの不仲が心配だったが、それも杞憂のようだったので、機嫌のいい彼女と少し話した後、自室へと戻った。
◇ ◇ ◇
翌朝目を覚ますと、未だに隣で寝ているレオナの頬に軽く唇を落としてベッドから降りる。
「うぅ……」
俺がお湯を沸かし終えて珈琲を淹れている所でレオナが目を覚ましたようだ。
「おはよう、レオナ」
「ルシェフさん、おはよぅ……」
俺が珈琲片手にベッドに戻ると、まだ寝ぼけている様子のレオナが甘えるように抱きついてきた。
「珈琲飲むか?」
「ぅん……」
昨日遅くまで起きていたからか、抱きついたまま再び眠り始めたレオナからそっと離れ、彼女の分の珈琲も用意する。
暫くして、集合時間前に完全に目を覚ましたレオナと共に朝食へと向かった。
全員揃ったところで朝食を摂り、その後船旅を満喫した俺たちは、その翌日の朝には予定通りに西の国のアクスィオに到着した。
「それで、これからどうするの?」
船を降りた後、今後の予定を話していたときに軽く居眠りしていたアメリアにそう尋ねられた。昨日は、それなりに話し込んでいたから、眠気を押さえきれなかったんだろうな。オリビアも何回か寝そうになってたし。
「先ずは適当なギルドで俺たちの冒険者登録を済ませて、西の国での活動が出来るようにする」
アクスィオにも冒険者ギルドはあるので、今はそこに向かっていた。
「それからは?」
「魔石の回収だ」
当初からの予定だと、西の国でアメリア達と合流した後、西の国の闇市に売り払われたと思われる、オリビア追放の原因となった魔石を回収するつもりだった。
俺的には、この先どう話が転ぼうと魔石の回収は必須事項だしな。
因みに、この話も今後の予定を話していたときに話している。単にアメリアが聞いていなかっただけだ。
アクスィオの冒険者ギルドへと着いた俺たちは、そこで冒険者登録を行う。その際、アメリアは目立つので席を外してもらっていた。
《西の国の悪魔》の西の国入りに驚いた受付の人間が騒ぎそうになるハプニングはあったものの、無事に冒険者登録を済ませる。
「適当な依頼でも受けていくか?」
「いえ、良さそうな依頼がなかったので、このまま真っ直ぐに二人の故郷である竜人の里へ向かいます。あそこなら、人間が近づくことはあまりないでしょうから。向こうに着いたら、手はず通りに竜人の方達に口添えをお願いできますか?」
「あぁ、親父にも話しておく」
「助かります」
ジャックさんの父親、つまりアメリアの祖父に当たる人物だが、少し性格に難があるものの、彼は南の国の伝承にも登場する伝説の邪竜であり、竜人の里の里長だ。
そんな彼が一声かけてくれるのなら、俺たちの身の安全は保証されたようなものだろう。
「一度馬車を手配しましょう。荷台にいる間は安全でしょうから」
一先ず、俺とジャックさんを筆頭に二手に別れて馬車の手配と食料の買い出しをする。
馬車を手配した後は、ジャックさん達と合流して竜人の里があるアリオンという都市を目指す。
ここからアリオンまでは馬車で二日の距離だ。アクスィオの表通りを馬車が悠々と進むなか、頃合いを見てジャックさんたちが買ってきてくれたもので簡単に昼食を済ませ、その日の夜には適当な宿を見つけてそこに泊まることにする。
この後も部屋割りで揉めたり、何故か鉢合わせたカニ男に喧嘩を売られたり、酔った《饒舌の魔女》が騒いだりしていたが、大きな問題もなく、無事に夜を明かした。
まるで追ってきているのではないかという頻度で遭遇するカニ男に、本当に追ってきているのではないかと少し邪推をしてしまうが、十中八九杞憂だろう。カニ男だしな。
途中、アメリアが身バレしそうになったりとハプニングはあったものの、特に問題もなくショッピングを終えることができていた。
一度部屋へと戻ったのは、アメリアやオリビアの目を外すためだ。俺たちが出かけるのを知れば二人ともついてきかねなかったし、レオナとは出来れば二人で話かったからな。
「はい」
レオナの部屋に着いた俺が扉をノックすると、すぐに返事が返ってきた。
「今、良いか?」
「うん」
彼女の返事を聞いてから扉を開けると、レオナが丁度椅子から立ち上がったところだった。
レオナは風呂上がりだからか、自身の髪をルーズポニーテールに纏めていた。
風呂上がりだし、外に連れ出すのは避けた方が良さそうだな……。
「邪魔したか?」
「ううん、大丈夫。それより、どうかしたの?」
「少し話がしたかっただけだよ」
「そう」
レオナに座るように促されたので、彼女の隣の椅子に座る。
「そういえば、レオナも船初めてだったよな」
「うん……?」
俺の言葉を聞いたレオナが俺の意図を察しようとして不思議そうに首を傾げる。
「アメリアは船酔いキツかったみたいだけど、レオナは大丈夫か?」
「……うん」
レオナの表情が、時折見せるようになった辛そうな表情になる。やはり、アメリア関連で間違いなさそうだ。
「……アメリアは苦手か?」
「ううん。アメリアさんは良い人だよ。だからこそ、辛いんだけどね」
言い辛そうにそう聞くと、俺の意図を理解したレオナは、そう言いながら眉を下げた。
「……」
「──ルシェフさん、アメリアさんのこと好きでしょ?」
どう聞き出そうか頭を悩ませる俺に、レオナは唐突にそう切り出してきた。
