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第二十九話 魔石売却
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「目覚めましたか?」
目を覚ますと、見渡す限り灰色の空間に居た。何処からか、聞き覚えのない澄みきった女性の声が聞こえてくる。
「──誰だ?何処にいる」
俺がそう尋ねると、声の主は自分が女神であることと、ここから遠く離れた所にいること、そして俺が死んだことを明かした。
言われて思い出してみると、確かに俺には死んだ覚えがあった。
「ここは何処だ──この状況は何だ!」
少し怒気を含んだ声でそう尋ねる。少なくても、俺は神という存在を信用してはいないし、もし神が存在するのなら、奴の顔面に渾身の右ストレートを叩き込みたい気分だった。
「ここは、何処でもない場所です。強いて言うなら、貴方の中でしょうか。この度は、貴方を私の世界に勧誘するためにお声かけさせて頂きました」
俺に物怖じすることもなく、自称女神は淡々とそう告げた。
「ふざけるな‼︎俺はもう勇者なんてやるつもりはないぞ!」
「可哀想に信仰不信になられているのですね……」
怒鳴り散らす俺を哀れむように、自称女神はそう漏らす。
「誰のせいだと思っている!もし神が存在するのなら、あんな救いのない結末にはならなかった!魔族と俺たちが争う必要もなければ、アルサムやゲオギオスたちは死なずに済んだし、ヴィオラが死ぬ必要もなかったんだ‼︎お前たちのせいで…フィオナも──っ‼︎」
涙ながらにそう訴える途中からむせ返り、フィオナの最後を思い出すと、嗚咽から話すこともままならなくなる。
「魔族と俺たちとの争いがなければ、フィオナが自殺することもなかったんだ!」
一回呼吸を整え、何処にいるのかもわからない自称女神にそう吠える。これだけは、言っておかないと気が済まなかったからだ。
「……」
何を思っているかは知らないが、俺の言葉を自称女神はただ黙って聞いていた。
「──貴方には、私のいる世界に来て頂きます」
やがて重い口を開ける自称女神は、あくまでも淡々とそう告げる。
「……ですが、貴方もそれでは納得しないでしょう。なので、転生するに当たり、貴方の生前の記憶を消させて頂きます。その上で転生して頂き、貴方が勇者としての能力を望んだときに、貴方の記憶と能力を貴方に再度授けましょう」
「ふざけるな!もう俺は──」
「これは、決定事項です。それに、貴方は近い将来能力を望む日が来るでしょうから」
拒否する権利はないとでもいうように、俺の言葉に重ねて女神がそう告げた。
「最後に、貴方の魂に救いがあらんことを……」
◇ ◇ ◇
「──シェフさん、ルシェフさん!」
目を覚ましてすぐ、少し焦った様子で寝ていた俺の肩を揺さぶるレオナが目に入る。
「──レオナか?」
「うん。大丈夫?」
「あぁ」
どうやら、夢を見ていたようだ。レオナが、そっとハンカチで俺の目を拭う。どうやら、こっちでも涙を流してしまっていたみたいだ。
「悪い、心配させたな」
「ううん、大丈夫」
「本当だ。レオナに要らぬ心配をかけさせるな」
聞き覚えのある声に目を向けると、不機嫌そうなアリスの姿があった。その後ろには、案の定アーヴィンの姿もある。
「……何か用か?」
「貴様になど用はない」
「そうか」
普段の俺なら、アリスの態度に多少思うところがあっただろうが、今はそんなことを気にする余裕がなかった。
「レオナ、朝食に向かうぞ。空腹なら、貴様もついてこい」
アリスはそれだけ言うと、レオナに向けて優しく手を差し出し、アーヴィンを連れ立って部屋を出ていった。
俺も行くとしよう。空腹だしな。
「……」
三人と共にVIPルームへと赴いた俺は、途中から合流したニコと共に、生唾を飲む。俺たちの目の前には、普段目にすることもないような、無駄に高そうな料理が並んでいた。
