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第七十四話 ストルワルツ
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俺たちがストルワルツに入ると、中にいた人間の視線が一斉に集まってくる。
クーデターが起きているということもあり、かなりの人数がギルドに集まっていた。
「──よぅ!元気そうでよかったぜ!」
賛否両論、周囲がヒソヒソと話す中、こちらへと歩み寄ってきたギルド長のナタカレスが少し引きつり気味な笑みを浮かべた。
「……」
ナタカレスを一睨みしてから横を通りすぎ、黒のスーツに身を包んだ金髪の女性、このギルドのサブマスターであるアンナ・モルモッタの元へと向かう。
「西の国の王女、キャロル・ペリアティからの依頼で加勢に来た。状況を教えろ」
先頭を歩いていたアドルフが、アンナへと声をかける。
「──⁉︎」
アドルフの発する圧に当てられたのか、いつも冷静な彼女が珍しく身体を強張らせた。
「……加勢、感謝、致します……。今、敵側は四ギルド混成の精鋭部隊を先頭にこちらへと進軍してきていまして──」
少しぎこちなくはあったが、短い間である程度平静を取り戻したアンナが説明を始める。
アンナから一通り説明を聞く中で、一部からヤジも飛んできたが、それは、白銀の鎧に身を包んだ一人の男によって阻まれた。
「──静まれ!」
ギルド内に男の声が響き渡る。それと同時に、刹那の間の静寂がギルド内を支配した。
頭から足までを白銀の鎧で隠しており、顔すら見ることはできなかったが、俺はこの男を知っている。
「シラバネか?どうしてここに?」
今不在である筈の二つ名冒険者、《鉄神》シラバネ・シルバだ。
「どうしても何も、ここは私のホームギルドだが?」
「いや、今お前は依頼で遠くに行ってるって……」
「あぁ、それは私が流したデマです」
俺の言葉に、アンナが何でもない顔でそう答えた。
「そういうことだ。私は私で敵本陣の襲撃に向かう。お前たちはお前たちの成すべき事を成せ」
そう言って、シラバネは薙刀を持っていない方の手で一人の気絶した男を引きずりながら、ギルドを後にした。
「ねぇ、あれって……」
ニコの言葉に、小さく頷く。シラバネが引きずっていたのは、《ストワルツ・ブレイズ》に所属するメンバーの一人、アレス・カーターだ。恐らく、シラバネが気を効かせて連れていってくれたのだろう。
「あぁ。アレスだったな……」
シラバネが出てきた辺りから、アレスの存在に気づいて俺の後ろに隠れていたオリビアの頭を軽く撫でる。
この様子だと、何処かにサラもいそうだな……。
「いた!アンタ勝手に──!」
「いいから、お前は黙っとけ!」
遠くから、聞き覚えのある声が聞こえて、声の元に視線を送ると、憤慨した様子の赤髪の女性、《ストワルツ・ブレイズ》のメンバーの一人であるサラ・マーティンと、彼女を後ろから抑えながら口に手を当てて無理やり黙らせている銀髪の青年、ノア・ガルシアの姿が見受けられた。
オリビアは彼女の存在に気づいて大きく身を震わせ、俺はサラから守るようにオリビアの前に出た。
「大丈夫。多分、私にキレてるだけだから」
ニコが普段より優しげな声でオリビアにそう伝える。
「何かあったのか?」
「不意打ちに近い形でパーティーを抜けたから、それが気に入らないんだと思う」
「そうなのか……」
少し気になる話ではあったが、それはまたの機会に聞かせてもらおう。
ノアがサラを連れていくのを見送ってから先の話を続ける。
「それで、レオナはアドルフに任せるとして、俺たちは何処を叩けば良い?」
先の話し合いで、レオナとアドルフがある一つの拠点へと向かい、指揮系統を麻痺させることが決まっていたため、残りのメンバーの動きについても確認を取る。
「ルシェフ・ブラウンとアメリア・ハーヴィーの両名は、ゲリラ戦を展開してくる敵の制圧を。ニコ・ネルソンには、D地点への潜入に向かって頂きます。オリビア・フローリアはストルワルツの防衛に残ってください」
