Sランクギルドの主力メンバーやっていた少女が追放されたので、うちのパーティーに引き抜こうと思う

五月雨蛍

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第五十二話 獣人の隠れ里

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 翌朝、王女からの伝言で剛が宿を訪ねてきた。
 何で彼らが俺たちの泊まっている宿の場所を知っているのかなど聞きたいことは色々とあったが、王女たちのこれはいつものことなので気にしないことにする。

 用事がないならと、剛と朝食を共にし、その時に彼が火廣金の収集までやってもいいと言ってくれた。
 勿論、火廣金の収集は、俺が頼んだことではない。

 頼むつもりがなかったのは勿論のこと、そもそも、剛が男である俺の話を碌に聞いてくれるわけがあるはずもない。名前すらまともに覚えてくれてないからな。
 オリビアが集落に行きたいが為にそれとなくお願いした結果、引き受けてくれただけだった。

 朝食後は剛の転移でニコの集落近くの村まで送ってもらう。その時に剛と明日の夜にまたこの村で落ち合う約束をした。

 剛と別れてから森へと入り、ニコの集落を目指す。
 開拓されていないままの森を進み始めてから数十分、ニコの集落にも大分近づき、疎らに獣人の姿を確認できるようになってきた。
 彼らの多くは俺たちを警戒し、遠巻きに視線を送ってくる程度だったが、ニコがいたからか騒がれたりはしなかった。

 川の方で遊ぶ子供の獣人の群れを見つけたアメリアとオリビアが、無警戒に彼らの方へと向かっていく。彼らは二人を警戒しているようだったが、朝方剛の持ってきていたお菓子に釣られ、見事に懐柔させられてた。

「実家、この先だから。先に話だけ通してくる」
「あぁ」
 ニコは一人、早歩きで彼女の実家の方へと向かっていった。

「……」
 先まで向こうの川で遊んでいた獣人の子供の一人が、後ろから俺にそっと抱きつき、物欲しそうに見つめてくる。
 子供特有の暖かな体温と、毛並みのモフモフ感が何とも言えなかった。

「どうかしたのか?」
「……」
 彼女のふさふさな頭を撫でながらそう尋ねるものの、彼女は目を細めるだけで何も答えない。

「お菓子、食べる?」
「……」
 レオナの言葉に獣人の子供は小さく頷き、レオナがバックから取り出したクッキーを受け取った。

 暫くして、後ろに四人の獣人の子供たちを引き連れたニコが戻ってきた。

「はい、挨拶」
 ニコの号令に、四人の子供たちが、各々自分の名前を名乗る。
 左から、ワタル、ラン、レオ、ヒナというらしい。

 ワタル長男でランが長女、五歳前後の二人がレオとヒナ。ニコを除くと、ワタルが最年長だそうだ。
 因みに、俺に抱きついていた子もニコの姉弟のようで、名前をユウと言うそうだ。

 ニコの姉弟の中で、ワタルとランだけが少し毛が灰色な部分があることが気になって聞いてみたら、二人は父親の方に似てそうなったということを話してくれた。

「ユウちゃん──で良いかな?魚は好きか?」
「ぅん」
「そうか」
 抱きつくユウを引き連れて川の前に行くと、一度屈んで【ロニギスメイシュ】をかけてから川に手を入れ、すぐに引き上げる。

「わぁ……」
 俺の引き上げた手の内にいる、ビチビチと暴れる青魚の姿を見たユウが目を輝かせた。

「手で魚がとれるにょか⁉︎」
 俺の一連の動きを見ていたワタルが、興奮気味に叫ぶ。
 興奮しすぎて盛大に噛んでいたが、それには触れない方が無難か。

「あぁ。別に難しくはないぞ」
 強化魔法をかけているからな。

「ルシェフさん、これ」
 レオナが自身のバッグから大きな容器を取り出し、川の水を容器の半分ほど掬い入れ、それを俺の方に差し出した。

「ありがとう」
 折角なので、ありがたく使わせてもらうことにする。そこに暴れる魚を放り込むと、先から羨望の眼差しを向けてくるワタルの前で、先と同じく魚を掴み上げた。

「スゲー‼︎」
「ワタル、騒ぎすぎ」
 はしゃぐワタルの傍にいる獣人の少女、ランが手で耳を押さえながら迷惑そうにワタルを嗜める。

 レオナはレオナで、彼女にじゃれついてくるレオとヒナの最年少コンビの相手をしているようだった。

「先にうちの人に挨拶してく?」
 ここに来るまでの道中で今日はニコの家に泊めてもらう約束をしていたので、先に挨拶を済ませてしまうことにする。

「あぁ」
 俺が振り返ると、ワタルが「もっと見せて!」と言いながら腕を引っ張ってきた。

「じゃあ、先に二人を呼んでくるから」
「頼む」
 ランが自由すぎだとワタルに説教をかます中、ニコの言葉に甘え、俺はこっちに集中することにする。
 子供たちの人数分くらいの魚はとってあげたいからな。

