異世界でワーホリ~旅行ガイドブックを作りたい~

小西あまね

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2章

25 病気

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 冬は折り返し地点を過ぎたが、春にはまだ遠い。街ではインフルエンザが流行していた。

 本当にインフルエンザかは分からない。風邪に似ているけど、高熱や重症化、強い感染を伴っているようなので、よく似ていると私が思っているだけだ。
 インフルエンザの原因や対処法が分かり始めたのは19世紀終わり頃だった筈。多分この世界では誰も特定できないだろう。
 私のこの高熱も、それかは分からない。

 ベッドに横たわり、熱の苦しさと全身の関節の痛みで朦朧としながら考える。
 視線をずらすと、枕元にマスクをして心配そうな目で覗きこんでいるアレクの顔がある。
 それに何となくほっとして少し顔が緩む。

 昨夜、寒気と苦しさで何度も目が覚めた。目が覚めるたび悪化していて、朝には既にぐったりしていて、ただの不調や風邪でないと認めざるを得なかった。
 朝アレクが起き出して朝食の用意に階下へ降りようとする音を聞き、鼻と口を布を覆い廊下へ出て事情を話し、アレクや客に移さないよう店を休み部屋へ籠らせてほしいこと、私と共有のものは消毒してほしいことを伝えた。
 伝染病を家に持ち込んで申し訳ない、と謝ると、アレクは気にする所が違うと怒り、すぐベッドへ戻るよう言い、店を閉め私の看病に徹することを即断した。

「アレク、本当に……迷惑かけてごめん」
「病気はハナのせいじゃない。ゆっくり休んでください」
「私は一人で寝ていられるから、アレクは店を開けてて」
「ハナを一人で置いて、急変したら命に関わります。それに比べたら店を休む位何でもありません」
「同じ部屋にいて、アレクまで移ったら……」
「だからハナの言う通り、こうしてマスクも消毒もしています。俺も一緒に倒れたらハナが危険なのでちゃんと気を付けます。それに俺は丈夫ですから」
 気遣い微笑んでくれるアレクに、熱で潤んだ目が更に潤みそうになって慌てて瞬く。

 本当は、とても不安だったのだ。異国で病気になるのはただでさえ不安なことで、しかもここは現代医学が及ばず、死はとても身近にあるものだから。

 ここの医学知識は19世紀ヨーロッパ程度のようだった。現代の医学知識に照らすと誤りが多く、医師にかかるのも危険が伴うので、可能な限り避けたい。
 病気は障気(汚れた空気)が原因で起こるからと、極寒の日も一晩中窓を開け換気するよう指示されたり、やたら下剤を処方し栄養剤もない時代かえって体力を落とさせてしまったりする。
 薬もあてにできない。19世紀頃、多数の薬効を謳った飲み薬の成分が石鹸とアロエと生姜だけだったというのはいい方で、水銀やアヘンなどむしろ有害なものも、飲む側に知らされず混ぜられていたりする。
 また、薬事法が整えられておらず、医者の処方と同じ薬を制限なく一般人が薬局で買える。家庭の薬箱にはメスや鉗子まで備えられ、医療はその家の女性が負わされることが普通だった。家族が恐ろしい伝染病になれば、何の専門教育もうけていない女性が献身的に看護することが前提とされていた。

 この国の医療環境は暗い。
 ーーそんな中、アレクは当然という顔をして親身に私の看護をしてくれた。
 必ずしも『この時代の医学』に頼らず、消毒やハーブや保温など、現代の知識でも納得いく基本を押さえた方法を使った。本人の免疫力と体力を手助けする方法。とてもほっとした。

 アレクはスープを作ってくれた。肉とポロネギを煮た出汁や、大麦の煎じ汁ーーつまりアミノ酸や糖質やビタミンを補給するもの。これは先代がアレクが病気の時にも作ってくれたものだそうで、栄養的にも納得いくもので驚いた。
 そしてスポーツドリンクの代用品として私が教えた砂糖と塩を溶かした湯冷ましも作ってくれた。レモンも入れたいところだが、レモンはここより南国のもので、今は流通の関係で手に入らないそうだ。