アリスや俺たちが中央の国で活動していたからか、西の国の郷土料理が大半を占めるなか、ハチミツ漬けにされたフレンチトーストなどの姿もある。フォークを刺しただけでハチミツが染み出してきそうだ。
「ブラウンさん、おはようございます!」
「おはよう、オリビア」
料理に目をとられて、オリビアたちの存在に気づかなかった……。どうやら、俺たち以外のメンバーは先に集まっているようだった。
俺が席に着くとレオナが隣に座り、向こうにいたマルヴィナが隣に寄ってくる。
「あっ、ズルいです!」
オリビアが慌てたように席を立つが、その時には既にマルヴィナが隣に座っていた。
未だに料理の方に目が釘付けになってしまっているニコに座るように促し、彼女はオリビアの隣へと腰掛けた。
「お待たせして申し訳ありません」
アリスは真っ直ぐにジャックさんの元に向かい、頭を下げる。
「別に、構わん。こちらこそ、手間をとらせてすまなかったな」
「いえ」
昨日初めて知ったんだが、どうやらこの二人は知り合いであるようだった。様子を見る限りだと、フレディとヘレンも面識があるようだ。
もしかしたら、昨日見たあの小竜も元は竜人の里にいた個体なのかもしれないな。
「サンクレイア」
ジャックさんの元を離れてこちらへと来たアリスがレオナの隣に腰掛け、アーヴィンがその隣に座る。全員で食前の感謝を済ませ、食事にはいった。
「……」
食事が始まるや否や、少し頬を膨らませているオリビアが、切り分けられたフレンチトーストの一片にフォークを刺し、躊躇いなくそれを頬張った。
フレンチトーストの甘さに、一瞬オリビアの頬が緩むが、すぐに先程の膨れ面に戻る。多分、構って欲しいだけだろう。
「ルシェフ、昨日はありがとね」
「あぁ。もう体調は大丈夫なのか?」
「うん」
言いながら、マルヴィナが肩を寄せてくる。マルヴィナは精霊の声を聞くことができるため、【精霊の加護】を持つ俺とはそれなりに仲が良かった。
「ルシェフさん、はい」
マルヴィナを見て何を思ったのか、レオナが自身のフォークに刺した肉を差し出してくる。
珍しく大胆な行動に少し戸惑うが、耳まで真っ赤になっているところを見ると、どうやら少し無理をしているようだと気がついた。
それから暫く経ち、少し不穏な空気を孕みながらも無事に朝食を終えた俺たちは、《スピリッツ・サーヴァント》のメンバーと別れてギルドへと向かう。
オリビアとアメリアに関しては少し悪目立ちをしてしまいそうなので、宿で待機してもらっていた。
「買取を頼む」
ギルドに着くと、真っ直ぐに受付の元に向かったジャックさんが、投げやりにそう告げる。
「はい……品物の方はどちらに?」
「ここに」
ジャックさんの隣にいた俺はそう言ってバッグに手を入れ、【四次元空間】からスケルトン・ナイトのものも含め、カルレランで回収した魔石を順番に並べていく。勿論、ニコが回収していた魔石もだ。
スケルトン・ナイトの魔石を見て少し驚いている受付に、スケルトン・ナイトを討伐したとこを伝えると、彼は驚きからか短い悲鳴をあげて腰を抜かしそうになっていたが、その場でギルド長を呼んでくれた。
ギルド長が来るまでの間に、しっかりとスケルトン・ナイトの討伐証明とその報酬が欲しいことを伝えておく。
この様子だと、“割れた大楯”の事はギルド長に直接話した方が良さそうだな……。
「すいません、少し依頼板を見てきます」
「わかった」
ジャックさんに一声かけてから、レオナとニコの三人で依頼の確認に向かう。
「……なさそうだね」
「あぁ」
依頼を一通り見たが、討伐系の依頼は殆どなく、適当な依頼は見つからなかった。もしかしたら、この町のギルドとは少し相性が悪いかもしれないな……。
