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第三十六話 《勇者》アドルフ・ベッカー
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「そういえば、さっきウィルに調整してもらった武器があったな。──少し試し斬りでもさせてもらおうか」
唐突に現れた男、アドルフ・ベッカーがカウンター越しに俺への圧力を強めたのが分かる。
多分俺に出てくるように言っているのだろう。──ただ、アドルフは、やると言ったらやる男だった。
カウンター壊したら、ウィルが何て言うかわからないな……。
「わかった、降参だよ。もう隠れないから」
そう言ってカウンターから出ると、アドルフが待っていたかのようにニヒルな笑みを浮かべ、自身の剣を振り抜いてきた。
「チッ!」
咄嗟に【四次元空間】から、小型のナイフを取り出して、【不可避の一閃】を放つ。
いや、放ったと言うよりかは、放たされたという方が正解か。横凪ぎの一閃であったため、空間そのものを超越して対象を狙える【不可避の一閃】を使わなかったら、衝撃波からオリビアを守れなかったからな。
アドルフの一撃を相殺した後、ナイフの刃が粉々になって砕ける。【不可避の一閃】は、元々【聖剣ダインスレイヴ】の能力だったが、俺の鍛練と“泡沫の君”の協力のおかげで、【聖剣ダインスレイヴ】無しでも放てるようになっていた。
ただ、如何せんこの世界の武器は脆く、この世界の魔剣では、一撃放つだけで武器が粉砕してしまうのが現状だ。
「危ねぇじゃねぇか!」
いきなりの攻撃に、アドルフを睨む。
「別に、問題なく止められただろ?」
「……」
悪びれる様子もないアドルフに、つい盛大なため息を吐いてしまう。
諦めよう。こいつは、そういう奴だ。
「アドルフ、貴方を呼んだ覚えはありませんが?」
「何、気まぐれで知り合いの店に立ち寄っただけだ。勿論、元パーティーメンバーを見つけたのも偶然だ」
「そうですか」
王女もそれ以上アドルフに言及したりはしなかった。そうしたところで意味がないということを知っているからだろう。
「さて、話を進めましょうか」
一段落したところを見計らって、王女がそう切り出した。
「ここに、件の魔石があるわけですが──」
「王女は何を望まれているのですか?」
俺の方を見ながら柔和な笑みを浮かべて勿体ぶる王女に、話を促す。彼女には、この方が良いだろう。
「話が早くて助かります。そうですね、南の国へ遺跡探索に行くつもりのようですが、その時間を頂けませんか?」
「……具体的にはどのようなことをさせるおつもりで?」
王女は、自身の性格上無理難題を押し付けたり、俺たちの利がないことをやらせるようなことは絶対にないと信じているが、念のために内容を確認する。
「少し東の国へ行って、討伐して欲しい魔物がいるんです」
「討伐依頼ですか……」
ただの討伐依頼なら、剛でもアドルフでも出来るはずだ。恐らく、真意は他にあるのだろう。
「討伐依頼なら、俺もついて……」
「いえ。アドルフ、貴方には他にやってもらうことがあります。ルシェフには、また近いうちに会えるので、それで手を打ちましょう」
「……うむ」
俺としては色々と言いたいことはあったが、王女の言葉に満足したのか、アドルフはそれ以上何も言わなかった。
「ルシェフ・ブラウン。魔石の対価として、東の国に行って、“魔境キシマ”に生息する主を討伐して下さい。その際、貴方方には、西の国の臨時国家公認冒険者パーティーとして動いてもらいます。──その方が、都合も良いでしょう?」
国家公認冒険者パーティーなら、下手にちょっかいを出されないので、都合が良いのは確かだ。
問題があるとすれば、都合が良すぎることか。
こちらに損が無い以上、それについてとやかく言うつもりもないが。
「もし、貴方が望むのなら、臨時ではない国家公認冒険者パーティーとして認めることも、先の功績がある貴方には国家公認冒険者としての地位を与えることも吝かではありませんが、貴方はそれを望まないのでしょう?」