「っ」
レオナからの思いがけない言葉に驚きながらも、すぐに返答を考える。
「……昔の話だよ。それに、どちらかと言えば欽慕の方が強い」
別にやましいことがあるわけではなかったが、考えて出た言葉は言い訳染みたものにしかならなかった。
「否定はしないんだね……」
言いながら、レオナが自嘲気味な笑みを浮かべる。
「事実だからな。それに、今は君のことを愛してる」
「本当に?」
レオナが不安そうに俺の目を覗き込んでくる。
「あぁ。それを証明できるから、少し目を閉じていてくれるか?」
「うん」
不思議そうな顔をしながらも、レオナは素直に目を閉じた。
レオナが目を閉じたことを確認し、【四次元空間】からあるものを取り出す。
「右手を出してくれ」
レオナが右手を出すと、用意していたものを彼女の右手に着ける。
「もういいよ」
レオナは目を開けるや否や、自身の右手に目を向けて瞳を輝かせた。
「ルシェフさん、これって……!」
「真金剛石のブレスレットだ。本当なら、もう少し状況を選んで渡したかったんだけどな」
嘘だ。単に臆病風に吹かれて渡せなかっただけだ。
「ありがと」
花の咲いたような笑みを浮かべたレオナが、浴用洗剤の匂いを引き連れ、力一杯に抱きついてくる。
暫くドキマギとしていると、満足したのかレオナがそっと離れた。
「それにしても、これ、いつ買ったの?」
「買ってないよ。前に真金剛石の生成をしたときに見惚れているようだったから、これで何か作れないかと思って」
「そうなんだ」
アメリアとの不仲が心配だったが、それも杞憂のようだったので、機嫌のいい彼女と少し話した後、自室へと戻った。
◇ ◇ ◇
翌朝目を覚ますと、未だに隣で寝ているレオナの頬に軽く唇を落としてベッドから降りる。
「うぅ……」
俺がお湯を沸かし終えて珈琲を淹れている所でレオナが目を覚ましたようだ。
「おはよう、レオナ」
「ルシェフさん、おはよぅ……」
俺が珈琲片手にベッドに戻ると、まだ寝ぼけている様子のレオナが甘えるように抱きついてきた。
「珈琲飲むか?」
「ぅん……」
昨日遅くまで起きていたからか、抱きついたまま再び眠り始めたレオナからそっと離れ、彼女の分の珈琲も用意する。
暫くして、集合時間前に完全に目を覚ましたレオナと共に朝食へと向かった。
全員揃ったところで朝食を摂り、その後船旅を満喫した俺たちは、その翌日の朝には予定通りに西の国のアクスィオに到着した。
「それで、これからどうするの?」
船を降りた後、今後の予定を話していたときに軽く居眠りしていたアメリアにそう尋ねられた。昨日は、それなりに話し込んでいたから、眠気を押さえきれなかったんだろうな。オリビアも何回か寝そうになってたし。
「先ずは適当なギルドで俺たちの冒険者登録を済ませて、西の国での活動が出来るようにする」
アクスィオにも冒険者ギルドはあるので、今はそこに向かっていた。
「それからは?」
「魔石の回収だ」
当初からの予定だと、西の国でアメリア達と合流した後、西の国の闇市に売り払われたと思われる、オリビア追放の原因となった魔石を回収するつもりだった。
俺的には、この先どう話が転ぼうと魔石の回収は必須事項だしな。
因みに、この話も今後の予定を話していたときに話している。単にアメリアが聞いていなかっただけだ。
アクスィオの冒険者ギルドへと着いた俺たちは、そこで冒険者登録を行う。その際、アメリアは目立つので席を外してもらっていた。
《西の国の悪魔》の西の国入りに驚いた受付の人間が騒ぎそうになるハプニングはあったものの、無事に冒険者登録を済ませる。
「適当な依頼でも受けていくか?」
「いえ、良さそうな依頼がなかったので、このまま真っ直ぐに二人の故郷である竜人の里へ向かいます。あそこなら、人間が近づくことはあまりないでしょうから。向こうに着いたら、手はず通りに竜人の方達に口添えをお願いできますか?」
「あぁ、親父にも話しておく」
「助かります」
ジャックさんの父親、つまりアメリアの祖父に当たる人物だが、少し性格に難があるものの、彼は南の国の伝承にも登場する伝説の邪竜であり、竜人の里の里長だ。
そんな彼が一声かけてくれるのなら、俺たちの身の安全は保証されたようなものだろう。
「一度馬車を手配しましょう。荷台にいる間は安全でしょうから」
一先ず、俺とジャックさんを筆頭に二手に別れて馬車の手配と食料の買い出しをする。
馬車を手配した後は、ジャックさん達と合流して竜人の里があるアリオンという都市を目指す。
ここからアリオンまでは馬車で二日の距離だ。アクスィオの表通りを馬車が悠々と進むなか、頃合いを見てジャックさんたちが買ってきてくれたもので簡単に昼食を済ませ、その日の夜には適当な宿を見つけてそこに泊まることにする。
この後も部屋割りで揉めたり、何故か鉢合わせたカニ男に喧嘩を売られたり、酔った《饒舌の魔女》が騒いだりしていたが、大きな問題もなく、無事に夜を明かした。
まるで追ってきているのではないかという頻度で遭遇するカニ男に、本当に追ってきているのではないかと少し邪推をしてしまうが、十中八九杞憂だろう。カニ男だしな。
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