 戻ってきたアメリアたちと共にニコの実家に向かい、そこでニコの両親と簡単に紹介も済ませ、その時に捕った魚を手土産に渡す。
 ニコの言っていた通り、父親のヨハンさんの毛が灰色で、母親のフィンさんの毛が、ニコと同じブラウンだった。

 今から昼の準備をするということで、フィンさんとニコが厨房に消えていく。

「……」
 そして、ヨハンさんと俺は、木製の丸いテーブルを挟み、無言で向き合っていた。ヨハンさんに倣い、俺もニコから教わった正座という座り方をしている。

 ヨハンさんは無表情のまま俺を見つめてきており、彼の胸の内を察することはできない。
 それでも、彼が怒気にも似た剣呑な雰囲気を醸し出していることだけはわかった。
 それを察してか、俺に抱きつくユウ以外は、皆少し離れたところにいるからな。

「……ルシェフ・ブラウン君だったかな?」
「はい」
 暫くして、重い口を開いたヨハンさんに、姿勢を正してそう答える。

「さっき話は一通り娘から聞いた。それ──」
「兄ちゃん、遊ぼーぜ!」
 おもむろにワタルが勢いよく抱きついてきた。
 頼むから、少し空気を読んでくれ……。

「ワタル、困らせないの」
 そして案の定、ランから溜め息混じりに窘めている。
 何だかんだ言いながらも、ランがワタルの傍を離れないことから、見た目ほど不仲ではないことが伺えた。

「ユウちゃん、ユウちゃん、私の方に来ませんか?」
「……」
 ユウの事が気に入ったのか、ワタルとランの二人についていたオリビアが、両手を広げてユウを呼ぶものの、彼女は見向きもしない。
 初めは少し反応を示していたが、オリビアが必死に声をかけ続けた結果、ついに反応すらしなくなっていた。

「何だ姉ちゃん。仕方ないから、俺が遊んでやろうか?」
 必死にユウに構ってもらおうとするオリビアに、ワタルが声をかける。仕方ないとか言っている割りには、ゆったりと尻尾を振っていた。

「ヒナちゃ──」
「……」
 視界の端にいるアメリアが、レオと共にレオナの所にいたヒナに声をかけると、ヒナがレオナの後ろに隠れてしまう。

「ヒナちゃん?」
「……ぐすっ」
 ヒナが目元に滴が溜まり始める。もしかしたら、初めて見る半竜人アメリアを怖がっているのかもしれないな。

「ごめんなさい!この娘人見知りで……」
 ぐずり始めたヒナを見たランが、慌ててアメリアの元に行った。

「ほら、大丈夫だから、ね?」
「レオ」
 ランがぐずるヒナを慰める横で、傍にいたレオがヨハンさんの言葉にコクリと静かに頷き、とてとてとどこかに向かって行く。

「ごめんね」
「いえ、大丈夫です。こちらこそ、すいません」
 二人がペコリと頭を下げる中、先程いなくなったレオが何かを持ってとてとてと戻ってきた。

「ヒナ」
 レオはヒナの元に行くと、持ってきたハンカチで彼女の目元をくしくしと甲斐甲斐しく拭いてやり、ヒナの物と思われる、魚のぬいぐるみを持たせた。

「二人共、しっかりしてるんだね」
「上があれですから……」
 感嘆するアメリアの言葉に、ランは溜め息混じりに厨房の方へと駆け出していくワタルに視線を向けた。

「逃げられちゃいました……」
 ワタルの興味が他に移っただけなのだろうが、オリビアが少し残念そうにそう漏らす。

「ユウちゃん……」
「……」
 オリビアが俺に抱きつくユウの頭を撫でながら名前を呼ぶものの、相変わらず返事はない。それどころか、何となくユウが嫌そうな顔をしているように見えた。

「お菓子食べませんか?」
 オリビアも負けじと、バッグから取り出したお菓子で釣ろうと試みる。

「お菓子……」
 以外にも、さっきまでぐずっていたヒナから反応がある。ぬいぐるみを抱いているからか、今はぐずりはしていなかった。

「食べますか?」
「うん」
 オリビアの声に、ヒナが小さく頷く。

「どうぞ」
「ありがとぅ」
 お菓子を受け取ると、ヒナはニコリと無邪気な笑みを浮かべた。

「お菓子あるのか⁉︎」
 オリビアがお菓子を出したのを見つけたのか、厨房にいたワタルが駆け戻ってくる。
 イカ下足を咥えている辺り、摘まみ食いに行っていたようだった。

「ワタル、摘まみ食いしたら駄目でしょ!」
「良いだろ?まだ、一回目だし!」
 何回行く気だ。

「それで、さっきの話だが──」
 コホンと、小さく咳払いをしたヨハンさんが、話の続きを始める。

「準備出来たから、手伝って」
「わかったわ」
 タイミングを見計らったかのようなニコの声に、ランが真っ先に厨房へと向かう。

「俺も手伝ってやるよ!」
「ワタルは良いから」
 ワタルも厨房へと向かおうとするが、すぐにニコに止められていた。

「……」
「……話は食後にしようか」
「わかりました」
 少し寂しそうにそう告げたヨハンさんに、俺はそう答えることしかできなかった。
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