依頼板の確認を終えた俺たちがジャックさんたちの元に戻ってからすぐ、ギルド長とおぼしき、がたいの良い壮年の男が姿を表した。
目を覚ますと、見渡す限り灰色の空間に居た。何処からか、聞き覚えのない澄みきった女性の声が聞こえてくる。
「──誰だ?何処にいる」
俺がそう尋ねると、声の主は自分が女神であることと、ここから遠く離れた所にいること、そして俺が死んだことを明かした。
言われて思い出してみると、確かに俺には死んだ覚えがあった。
「ここは何処だ──この状況は何だ!」
少し怒気を含んだ声でそう尋ねる。少なくても、俺は神という存在を信用してはいないし、もし神が存在するのなら、奴の顔面に渾身の右ストレートを叩き込みたい気分だった。
「ここは、何処でもない場所です。強いて言うなら、貴方の中でしょうか。この度は、貴方を私の世界に勧誘するためにお声かけさせて頂きました」
俺に物怖じすることもなく、自称女神は淡々とそう告げた。
「ふざけるな‼︎俺はもう勇者なんてやるつもりはないぞ!」
「可哀想に信仰不信になられているのですね……」
怒鳴り散らす俺を哀れむように、自称女神はそう漏らす。
「誰のせいだと思っている!もし神が存在するのなら、あんな救いのない結末にはならなかった!魔族と俺たちが争う必要もなければ、アルサムやゲオギオスたちは死なずに済んだし、ヴィオラが死ぬ必要もなかったんだ‼︎お前たちのせいで…フィオナも──っ‼︎」
涙ながらにそう訴える途中からむせ返り、フィオナの最後を思い出すと、嗚咽から話すこともままならなくなる。
「魔族と俺たちとの争いがなければ、フィオナが自殺することもなかったんだ!」
一回呼吸を整え、何処にいるのかもわからない自称女神にそう吠える。これだけは、言っておかないと気が済まなかったからだ。
「……」
何を思っているかは知らないが、俺の言葉を自称女神はただ黙って聞いていた。
「──貴方には、私のいる世界に来て頂きます」
やがて重い口を開ける自称女神は、あくまでも淡々とそう告げる。
「……ですが、貴方もそれでは納得しないでしょう。なので、転生するに当たり、貴方の生前の記憶を消させて頂きます。その上で転生して頂き、貴方が勇者としての能力を望んだときに、貴方の記憶と能力を貴方に再度授けましょう」
「ふざけるな!もう俺は──」
「これは、決定事項です。それに、貴方は近い将来能力を望む日が来るでしょうから」
拒否する権利はないとでもいうように、俺の言葉に重ねて女神がそう告げた。
「最後に、貴方の魂に救いがあらんことを……」
◇ ◇ ◇
「──シェフさん、ルシェフさん!」
目を覚ましてすぐ、少し焦った様子で寝ていた俺の肩を揺さぶるレオナが目に入る。
「──レオナか?」
「うん。大丈夫?」
「あぁ」
どうやら、夢を見ていたようだ。レオナが、そっとハンカチで俺の目を拭う。どうやら、こっちでも涙を流してしまっていたみたいだ。
「悪い、心配させたな」
「ううん、大丈夫」
「本当だ。レオナに要らぬ心配をかけさせるな」
聞き覚えのある声に目を向けると、不機嫌そうなアリスの姿があった。その後ろには、案の定アーヴィンの姿もある。
「……何か用か?」
「貴様になど用はない」
「そうか」
普段の俺なら、アリスの態度に多少思うところがあっただろうが、今はそんなことを気にする余裕がなかった。
「レオナ、朝食に向かうぞ。空腹なら、貴様もついてこい」
アリスはそれだけ言うと、レオナに向けて優しく手を差し出し、アーヴィンを連れ立って部屋を出ていった。
俺も行くとしよう。空腹だしな。
「……」
三人と共にVIPルームへと赴いた俺は、途中から合流したニコと共に、生唾を飲む。俺たちの目の前には、普段目にすることもないような、無駄に高そうな料理が並んでいた。
アリスや俺たちが中央の国で活動していたからか、西の国の郷土料理が大半を占めるなか、ハチミツ漬けにされたフレンチトーストなどの姿もある。フォークを刺しただけでハチミツが染み出してきそうだ。