「アンナ……」
俺が口を開くと、アンナが即座に首を横に振る。
「彼女に人を殺せるのですか?」
真っ直ぐ目を見て言われた言葉に、頷くことは出来なかった。
オリビアをこのギルドに残すのは心苦しかったが、それでも彼女を不必要な危険に晒すのよりはマシだと思うことにしよう。
「……わかった。オリビアには残ってもらう」
「今は別件で外していますが、すぐにアルマ・ブラウンたちも戻ってきます。そう心配することもないでしょう」
俺の心情を察してか、アンナが努めて優しい声でそう告げる。顔を見れば彼女が本心から気遣っていないことなどわかったが、彼女のこういった細かい気遣いには救われた事も多かったな……。
「そろそろ《中央の影》のメンバーも偵察から戻ってきます。向こうが動き始め次第、二人には初めに拠点を潰してもらい、先行している部隊を制圧しますので、彼らが戻ってくるまではギルド内に待機していてください」
それだけ言うと、アンナは少し早足でギルドの二階へ向かう。
今のギルドは、ここを拠点とする冒険者でごった返し、一階だけでは人が入りきらない。
恐らく、アンナは二階のメンバーとの情報共有へと向かったのだろう。
「彼女、アンナ・モルモッタだったか?なかなか悪くない指揮官ぶりではないか」
アンナを見送った後、アドルフがいつものニヒルな笑みを浮かべる。
「ストルワルツは、ギルド長が脳筋だし、有事の時いつも彼女が指揮をとってくれてたからな」
「どおりで」
「アドルフさん!」
少し離れた場所からシャルの声が聞こえて振り返ると、手を大きく振り、にこやかな笑みを浮かべて駆け寄ってくるシャルの姿と、その後ろに続いて歩くアルマたちの姿が見受けられた。
「やぁ、久しぶり」
アルマたちと一緒に俺たちの元にきた一人の青年、上山湊が俺の目を見て微笑みかけてくる。
「あぁ、久しぶり」
湊と会うのは、前にアドルフたちとパーティーを組んで以来だったし、数年ぶりの再会になるのか……。
「──今日は一人なんだな」
「うん。事前にクーデターが起きる話は聞いてたけど、上手く都合が合わなくてね。彼女たちには別の仕事をやってもらっているよ」
言いながら、湊が愛想笑いを浮かべる。
彼女たちというのは、湊の保有するゴーレムたちのことだ。《傀儡たちの主》である彼は、常に複数のゴーレムと行動を共にしているが、今回は例外であった。
ただ、ゴーレムがいないからといって、神宿りである上山湊からしたら、大した問題ではないのだろう。
──彼の有するゴーレムは、戦闘面を補佐するために存在するわけでもないしな。
「アルマたちを頼む」
「うん。今日は皆はいないけど、三人を守るくらいの力はあるから、安心してよ」
「ありがとう」
微笑む湊に、笑みを作って返す。彼がそう断言するということは、十中八九彼に憑いている女神が、土の塔ではなく彼と共にこの場にいるということなのだろう。
暫く湊との昔話に花を咲かせるなか、急にギルドがざわめきだしたことに気づく。どうやら、彼らが戻ってきたようだ。
入り口の方へと目を向けると、周囲の目を集めている、五人ほどの男女の姿が見受けられる。
彼らが、現在の《中央の影》のメンバーだ。
「ふむ。なかなかに楽しめそうな面子ではないか」
アドルフが例の如くニヒルな笑みを浮かべる。
「頼むから、今は問題を起こさないでくれよ」
「わかっている。王女との約束もあるしな。それに、またお前と戦う機会もあるのだろう?」
「……」
何処から王女の耳に入るのかがわからないので、何も答えないことにする。アドルフは、それを肯定ととったようで、笑みを深くしていた。
《中央の影》のメンバーは、周囲からの視線を意に返すこともなく、アンナを探しているようだ。
その途中、《中央の影》の面々をまとめている男、ウェイス・ウィリアムと視線があったが、彼は無言のまま視線を階段の方へと戻し、そのまま二階へと向かっていく。
「あ、オリビアちゃん来てたんだ……ちょっと抜けるね!」