「……」
王女は俺以上に俺のことを知っているのかもしれないな。
俺としては、脱退届けも出して《ストルワルツ》とはほぼ縁を切ったつもりでいるが、現状、脱退届けは受理されていない状態だ。そのため、今の段階で、西の国の国家公認冒険者になるのは少し気が引けた。
あくまで可能性の一つだが、もしかしたら、アンナ・モルモッタの狙いもここにあったのかもしれない。
まぁ、俺としては一ヶ所に拠点を置くつもりは毛頭ないので、国家公認冒険者になるつもりはないのだが。
「返事を聞いても?」
王女の言葉に、他のメンバーの顔を見て無言で意見を聞く。
「慎んで承ります。ところで、王女。実は魔石の件以外にもいくつかお願いしたいことがあるのですが……」
「それについては、追加で働いてもらうことになりますが、構いませんか?」
少し言い辛そうに切り出した俺に、王女は無垢な笑みでそう返してくれた。
その後は少し今後の話をまとめる。その際、“魔境キシマ”へ向かう前に少し時間が欲しいこと、それから王女の言う追加依頼の話、魔石以外のお願いについて詳細を詰めた。
「話は終わったか?」
王女との話が一段落したところで、所々に寝癖のある黒みがかった赤髪の男が、気だるそうに奥の部屋から姿を表した。
「久しぶりだな。ウィル」
「おう、久しぶり」
俺の言葉に、ウィルはゆるりと片手を上げて答える。彼の名前はウイル・スミス。俺たちの間では、ウィルの愛称で呼ばれている。
「そうだ、ウィル。早速だが見せたいものがあるんだ」
自身のバックに手を入れ、中から真赤鉄鉱を取り出す。
「あぁ、真鉱石の生成が出来るようになったのか」
普段通りのジト目で真赤鉄鉱をまじまじと見つめたウィルが、感心したようにそう漏らした。
「それで、【アクワグラシェリア】の件だが……」
「一度、手持ちの真鉱石を全部見せてもらっても良いか?その上で、より性能の高い物を作れるか考えてみる」
「わかった。頼む」
何種類かの鉱石を取り出し、彼に預けることにする。
「──成る程、真シリーズの生成も出来るようになっていたんですね」
俺たちのやり取りを見ていた王女も感心したようにそう漏らした。
「貴女には借りもあります。短時間で大量に作れるものじゃないですが、良ければ融通しましょうか?」
「そうですね、考えておきます。次に会うときに、必要があればお願いするかもしれません。恐らく、水晶系の鉱石と真金剛石は必要になると思うので」
「そうですか」
王女は、ブランド物の時計を扱う店の経営にも携わっているため、そこで使うのだろう。
「さて、あまり長居しても迷惑なので、私たちはこれで失礼致します」
そう言って、王女とアドルフは店を出ていった。
「ウィル、俺たちはこれから夕食だが、良ければ一緒にどうだ?」
「ありがたいけど、遠慮しておくよ。少し野暮用があってな」
「そうか。じゃあ、また」
「あぁ」
ウイルの鍛冶屋を後にした俺たちは、買い出しを買って出てくれたニコ、レオナと別れ、三人で宿へと戻る。
今のオリビアを連れて町中を歩くのは少し気が引けたからな。
部屋に戻ってから暫く経ち、買い出しに出ていた二人も戻ってきたので、夕食にすることにする。
「サンクレイア」
商隊の護衛をしていたときは飲酒は控えていたので、今日は夕食と同時に酒を開けることにした。
「──それにしても、王女様綺麗だったよね」
酒に軽く口をつけてジョッキを机に置くなり、レオナがふて腐れ気味にそう漏らす。
「レオナ?」
「……」
少し不審に思ってレオナに声をかけるものの、彼女は俺の言葉に答えることはせず、持ち上げたジョッキを一思いに煽っている。
何やら、少し機嫌が悪そうだ。
普段とは違うレオナの反応に、どうして良いか分からずにアメリアに視線で助けを求めるものの、俺の視線の意図に気づいた彼女はそれに応えることはせず、作ったように綺麗な笑みを浮かべた。
「──ブラウンさん?」
俺たちと同じく酒を煽っていたオリビアが、涙声でそう呟いた。