「辛いかもしれませんが、少し体を起こせますか?薬です」
 アレクが私の背中に腕を差し入れ上体を支え、枕を腰の後ろにあててくれる。
 柔らかな、マスカットに似た香りが漂う。エルダーフラワーやいくつかのハーブをブレンドしたハーブティーだ。
 ハーブは東洋で言えば漢方薬や生薬だ。
 香りが記憶を刺激する。元の世界へ帰れないと知らされたあの日、アレクが入れてくれたお茶の香りだ。
 エルダーフラワーは『庶民の薬箱』とも呼ばれ、抗炎症作用など様々な薬効があって、現代も風邪薬などとして親しまれている。
 花言葉は『思いやり』『熱心さ』『哀れみ』『苦しみを癒す』。

 それは、アレクの献身的と言える看護のようで、申し訳なく感じつつも、その温かさに染み入るように癒された。
 薬を飲みまた横になる私に、アレクはきっちり毛布をかけてくれた。

「本当に、ありがとう。ごめんなさい」
「もう何度も聞きました。ーーハナはこちらの世界の気候や病気に慣れていないかもしれない。気にかけてあげられなくて迂闊でした。大事をとって、おかしいなと思ったことはすぐ教えてください」
 そうだ。こちらは全く別の病気があってもおかしくない。現代でさえ新型ウイルスが次々登場するのだ。
「こちらの世界に来てもう何ヵ月もずっと、ハナは全力で走り通しでした。更に店のトラブルがあって、気力が尽きてしまったのかもしれません。
そんなに一杯一杯にさせてしまってすみません。俺は、ハナが安心して頼れる人間になりたい。どうか、頼ってくれませんか」
 声音に怒りや責める色は全くなく、穏やかな思いやりに満ちた声でアレクは言った。その温かさに、自分の顔がくしゃりと歪むのが分かった。
「アレクを信頼してない訳じゃないの。頑張ろうとは思ったけど、無理をしてるつもりもなかったしーー」
「うん。そうですよね。知っています。夢中で走っていくのがハナの自然体で、それがハナの輝いているところです。
ーーだからこそというか、そんなハナのままでいられることを応援したいから、俺にはもう少し位甘えてほしいな、と、これは俺の願望です」

 私の顔は更にくしゃくしゃになり、溢れる涙が枕に次々染み込んでいった。
 思えば、こちらに来て初めての涙だった。
 元の世界と切り離されても、言葉や習慣の違いに苦労しても、仕事で暴言をぶつけられても、泣いたことはなかった。
 溢れる涙と共に自分が弱くなったようで、そしてそれを支えてくれる人が側にいてくれることで、同時にとても強くなれた気がした。
 熱でゆるんだ涙腺から、熱い涙が次々溢れて止まらない。

 アレクは少し驚いたような顔をして、それから、ぎこちなく、恐る恐るといった手つきでそっと頭をなでてくれた。
 大きくて少しひんやりした手が気持ちよくて目を閉じると、そのままずっとなで続けてくれた。



 アレクは自身の知識と私の頼みに従い、マスクと手洗いと定期的な換気、食器やタオルの煮沸消毒を徹底してくれた。うちは台所のレンジと別に湯沸かし釜があって幸いだった。シーツも煮洗いできる。

 高熱がなかなか下がらず、内心本気で死を覚悟した時も何度かあったが、一週間程でほぼ回復した。
 熱が下がってもまだウイルスが体内にあるだろうから出歩かず、2日程は部屋で繕い物などをして過ごしている。その頃にはアレクには店を開けてもらった。勿論消毒は徹底して。

 デスクワーク位しようかと思ったが、帳簿や本をウイルスで汚染してしまいそうなので、あとで煮沸できる布製品をいじる。幸いというのも妙だが、私もアレクもずっと仕事に追われて繕い物は後回しにしていたので、縫い物はいくつもあった。