ウェイスの視線を追って俺たちの存在に気づいたらしいバードリーが楽しげな笑みを浮かべ、《中央の影》の誰かであろう、フードを深く被った人間の手を引きながら俺たちの方へと進路を変えた。
クーデターが起きているということもあり、かなりの人数がギルドに集まっていた。
「──よぅ!元気そうでよかったぜ!」
賛否両論、周囲がヒソヒソと話す中、こちらへと歩み寄ってきたギルド長のナタカレスが少し引きつり気味な笑みを浮かべた。
「……」
ナタカレスを一睨みしてから横を通りすぎ、黒のスーツに身を包んだ金髪の女性、このギルドのサブマスターであるアンナ・モルモッタの元へと向かう。
「西の国の王女、キャロル・ペリアティからの依頼で加勢に来た。状況を教えろ」
先頭を歩いていたアドルフが、アンナへと声をかける。
「──⁉︎」
アドルフの発する圧に当てられたのか、いつも冷静な彼女が珍しく身体を強張らせた。
「……加勢、感謝、致します……。今、敵側は四ギルド混成の精鋭部隊を先頭にこちらへと進軍してきていまして──」
少しぎこちなくはあったが、短い間である程度平静を取り戻したアンナが説明を始める。
アンナから一通り説明を聞く中で、一部からヤジも飛んできたが、それは、白銀の鎧に身を包んだ一人の男によって阻まれた。
「──静まれ!」
ギルド内に男の声が響き渡る。それと同時に、刹那の間の静寂がギルド内を支配した。
頭から足までを白銀の鎧で隠しており、顔すら見ることはできなかったが、俺はこの男を知っている。
「シラバネか?どうしてここに?」
今不在である筈の二つ名冒険者、《鉄神》シラバネ・シルバだ。
「どうしても何も、ここは私のホームギルドだが?」
「いや、今お前は依頼で遠くに行ってるって……」
「あぁ、それは私が流したデマです」
俺の言葉に、アンナが何でもない顔でそう答えた。
「そういうことだ。私は私で敵本陣の襲撃に向かう。お前たちはお前たちの成すべき事を成せ」
そう言って、シラバネは薙刀を持っていない方の手で一人の気絶した男を引きずりながら、ギルドを後にした。
「ねぇ、あれって……」
ニコの言葉に、小さく頷く。シラバネが引きずっていたのは、《ストワルツ・ブレイズ》に所属するメンバーの一人、アレス・カーターだ。恐らく、シラバネが気を効かせて連れていってくれたのだろう。
「あぁ。アレスだったな……」
シラバネが出てきた辺りから、アレスの存在に気づいて俺の後ろに隠れていたオリビアの頭を軽く撫でる。
この様子だと、何処かにサラもいそうだな……。
「いた!アンタ勝手に──!」
「いいから、お前は黙っとけ!」
遠くから、聞き覚えのある声が聞こえて、声の元に視線を送ると、憤慨した様子の赤髪の女性、《ストワルツ・ブレイズ》のメンバーの一人であるサラ・マーティンと、彼女を後ろから抑えながら口に手を当てて無理やり黙らせている銀髪の青年、ノア・ガルシアの姿が見受けられた。
オリビアは彼女の存在に気づいて大きく身を震わせ、俺はサラから守るようにオリビアの前に出た。
「大丈夫。多分、私にキレてるだけだから」
ニコが普段より優しげな声でオリビアにそう伝える。
「何かあったのか?」
「不意打ちに近い形でパーティーを抜けたから、それが気に入らないんだと思う」
「そうなのか……」
少し気になる話ではあったが、それはまたの機会に聞かせてもらおう。
ノアがサラを連れていくのを見送ってから先の話を続ける。
「それで、レオナはアドルフに任せるとして、俺たちは何処を叩けば良い?」
先の話し合いで、レオナとアドルフがある一つの拠点へと向かい、指揮系統を麻痺させることが決まっていたため、残りのメンバーの動きについても確認を取る。
「ルシェフ・ブラウンとアメリア・ハーヴィーの両名は、ゲリラ戦を展開してくる敵の制圧を。ニコ・ネルソンには、D地点への潜入に向かって頂きます。オリビア・フローリアはストルワルツの防衛に残ってください」
「アンナ……」
俺が口を開くと、アンナが即座に首を横に振る。
「彼女に人を殺せるのですか?」
真っ直ぐ目を見て言われた言葉に、頷くことは出来なかった。
