Sランクギルドの主力メンバーやっていた少女が追放されたので、うちのパーティーに引き抜こうと思う

五月雨蛍

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第二十八話 昔話

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「レオナか、こんな時間にどうかしたのか?」
「ちょっと話したいことがあって……入ってもいい?」
「あぁ」
 小さく扉の開く音が聞こえ、レオナがそっと部屋に入ってくる。時間帯が遅いため、周囲の部屋の人間を起こさないようにという配慮だろう。

「それで、話したいことって?」
「──ルシェフさんは、どこまで知ってるの?」
「何の話だ?」
 レオナの表情から、何の話かはわかっていたが、念のためにそう尋ねる。

「《厄災の魔女》について」
「……別に、そこまで詳しくはないよ。むしろ、君の方が詳しいんじゃないか?」
「嘘。何か隠してる」
 レオナが俺の瞳を覗き込む。ライトグリーンの瞳越しに、虚を突かれたように少し目を見開く俺の顔が見えた。

「別に、嘘は吐いていないよ。《厄災の魔女》のことに関しては、君の方が詳しいはずだ……いや、言い方が悪かった。正直に話すよ」
 途中、レオナが珍しくむくれていたので、少し慌てて言葉を変える。

「レオナ、“泡沫の君”って言葉に聞き覚えはあるか?」
「……」
 俺が“泡沫の君”と言った瞬間、レオナの瞳孔が少し大きくなる。

「……一応、ある」
 やや間を置いてから、レオナは少し俯きがちにポツリとそう呟いた。

「なら、話が早い。俺が知っているのは“泡沫の君”のことで、《厄災の魔女》については、伝承以上のことは知らないんだ」
「……そう」

「レオナ、“泡沫の君”と《厄災の魔女》の関係につい──」
「嫌だ」
 俺が言葉を言い終える前に、顔を上げたレオナが俺の目を真っ直ぐに見つめながらはっきりとそう告げた。普段遠慮がちな彼女からしたら、少し珍しい否定の仕方だ。

「……理由を聞いても?」
「嫌だから」
 レオナは俺の目を見つめたまま、頑なにそう告げる。彼女の意思は硬そうだ。

「どうしても話せないのか?何か不都合な事でもあるのか?何故、理由をか──」
 レオナの両肩に手をかけ、矢継ぎ早に質問攻めしてしまう。

「……ルシェフさん?」
 その最中、レオナが少し怯えたように俺の目を覗き込んできていることに気づいた。

「……悪い、少し取り乱した」
 まだ少し酔いが残っているのかもしれないな。

「大丈夫?私が【精霊融解】を使った後も少し様子が変だったよ?」
「……大丈夫だ」
 ここにきて、少し勘違いをしていたことに気づく。レオナは、別に《厄災の魔女》のことを話したり知ろうとして来たわけではなく、単に俺を心配して訪ねてきてくれていたみたいだ。
 ──それにしても、【精霊融解】についての知識まであるのか……。

「レオナ、もう少し付き合ってくれるか?」
「うん」
 レオナが頷いたところで、席を立って紅茶を淹れることにする。レオナはレオナで、バッグから箱詰めされていたクッキーを取り出していた。

「──これは、今よりもずっと昔の事だ」
「うん」

「その世界では人間と魔族による争いが絶えず起こり、当時の戦争は個の戦闘力でも軍の規模でもなく、武器の性能が勝敗を左右していた」
「……」
 レオナは特に何を語るでもなく、そっと耳を傾けてくれていた。

「ある日、神器と呼ばれる最上位の武器が各国の城から突如として消失した。神器には自身が使い手を選ぶ性質があるため、各国の王は不思議に思いながらも対して気にはしてなかった」

「それからすぐに、【魔杖ラプシヌクル】という神器を手にした魔王が、神器に選ばれた四人の魔族に命令を出し、彼らは自身の神器を用いて各地への侵略を開始した」

「ありがと」
 紅茶の入ったカップをレオナに渡し、彼女の隣に腰かける。

「魔王に対抗するために【聖剣ダインスレイヴ】に選ばれた一人の勇者が、三人の仲間と共に魔王討伐へと繰り出す。神器持ちの魔族との戦いの中でいくつかの疑念を抱きながらも、彼らは順調に魔族を討伐して神器を回収する」
 実際、順調にとは行かなかったが、そこを深く掘り下げる必要はないだろう。神器に選ばれた魔族の一人、《烈火のダヴィド》に勝てたのは、聖剣が持つ破格の能力のおかげでしかないからな。