「ブラウンさん、おはようございます!」
「おはよう、オリビア」
料理に目をとられて、オリビアたちの存在に気づかなかった……。どうやら、俺たち以外のメンバーは先に集まっているようだった。
俺が席に着くとレオナが隣に座り、向こうにいたマルヴィナが隣に寄ってくる。
「あっ、ズルいです!」
オリビアが慌てたように席を立つが、その時には既にマルヴィナが隣に座っていた。
未だに料理の方に目が釘付けになってしまっているニコに座るように促し、彼女はオリビアの隣へと腰掛けた。
「お待たせして申し訳ありません」
アリスは真っ直ぐにジャックさんの元に向かい、頭を下げる。
「別に、構わん。こちらこそ、手間をとらせてすまなかったな」
「いえ」
昨日初めて知ったんだが、どうやらこの二人は知り合いであるようだった。様子を見る限りだと、フレディとヘレンも面識があるようだ。
もしかしたら、昨日見たあの小竜も元は竜人の里にいた個体なのかもしれないな。
「サンクレイア」
ジャックさんの元を離れてこちらへと来たアリスがレオナの隣に腰掛け、アーヴィンがその隣に座る。全員で食前の感謝を済ませ、食事にはいった。
「……」
食事が始まるや否や、少し頬を膨らませているオリビアが、切り分けられたフレンチトーストの一片にフォークを刺し、躊躇いなくそれを頬張った。
フレンチトーストの甘さに、一瞬オリビアの頬が緩むが、すぐに先程の膨れ面に戻る。多分、構って欲しいだけだろう。
「ルシェフ、昨日はありがとね」
「あぁ。もう体調は大丈夫なのか?」
「うん」
言いながら、マルヴィナが肩を寄せてくる。マルヴィナは精霊の声を聞くことができるため、【精霊の加護】を持つ俺とはそれなりに仲が良かった。
「ルシェフさん、はい」
マルヴィナを見て何を思ったのか、レオナが自身のフォークに刺した肉を差し出してくる。
珍しく大胆な行動に少し戸惑うが、耳まで真っ赤になっているところを見ると、どうやら少し無理をしているようだと気がついた。
それから暫く経ち、少し不穏な空気を孕みながらも無事に朝食を終えた俺たちは、《スピリッツ・サーヴァント》のメンバーと別れてギルドへと向かう。
オリビアとアメリアに関しては少し悪目立ちをしてしまいそうなので、宿で待機してもらっていた。
「買取を頼む」
ギルドに着くと、真っ直ぐに受付の元に向かったジャックさんが、投げやりにそう告げる。
「はい……品物の方はどちらに?」
「ここに」
ジャックさんの隣にいた俺はそう言ってバッグに手を入れ、【四次元空間】からスケルトン・ナイトのものも含め、カルレランで回収した魔石を順番に並べていく。勿論、ニコが回収していた魔石もだ。
スケルトン・ナイトの魔石を見て少し驚いている受付に、スケルトン・ナイトを討伐したとこを伝えると、彼は驚きからか短い悲鳴をあげて腰を抜かしそうになっていたが、その場でギルド長を呼んでくれた。
ギルド長が来るまでの間に、しっかりとスケルトン・ナイトの討伐証明とその報酬が欲しいことを伝えておく。
この様子だと、“割れた大楯”の事はギルド長に直接話した方が良さそうだな……。
「すいません、少し依頼板を見てきます」
「わかった」
ジャックさんに一声かけてから、レオナとニコの三人で依頼の確認に向かう。
「……なさそうだね」
「あぁ」
依頼を一通り見たが、討伐系の依頼は殆どなく、適当な依頼は見つからなかった。もしかしたら、この町のギルドとは少し相性が悪いかもしれないな……。
依頼板の確認を終えた俺たちがジャックさんたちの元に戻ってからすぐ、ギルド長とおぼしき、がたいの良い壮年の男が姿を表した。
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