オリビアをこのギルドに残すのは心苦しかったが、それでも彼女を不必要な危険に晒すのよりはマシだと思うことにしよう。
「……わかった。オリビアには残ってもらう」
「今は別件で外していますが、すぐにアルマ・ブラウンたちも戻ってきます。そう心配することもないでしょう」
俺の心情を察してか、アンナが努めて優しい声でそう告げる。顔を見れば彼女が本心から気遣っていないことなどわかったが、彼女のこういった細かい気遣いには救われた事も多かったな……。
「そろそろ《中央の影》のメンバーも偵察から戻ってきます。向こうが動き始め次第、二人には初めに拠点を潰してもらい、先行している部隊を制圧しますので、彼らが戻ってくるまではギルド内に待機していてください」
それだけ言うと、アンナは少し早足でギルドの二階へ向かう。
今のギルドは、ここを拠点とする冒険者でごった返し、一階だけでは人が入りきらない。
恐らく、アンナは二階のメンバーとの情報共有へと向かったのだろう。
「彼女、アンナ・モルモッタだったか?なかなか悪くない指揮官ぶりではないか」
アンナを見送った後、アドルフがいつものニヒルな笑みを浮かべる。
「ストルワルツは、ギルド長が脳筋だし、有事の時いつも彼女が指揮をとってくれてたからな」
「どおりで」
「アドルフさん!」
少し離れた場所からシャルの声が聞こえて振り返ると、手を大きく振り、にこやかな笑みを浮かべて駆け寄ってくるシャルの姿と、その後ろに続いて歩くアルマたちの姿が見受けられた。
「やぁ、久しぶり」
アルマたちと一緒に俺たちの元にきた一人の青年、上山湊が俺の目を見て微笑みかけてくる。
「あぁ、久しぶり」
湊と会うのは、前にアドルフたちとパーティーを組んで以来だったし、数年ぶりの再会になるのか……。
「──今日は一人なんだな」
「うん。事前にクーデターが起きる話は聞いてたけど、上手く都合が合わなくてね。彼女たちには別の仕事をやってもらっているよ」
言いながら、湊が愛想笑いを浮かべる。
彼女たちというのは、湊の保有するゴーレムたちのことだ。《傀儡たちの主》である彼は、常に複数のゴーレムと行動を共にしているが、今回は例外であった。
ただ、ゴーレムがいないからといって、神宿りである上山湊からしたら、大した問題ではないのだろう。
──彼の有するゴーレムは、戦闘面を補佐するために存在するわけでもないしな。
「アルマたちを頼む」
「うん。今日は皆はいないけど、三人を守るくらいの力はあるから、安心してよ」
「ありがとう」
微笑む湊に、笑みを作って返す。彼がそう断言するということは、十中八九彼に憑いている女神が、土の塔ではなく彼と共にこの場にいるということなのだろう。
暫く湊との昔話に花を咲かせるなか、急にギルドがざわめきだしたことに気づく。どうやら、彼らが戻ってきたようだ。
入り口の方へと目を向けると、周囲の目を集めている、五人ほどの男女の姿が見受けられる。
彼らが、現在の《中央の影》のメンバーだ。
「ふむ。なかなかに楽しめそうな面子ではないか」
アドルフが例の如くニヒルな笑みを浮かべる。
「頼むから、今は問題を起こさないでくれよ」
「わかっている。王女との約束もあるしな。それに、またお前と戦う機会もあるのだろう?」
「……」
何処から王女の耳に入るのかがわからないので、何も答えないことにする。アドルフは、それを肯定ととったようで、笑みを深くしていた。
《中央の影》のメンバーは、周囲からの視線を意に返すこともなく、アンナを探しているようだ。
その途中、《中央の影》の面々をまとめている男、ウェイス・ウィリアムと視線があったが、彼は無言のまま視線を階段の方へと戻し、そのまま二階へと向かっていく。
「あ、オリビアちゃん来てたんだ……ちょっと抜けるね!」
ウェイスの視線を追って俺たちの存在に気づいたらしいバードリーが楽しげな笑みを浮かべ、《中央の影》の誰かであろう、フードを深く被った人間の手を引きながら俺たちの方へと進路を変えた。
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