「オリビア……もしかして、思い出したのか……?」
「はい……ぜんぶ」
静かに両頬に涙を伝わせ、力なくそう呟いたオリビアは、救いを求めるように哀愁に満ちた瞳で俺を見つめていた。
唐突に現れた男、アドルフ・ベッカーがカウンター越しに俺への圧力を強めたのが分かる。
多分俺に出てくるように言っているのだろう。──ただ、アドルフは、やると言ったらやる男だった。
カウンター壊したら、ウィルが何て言うかわからないな……。
「わかった、降参だよ。もう隠れないから」
そう言ってカウンターから出ると、アドルフが待っていたかのようにニヒルな笑みを浮かべ、自身の剣を振り抜いてきた。
「チッ!」
咄嗟に【四次元空間】から、小型のナイフを取り出して、【不可避の一閃】を放つ。
いや、放ったと言うよりかは、放たされたという方が正解か。横凪ぎの一閃であったため、空間そのものを超越して対象を狙える【不可避の一閃】を使わなかったら、衝撃波からオリビアを守れなかったからな。
アドルフの一撃を相殺した後、ナイフの刃が粉々になって砕ける。【不可避の一閃】は、元々【聖剣ダインスレイヴ】の能力だったが、俺の鍛練と“泡沫の君”の協力のおかげで、【聖剣ダインスレイヴ】無しでも放てるようになっていた。
ただ、如何せんこの世界の武器は脆く、この世界の魔剣では、一撃放つだけで武器が粉砕してしまうのが現状だ。
「危ねぇじゃねぇか!」
いきなりの攻撃に、アドルフを睨む。
「別に、問題なく止められただろ?」
「……」
悪びれる様子もないアドルフに、つい盛大なため息を吐いてしまう。
諦めよう。こいつは、そういう奴だ。
「アドルフ、貴方を呼んだ覚えはありませんが?」
「何、気まぐれで知り合いの店に立ち寄っただけだ。勿論、元パーティーメンバーを見つけたのも偶然だ」
「そうですか」
王女もそれ以上アドルフに言及したりはしなかった。そうしたところで意味がないということを知っているからだろう。
「さて、話を進めましょうか」
一段落したところを見計らって、王女がそう切り出した。
「ここに、件の魔石があるわけですが──」
「王女は何を望まれているのですか?」
俺の方を見ながら柔和な笑みを浮かべて勿体ぶる王女に、話を促す。彼女には、この方が良いだろう。
「話が早くて助かります。そうですね、南の国へ遺跡探索に行くつもりのようですが、その時間を頂けませんか?」
「……具体的にはどのようなことをさせるおつもりで?」
王女は、自身の性格上無理難題を押し付けたり、俺たちの利がないことをやらせるようなことは絶対にないと信じているが、念のために内容を確認する。
「少し東の国へ行って、討伐して欲しい魔物がいるんです」
「討伐依頼ですか……」
ただの討伐依頼なら、剛でもアドルフでも出来るはずだ。恐らく、真意は他にあるのだろう。
「討伐依頼なら、俺もついて……」
「いえ。アドルフ、貴方には他にやってもらうことがあります。ルシェフには、また近いうちに会えるので、それで手を打ちましょう」
「……うむ」
俺としては色々と言いたいことはあったが、王女の言葉に満足したのか、アドルフはそれ以上何も言わなかった。
「ルシェフ・ブラウン。魔石の対価として、東の国に行って、“魔境キシマ”に生息する主を討伐して下さい。その際、貴方方には、西の国の臨時国家公認冒険者パーティーとして動いてもらいます。──その方が、都合も良いでしょう?」
国家公認冒険者パーティーなら、下手にちょっかいを出されないので、都合が良いのは確かだ。
問題があるとすれば、都合が良すぎることか。
こちらに損が無い以上、それについてとやかく言うつもりもないが。
「もし、貴方が望むのなら、臨時ではない国家公認冒険者パーティーとして認めることも、先の功績がある貴方には国家公認冒険者としての地位を与えることも吝かではありませんが、貴方はそれを望まないのでしょう?」
「……」
王女は俺以上に俺のことを知っているのかもしれないな。