「そして、とうとう魔王城へと奇襲をかけ、激戦の末に魔王を討ち滅ぼした」

「魔王を討伐するにあたり、仲間の騎士と魔法使いと僧侶の三人は戦死。勇者はやり処のない虚無感に際悩まされながらも帰路に就くが、魔王城を出ようとたところで、黒い鎧に身を包んだ騎士が自身の神器を手に襲いかかってきた」

「……このクッキー旨いな」
「でしょ」
 俺の言葉に、レオナは相づちを打ちながら満足げに頷く。

「勇者は黒騎士の戦闘型や立ち回りに既知感を覚え、相手との対話を試みるも失敗。それでも、彼は戦いの中で敵の正体に思い至る」
「彼の予想通り、黒騎士の正体は幼少期に自身と共に剣術を学んでいた幼馴染みの少女だった。これは後で気づいたことだったが、戦闘中の彼女は【音声変換ボイスチェンジャー】で声を変えていた」
 多分、聖剣の能力を知った上での行動だったのだろうが。

「……」
 レオナが神妙な面持ちで俺の話に耳を傾けるなか、俺は自身のカップに注がれた紅茶を一思いに飲む。

「ただ、そのときの勇者は既に聖剣の能力を
 【聖剣ダインスレイヴ】の能力は至ってシンプルなもので、【治癒阻害】と【不可避の一閃】、そして鞘から抜いたが最後必ず誰かを死に追いやる呪い【血の連鎖アナヴァイダヴル・スローター】」
「──つまり、彼が黒騎士の正体に気づいたところで、何もかもが遅かった」

「大丈夫。ただの昔話だ」
 少し心配そうに俺の顔を覗き込んでくるレオナに、軽く笑みを作ってそう伝える。

「うん……」
「結果的に勇者は幼馴染みを手にかける。そして、未だに淡く発光する彼女の神器も回収し、王都へと帰還した。
 それから、勇者は表舞台から姿を消し、外界から身を遠ざけたが、どれだけ外界から身を遠ざけようと、黒騎士かのじょの最後に発した言葉が、彼の頭から離ることはなかった」
 実際には、それから二年後に再び彼は表舞台に駆り出されるが、それも話す必要はないだろう。

 レオナに大丈夫だと伝えるために、心配そうな表情でゆっくりと俺の背中を擦っていた彼女の頭を軽く撫でる。
 撫でられて目を細める彼女に、思わず頬が少しだけ緩んだことを自覚した。

「結局、勇者は自身が死ぬその瞬間まで、彼女が最後に言った言葉の意味も、彼女が持っていた神器が彼を選んだ意味もわからず終いだったんだ」
「……彼女は最後になんて言ったの?」

「たった一言、“ごめんね”とだけ」
 それが何に対する謝罪だったのか、それだけは自我を取り戻してからも、転生した今になってもわからず終いだった。

「悪い、退屈だったよな。少し悪酔いしてたみたいだ」
 少し《饒舌の魔女》の悪癖が移ってしまったのかもしれないな……。

「ううん。大丈夫」
 愛想笑いを浮かべる俺に、レオナはそう返してくれる。

「……ルシェフさん」
「何だ?」
 少しの間何か考えている様子だったレオナに声をかけられる。

「少なくても、私はルシェフさんの求める答えについても、その手がかりについても、何も知らないから……ごめんなさい」
「そうか」
 申し訳なさそうに俯く彼女の頭を撫でる。嘘は吐いていないだろうし、知らないと言うなら仕方がないだろう。
 俺もレオナが何を知っているのかさえ良くわかっていないので、変に邪推するのも悪いか。

「……うん。それだけ」
「明日も早いし、そろそろ寝るか」
「うん」
 明日はギルドに換金に向かうだけだが、査定にも時間がかかるので、適当な依頼があればそれを受けるつもりだ。

 俺の予想が正しければ、当時のパーティーメンバーや神器持ちだった魔族もこの世界に集められているはずだが、先ずは目先のことに集中しよう。
 この世界は広いし、彼らにもそうそう会えはしないだろうからな。ただ、幼馴染みの少女には積もる話もあったので、すぐにでも会いたいという願望が、転生後の今も残っていた。
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