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第七十三話 クーデター
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翌日、次の階層へと続く門を見つけることは出来なかったものの、昼前には前の階層に戻り、そこで剛たちと合流した。
その時アルマに適当な酒を持たせ、彼女たちとも別れた。詳しい話までは聞かなかったので知らないが、アルマたちには何か他にやってもらいたいことがあるとかで王女からの呼び出しがあったようだ。
リディアが昨日の夕食時から何かこちらの様子を窺ってきていることには気づいていたが、結局は話はできず終いだった。
まぁ、剛が聞いてきた話だと、また近いうちに彼女たちと会うことになるから問題ないだろう。
「何だか、急に静かになりましたね……」
剛たちと別れた後、探索を続けようと先の階層へと戻る道すがら、オリビアが誰にでもなく呟く。
アルマたちがいなくなり、パーティーの人数も半分になったことで、無言ほどではないにしても、会話自体は少なくなっていた。
「なぁ、アドルフ。気になったんだが、シャルトリエ程の人間が何故自身の能力を隠して料亭で働いているんだ?」
シャル程戦える人間なら、冒険者として活動すればあそこの料亭よりも稼げるはずだ。なのに、彼女がその道を選ばなかったことが気になった。
「別に、能力を隠していたのはお前もだろう?」
「それはそうなんだが……」
アドルフの正論に、返す言葉もない。
結局、アドルフはシャルのことを話そうとはせず、そのままはぐらかされてしまった。
アルマたちと別れてから一週間ほど経ち、その間さらに二つの門を潜り、ダンジョンの内装が今までとは打って代わり、森林地帯になったことまで確認できた。
またも様変わりしたダンジョンを不審に思いながらも、今回は羽休めを兼ねて一度町へと戻ることにする。
ある程度までダンジョンの深くに潜っていたこともあり、アドルフが町まで転移できる階層までは、地図があっても歩けば半日ほどの距離になっていた。
まぁ、俺たちはアドルフの転移で各階層の門がある前に転移を繰り返しての移動だったので、さほど移動に時間がかかってはいないわけだが。
町に着いた後宿だけは確保し、アドルフは王都に戻ると言っていなくなり、俺たちは俺たちで夜までは自由時間として気ままに過ごすことにした。
「……」
レオナと共に、夕暮れ時の町を歩く。今回は二人で過ごすことを約束しており、オリビアも何か他にやることがあるからとついてきてはいなかった。
まだ日も落ちきってはおらず、それなりに多い人の並みをかき分けながら進み、食事処カジキを目指す。
店内に入ると、今回は偶然アドルフが来ていたからなのか、普段より一層機嫌良さげなシャルに個室へ案内された。
「ご注文が決まりましたら、またお声がけ下さい」
「ありがとう」
シャルが個室から出ていった後、隣に座るレオナと共にメニューを見る。
食事処カジキは、魚介類を使ったメニューが多いが、一部には肉料理もある。ラム肉は無いようだったが、熊肉のワイン煮とそれなりに良いワインがあったため、それらと共にいくつか軽いものを頼む。
「お待たせしました!」
レオナと軽く話ながら時間を潰していると、ワゴンにいくつかの料理を乗せたシャルが再び個室に訪ねてきた。
「それでは、ごゆっくり」
俺たちを案内したときと同様、意味ありげな笑みを浮かべてシャルが個室を出ていく。意味ありげな笑みではあったが、そこに悪意のようなものは感じなかった。
「それじゃあ、乾杯」
「うん、乾杯」
互いのグラスにワインを注ぎ合い、軽くグラスを当てて乾杯すると、コン、とグラスから小さく音が鳴る。いつも聞いている音の筈だったのに、今日だけはその音に愛しささえ感じていた。
グラスに軽く口をつけ、早速先からワインの香りで鼻孔をくすぐる熊肉のワイン煮を頂くことにする。
料金はともかく、この店の料理がどれも絶品であることは既に知っているので、きっとこの熊肉のワイン煮も俺の想像を越える一品なのだろう。
久しぶりに二人で語らった後は会計を済ませてカジキを後にし、眠たげなレオナを背負って宿へと戻る。
「あ、ブラウンさん!」
俺が部屋に戻ろうとしたところで、隣の部屋の扉が開き、オリビアが部屋から出てくる。