 針を置き窓から冬の空を眺める。
 私は異世界トリップで全くチートがないと思っていたけれど、考えてみると疫学的チートだった。
 この時代に恐ろしい流行病だったはしかや百日咳は、4種混合ワクチンで生後数ヶ月で受けている。
 以前アフリカに旅行した時、狂犬病や破傷風の接種も受けた。野性動物や土が身近なこちらの世界では、とても心強い。但し、こちらはあと数年で追加接種しないと効果がなくなってしまうけれど。
 でも 少なくとも現時点、こちらの世界の人よりずっと安全率が高い。
 勿論それらを除いても、恐ろしい病気は沢山あるし、抗生物質どころか病原菌の発見すら追い付いていない時代だけれど。

 最近アレクに聞いたら、アレクも看護をしている間、私が死ぬかもしれないと不安だったという。
 まるで治ることを確信しているように落ち着いていたけれど、それは、看護者が患者を不安にさせてしまうことがないよう、心掛けていたそうだ。
 ストレスは免疫力を落とす。彼の落ち着いた態度は、私の不安のストレスを和らげ、薬として作用したと思う。
 そして勿論、アレク自身の感染のリスクも抱えて看護していたのだ。
 アレクの心の強さと思いやりに頭が下がる。

「あー……。惚れるよね。どうしたって惚れるよね」
 机に突っ伏してうめく。
 アレクが好きだ。前から自覚はしていたけど、底なしに好きになってしまう。
 いや、アレクは優しいから、縁ある人が病気になったら放っておけないだろうし、それを勘違いされても困るだろうけど。

「……当たって砕けてみようかな」
 好きだと伝えて、断られる。……うん、やっぱり断られる一択しか想像できない。
 その時は、お互い一緒に暮らしたり仕事したりするのを続けるのは気まずいだろう。幸い今は仕事は報酬制になったから、次のアパートや仕事を探し、この店を出ることができる。
 あぁ、経済的社会的に自立してるって、何て楽なんだろう。アレクが安心して私を振れる状況が確保できるし、私も、もだもだ心を抱えて踞ってないでぶつかって、決着をつけて前へ進むことができる。
 距離を置くことになっても、友人としてはずっと縁を持ち続けたいな。彼は素晴らしい人だから。それも伝えよう。

「……あ、今すぐはダメだ」
 ガイドブックか店か私かーーどれかが、悪意に晒されている。寝込む前に聞いた話は、改善したとは聞かない。
 これをアレクに丸投げして自分だけ出ていく訳にはいかない。もしも私が標的なら、私が出て行けば解決するだろうけど、状況が分からない。
 まずは、この件を解決してからだ。

 この『悪意』には、ずっと落ち込まされていたけれど、立ち向かおう、と気持ちが切り替わった。
 ゆっくり養生して気力が出たからかもしれない。アレクの心からの支えを感じて、私が強くなったからかもしれない。

 少なくとも分かっている範囲で、私達はこんな悪意に見合うような悪いことはしていない。こんな不当な暴力に屈してたまるか。
 不当な暴力を許すことは、他の不当な暴力に晒されている被害者も、自分と一緒に殴らせることだ。それはできない。
 と言っても、精神を削られ気力を根こそぎ奪われた被害者に対し、立ち向かわないお前が悪いと責任転嫁する加害に参加する気はない。
 私は気力を奪われた『仲間達』の中でも、立ち向かえる気力や力を辛うじて得ることができた運良い人間だ。一人でも多くそうした人間が立ち向かって、こんな理不尽なことを許さない世界にしていきたい。
 特に運が良かったり強い人だけでなく、普通の人が、不当な暴力に脅かされず当たり前に人権が守られて生きていけるような。

 『悪意』め、私が当たって砕ける自由を奪いやがって。見てろよ。
 睨み付けた窓の外の木から、ぷつんと枯れ葉が離れ風に飛ばされていったのは、私の目からビームが出ていたせいではない。多分。
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