俺としては、脱退届けも出して《ストルワルツ》とはほぼ縁を切ったつもりでいるが、現状、脱退届けは受理されていない状態だ。そのため、今の段階で、西の国の国家公認冒険者になるのは少し気が引けた。
あくまで可能性の一つだが、もしかしたら、アンナ・モルモッタの狙いもここにあったのかもしれない。
まぁ、俺としては一ヶ所に拠点を置くつもりは毛頭ないので、国家公認冒険者になるつもりはないのだが。
「返事を聞いても?」
王女の言葉に、他のメンバーの顔を見て無言で意見を聞く。
「慎んで承ります。ところで、王女。実は魔石の件以外にもいくつかお願いしたいことがあるのですが……」
「それについては、追加で働いてもらうことになりますが、構いませんか?」
少し言い辛そうに切り出した俺に、王女は無垢な笑みでそう返してくれた。
その後は少し今後の話をまとめる。その際、“魔境キシマ”へ向かう前に少し時間が欲しいこと、それから王女の言う追加依頼の話、魔石以外のお願いについて詳細を詰めた。
「話は終わったか?」
王女との話が一段落したところで、所々に寝癖のある黒みがかった赤髪の男が、気だるそうに奥の部屋から姿を表した。
「久しぶりだな。ウィル」
「おう、久しぶり」
俺の言葉に、ウィルはゆるりと片手を上げて答える。彼の名前はウイル・スミス。俺たちの間では、ウィルの愛称で呼ばれている。
「そうだ、ウィル。早速だが見せたいものがあるんだ」
自身のバックに手を入れ、中から真赤鉄鉱を取り出す。
「あぁ、真鉱石の生成が出来るようになったのか」
普段通りのジト目で真赤鉄鉱をまじまじと見つめたウィルが、感心したようにそう漏らした。
「それで、【アクワグラシェリア】の件だが……」
「一度、手持ちの真鉱石を全部見せてもらっても良いか?その上で、より性能の高い物を作れるか考えてみる」
「わかった。頼む」
何種類かの鉱石を取り出し、彼に預けることにする。
「──成る程、真シリーズの生成も出来るようになっていたんですね」
俺たちのやり取りを見ていた王女も感心したようにそう漏らした。
「貴女には借りもあります。短時間で大量に作れるものじゃないですが、良ければ融通しましょうか?」
「そうですね、考えておきます。次に会うときに、必要があればお願いするかもしれません。恐らく、水晶系の鉱石と真金剛石は必要になると思うので」
「そうですか」
王女は、ブランド物の時計を扱う店の経営にも携わっているため、そこで使うのだろう。
「さて、あまり長居しても迷惑なので、私たちはこれで失礼致します」
そう言って、王女とアドルフは店を出ていった。
「ウィル、俺たちはこれから夕食だが、良ければ一緒にどうだ?」
「ありがたいけど、遠慮しておくよ。少し野暮用があってな」
「そうか。じゃあ、また」
「あぁ」
ウイルの鍛冶屋を後にした俺たちは、買い出しを買って出てくれたニコ、レオナと別れ、三人で宿へと戻る。
今のオリビアを連れて町中を歩くのは少し気が引けたからな。
部屋に戻ってから暫く経ち、買い出しに出ていた二人も戻ってきたので、夕食にすることにする。
「サンクレイア」
商隊の護衛をしていたときは飲酒は控えていたので、今日は夕食と同時に酒を開けることにした。
「──それにしても、王女様綺麗だったよね」
酒に軽く口をつけてジョッキを机に置くなり、レオナがふて腐れ気味にそう漏らす。
「レオナ?」
「……」
少し不審に思ってレオナに声をかけるものの、彼女は俺の言葉に答えることはせず、持ち上げたジョッキを一思いに煽っている。
何やら、少し機嫌が悪そうだ。
普段とは違うレオナの反応に、どうして良いか分からずにアメリアに視線で助けを求めるものの、俺の視線の意図に気づいた彼女はそれに応えることはせず、作ったように綺麗な笑みを浮かべた。
「──ブラウンさん?」
俺たちと同じく酒を煽っていたオリビアが、涙声でそう呟いた。
「オリビア……もしかして、思い出したのか……?」
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