Sランクギルドの主力メンバーやっていた少女が追放されたので、うちのパーティーに引き抜こうと思う

五月雨蛍

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第三十七話 追憶

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「オリビア」
 彼女の名前を呼び、そっと頭を撫でる。静かに涙を流すオリビアは、甘えるように背中に手を回して抱きついてきた。

「……」
 オリビアの変化に気づいたためか、周囲が沈黙に包まれる。どうやら、《饒舌の魔女ロカシティ・ウィッチ》としての彼女は、俺が誰だか認識できているようだった。

 この様子だと、《戦慄の魔女ホリブル・ウィッチ》もそうなのかもしれない。ただ、その時のオリビアが戦える状況にあるのかはわからないが。

 アメリアに視線を送ると、察してくれたらしい彼女がニコとレオナを連れだって部屋を出て行ってくれた。自身の夕食も分担して運んでいたし、多分アメリアの部屋に向かっているのだろう。

「……落ち着いてきたか?」
 オリビアが落ち着くのを待ってから声をかけた。

「はい……」
「夕食を食べながらでいいから、少し話を聞かせてくれないか?」
 俺の言葉にオリビアがゆっくりと頷く。

「──君に何があったんだ?」
が来てたんです……」
「奴とは何だ?」
 オリビアにしては珍しい呼称の仕方だ。余程恨みがあるのか、嫌っているのか。

「父親の仇です。あれは今から数年前の話になりますが、私は魔法を教えてもらうために、父と共に森に来ていました……」

◇ ◇ ◇

「今日はどんな魔法を教えてくれるの?」
「今日は大技だ!この世界でも父さんしか使えないとっておきを教えてやる!」
 父は心底楽しげに笑う。彼の少年のような笑顔が私は好きだった。

「ありがと!お父さん大好き!」
 甘えるように抱きつくと、彼はくしゃりと頭を撫でてくれた。
 ──そんな幸せな時間は、唐突に奪われた。

「الثوم المعمر الصيني‼︎」
 突然響く咆哮に、恐怖から身をすくめてしまう。

「何、あれ……⁉︎」
 何もないはずなのに、遠くの木々が薙ぎ倒されていく。それはドタドタという足音と共に段々こちらへ迫ってきていた。

「オリビア、逃げるぞ!」
 珍しく強ばった顔の父に戸惑いながらも、走る彼を懸命に追いかける。
 今まで何度も魔物と戦ってきたなかでも初めての逃走だった。

 少しずつ距離が離れていく私を見兼ねたか、父は私の腕をとって走ってくれた。
 それに安心したのも束の間、視界の先にいた父が崩れ落ちた。

「お父さ──⁉︎」
 私が飛び散る血飛沫を理解するのよりも早く、手を離した父が叫んだ。

「逃げろ!」
「でもっ……!」
 父は足を怪我していた。間違いなく、迫り来る魔物から逃げる術はないだろう。魔物も、もはや姿を隠す意味もないとでもいうように、焦茶の身体を晒していた。

「行けーーーーー‼︎‼︎」
「──っ!」
 かつてない程の剣幕で叫ぶ父に一瞬肩を震わせながらも、私は走った。後ろから父の悲鳴が聞こえる。それでも振り返ることなく、ただがむしゃらに走った。

◇ ◇ ◇

「その後すぐに助けを呼んだんですけど……その頃には……」
「そうか」
 後は、ニコから聞いた通りだろう。

 それにしても、姿の見えない魔物か……。
 恐らく、あの悪魔を模したゴーレムのような何かなものではない爪痕などはそいつによるものなのだろう。

 待てよ……オリビアはその魔物をあの場所で見ていることになる。──だとしたら、何故その場で戦闘にならなかったのだろうか?
 奴の習性か何かの問題か?

 相手の情報が少なすぎるな。近くのギルドで情報を集めるべきか。
 西の国で数年に渡って生き抜いているところを見る辺り、かなり強力な個体であることは確かだろう。

「あの魔物が憎いか?」
「……はい」
 ポロポロと涙を流しながら、オリビアはそう呟く。

 憎しみ。それは、ストルワルツであの二人に濡れ衣を着せられても本音を見せなかったオリビアが、初めて見せた感情だった。

「あの魔物と戦えるのか?」
 あの魔物は相当な手練れだ。それに、奴以外にもゴーレムのような魔物が見つかっている。

「今の私には力があります。──仇を討たせて下さい」
 俺を真っ直ぐに見つめる彼女の目は死んでいなかった。これなら、戦闘は問題ないだろう。

「──わかった。あの魔物を討伐しよう」
 本音を言えばアドルフや鈴木剛、ノア、ジャックさんのような存在がいてくれれば心強かったが、恐らくそれは望めないだろう。

「ありがとう、ございます……でも──」
 無粋な心配を口に出そうとしたオリビアの口元に、立てた人差し指を軽く当てる。

「心配しなくて良い。──寧ろ、彼女たちは置いていった方が後で五月蝿いぞ?」
「──そう、ですね」
 泣いたままのオリビアが小さく微笑んだ。

「そういえば、故郷もこの辺りにあるのか?」
「はい。メルゼブルグここが私の故郷なので。両親の墓もここに……っ!」
 思い出すのも辛かったのか、咽び泣くオリビアの背中をさする。この話は仇を討ってからでいいだろう。

 夕食後、記憶は戻っているはずなのだが、オリビアが離れたがらなかったため、オリビアとレオナの三人で寝ることになった。

「ルシェフさん」
 ベッドに横になってから暫く経ち、オリビアも眠りについたところで、そっと抱きついてきたレオナが甘えたような声で名前を呼んできた。

「何だ?」
「何でもない」
 そう言ってレオナが小さく微笑む。先とは違い、今はやたらと機嫌が良いようだ。
 飲んでいたせいか、少し情緒が不安定になっているのかもしれないな。軽く彼女の頭を撫でておき、そのまま目を閉じた。

 翌朝目を覚ますと、背中にある眠気を誘うような安心できる温度と甘い匂いに気づく。

「……」
 どうやら、昨日からレオナは抱きついたまま眠ってしまっていたようだ。手が痺れたりとかはしないのだろうか?

 ──そういえば、オリビアは何処だ?
 少し目を回してみるも、彼女の姿を確認することはできない。

 さて、どうしようか……。窓から差し込む朝日が程良く眠気を誘う中、無言で思考を走らせる。
 別に、背中にある柔らかな感触に浸っていたかったわけではなく、どうやってレオナを起こさずにベッドから出ようか考えていただけだ。

「……ルシェフさん?」
「起きたか」
「うん」
 レオナも起き出したところで、アメリアたちとも合流する。オリビアもその頃には何でもない顔で部屋に戻ってきていた。

 買ってきたもので適当に朝食を摂る中、一度メルゼブルグのギルドへ戻ることを告げる。その時、件の魔物を討伐したいことも話した。だいぶ話をぼかした為かオリビアは少し不思議そうな顔をしていたが、一応は納得をしてくれた。

「正直、相手はかなりの手練れだ。万全の準備はするが、それでも万が一ということはある。だから──」
「そんなの、冒険者なら当たり前」
 ニコにそう窘められる。どうやら、少し回りくどい言い方をしてしまっていたようだ。

 朝食後はメルゼブルグのギルドへと立ち寄り、件の魔物の情報を集める。
 見た目も名前もわかっていない種であったため、少し情報を集めることに苦労はしたが、姿を消すという特殊な能力を持っていたため、それらしい魔物の情報は得ることができた。

 後は物資を揃えてから現地までの馬車を捕まえるだけだ。
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