彼女は、俺がレオナを背負っていることに気づくと、部屋の扉を開けてくれた。
「ありがとう」
一度レオナをベッドに寝かせ、そのまま部屋に来たオリビアに向き直る。
「オリビア、後十日で中央の国に戻るが、準備は出来てるか?」
「……はい」
俺の言葉に、オリビアが神妙な面持ちで重々しく頷く。
中央の国での会談が終わり、オリビアの罪が晴れたとして、今まで通りに戻るわけでもなく、オリビアがこれからギルドに戻るわけでもない。
オリビアの濡れ衣を晴らせるだけだし、《ストワルツ・ブレイズ》で活動しているメンバーがストルワルツにいられなくなる程度の効果しかない。
オリビアのメリットが少ないだけに、彼女の甘さから会談を取り止める可能性まであり得たが、この様子なら大丈夫そうだ。
「ルシェ──ふか?」
翌朝、俺たちが再びダンジョンに向かおうというところで、少し慌てた様子の剛が宿を訪ねてきた。
「どうかしたのか?」
普段ならあり得ない剛の様子に、取り急ぎ用件を聞くことにする。
「中央の国でクーデターが起きた」
「は?」
剛が何を言っているのかわからず、思わず聞き返してしまう。
「クーデターだ。アルマたちは、既に現地にいる……」
「──!」
「安心しろ。彼女たちには土の塔の主がついている。万が一もない」
俺が剛の胸ぐらを掴むと、剛は淡々とそう答えた。その様子から、アルマたちの中央入りは剛の望むところではなかったことがわかった。
《傀儡たちの主》がいるなら、間違えてもアルマたちが怪我をするような事態にはならないだろうが、早急に首都に向かった方が良さそうだ。
「王女からの正式な依頼もある。《鉄神》シラバネ・シルバも別の依頼で不在になっていて、手が足りないらしい。このまま制圧に向かってもらってもらうぞ」
「っ!」
シラバネの不在を聞いたオリビアの顔が青くなる。
《中央の影》がいる以上、クーデターが成功する可能性は皆無であったが、《スピリッツ・サーヴァント》と《鉄神》の不在は痛いな……。状況によっては多少の怪我人は出るかもしれない。
「ジャック・ハーヴィーたち竜人も既に現地に赴いている。俺たちもすぐに向かうが、問題はないか?」
剛の言葉を聞き、念のために全員の顔を見て問題ないか確認する。
剛に頷くと、彼の転移によって俺たちは辞めて久しいギルドへと転移した。
その時アルマに適当な酒を持たせ、彼女たちとも別れた。詳しい話までは聞かなかったので知らないが、アルマたちには何か他にやってもらいたいことがあるとかで王女からの呼び出しがあったようだ。
リディアが昨日の夕食時から何かこちらの様子を窺ってきていることには気づいていたが、結局は話はできず終いだった。
まぁ、剛が聞いてきた話だと、また近いうちに彼女たちと会うことになるから問題ないだろう。
「何だか、急に静かになりましたね……」
剛たちと別れた後、探索を続けようと先の階層へと戻る道すがら、オリビアが誰にでもなく呟く。
アルマたちがいなくなり、パーティーの人数も半分になったことで、無言ほどではないにしても、会話自体は少なくなっていた。
「なぁ、アドルフ。気になったんだが、シャルトリエ程の人間が何故自身の能力を隠して料亭で働いているんだ?」
シャル程戦える人間なら、冒険者として活動すればあそこの料亭よりも稼げるはずだ。なのに、彼女がその道を選ばなかったことが気になった。
「別に、能力を隠していたのはお前もだろう?」
「それはそうなんだが……」
アドルフの正論に、返す言葉もない。
結局、アドルフはシャルのことを話そうとはせず、そのままはぐらかされてしまった。
アルマたちと別れてから一週間ほど経ち、その間さらに二つの門を潜り、ダンジョンの内装が今までとは打って代わり、森林地帯になったことまで確認できた。
またも様変わりしたダンジョンを不審に思いながらも、今回は羽休めを兼ねて一度町へと戻ることにする。
ある程度までダンジョンの深くに潜っていたこともあり、アドルフが町まで転移できる階層までは、地図があっても歩けば半日ほどの距離になっていた。
まぁ、俺たちはアドルフの転移で各階層の門がある前に転移を繰り返しての移動だったので、さほど移動に時間がかかってはいないわけだが。
町に着いた後宿だけは確保し、アドルフは王都に戻ると言っていなくなり、俺たちは俺たちで夜までは自由時間として気ままに過ごすことにした。
「……」
レオナと共に、夕暮れ時の町を歩く。今回は二人で過ごすことを約束しており、オリビアも何か他にやることがあるからとついてきてはいなかった。
まだ日も落ちきってはおらず、それなりに多い人の並みをかき分けながら進み、食事処カジキを目指す。
店内に入ると、今回は偶然アドルフが来ていたからなのか、普段より一層機嫌良さげなシャルに個室へ案内された。
「ご注文が決まりましたら、またお声がけ下さい」
「ありがとう」
シャルが個室から出ていった後、隣に座るレオナと共にメニューを見る。
食事処カジキは、魚介類を使ったメニューが多いが、一部には肉料理もある。ラム肉は無いようだったが、熊肉のワイン煮とそれなりに良いワインがあったため、それらと共にいくつか軽いものを頼む。
「お待たせしました!」
レオナと軽く話ながら時間を潰していると、ワゴンにいくつかの料理を乗せたシャルが再び個室に訪ねてきた。
「それでは、ごゆっくり」
俺たちを案内したときと同様、意味ありげな笑みを浮かべてシャルが個室を出ていく。意味ありげな笑みではあったが、そこに悪意のようなものは感じなかった。
「それじゃあ、乾杯」
「うん、乾杯」
互いのグラスにワインを注ぎ合い、軽くグラスを当てて乾杯すると、コン、とグラスから小さく音が鳴る。いつも聞いている音の筈だったのに、今日だけはその音に愛しささえ感じていた。
グラスに軽く口をつけ、早速先からワインの香りで鼻孔をくすぐる熊肉のワイン煮を頂くことにする。
料金はともかく、この店の料理がどれも絶品であることは既に知っているので、きっとこの熊肉のワイン煮も俺の想像を越える一品なのだろう。
久しぶりに二人で語らった後は会計を済ませてカジキを後にし、眠たげなレオナを背負って宿へと戻る。
「あ、ブラウンさん!」
俺が部屋に戻ろうとしたところで、隣の部屋の扉が開き、オリビアが部屋から出てくる。
彼女は、俺がレオナを背負っていることに気づくと、部屋の扉を開けてくれた。
「ありがとう」
一度レオナをベッドに寝かせ、そのまま部屋に来たオリビアに向き直る。
「オリビア、後十日で中央の国に戻るが、準備は出来てるか?」
「……はい」
俺の言葉に、オリビアが神妙な面持ちで重々しく頷く。
中央の国での会談が終わり、オリビアの罪が晴れたとして、今まで通りに戻るわけでもなく、オリビアがこれからギルドに戻るわけでもない。
オリビアの濡れ衣を晴らせるだけだし、《ストワルツ・ブレイズ》で活動しているメンバーがストルワルツにいられなくなる程度の効果しかない。
オリビアのメリットが少ないだけに、彼女の甘さから会談を取り止める可能性まであり得たが、この様子なら大丈夫そうだ。
「ルシェ──ふか?」
翌朝、俺たちが再びダンジョンに向かおうというところで、少し慌てた様子の剛が宿を訪ねてきた。
「どうかしたのか?」
普段ならあり得ない剛の様子に、取り急ぎ用件を聞くことにする。
「中央の国でクーデターが起きた」
「は?」
剛が何を言っているのかわからず、思わず聞き返してしまう。
「クーデターだ。アルマたちは、既に現地にいる……」
「──!」
「安心しろ。彼女たちには土の塔の主がついている。万が一もない」
俺が剛の胸ぐらを掴むと、剛は淡々とそう答えた。その様子から、アルマたちの中央入りは剛の望むところではなかったことがわかった。
《傀儡たちの主》がいるなら、間違えてもアルマたちが怪我をするような事態にはならないだろうが、早急に首都に向かった方が良さそうだ。
「王女からの正式な依頼もある。《鉄神》シラバネ・シルバも別の依頼で不在になっていて、手が足りないらしい。このまま制圧に向かってもらってもらうぞ」
「っ!」
シラバネの不在を聞いたオリビアの顔が青くなる。
《中央の影》がいる以上、クーデターが成功する可能性は皆無であったが、《スピリッツ・サーヴァント》と《鉄神》の不在は痛いな……。状況によっては多少の怪我人は出るかもしれない。
「ジャック・ハーヴィーたち竜人も既に現地に赴いている。俺たちもすぐに向かうが、問題はないか?」
剛の言葉を聞き、念のために全員の顔を見て問題ないか確認する。
剛に頷くと、彼の転移によって俺たちは辞めて久しいギルドへと転移した。
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