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家鳴り 3
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「それですごすごと帰ってきたというわけなんだ」
「そういう話を何故、その日のうちに、ボクにしてくれないんですか」
「だって不気味過ぎて一刻も早く忘れたかったんだもの……」
眉間に皺を刻んだ伽々里の咎めるような視線に文緒は身をすくめた。声を荒らげこそしないものの伽々里は目に見えて憤慨している。これは拙い。静かに怒気を燃やす伽々里の機嫌をこれ以上損ねないように、文緒はおずおずと顔を上げた。
「と、兎に角、その日の夜が丁度この前の大雨でね。雨のせいで家鳴りが酷くなってるんじゃないかなぁと……思っていたんだけど……」
段々と声が小さくなる。ついでに体もどんどん縮こまる。言い終わる頃にはすっかり小さくなった文緒を見て、伽々里は深く溜息を吐いた。
「そんなわけないでしょう」
「ですよね……」
「それだけ怪しいことが起きていて何の関係も無いなんてあります? 『奇妙』と『不気味』の二言で片付ける文緒さんの頭の中がどうなってるのか知りたいんですけど」
「文緒さんの頭の中は紙と墨とインクで出来てるから……」
「知ってますよこの活字馬鹿」
「ひどい!」
身も蓋もない言い草に文緒はワッと両手で顔を覆った。馬鹿っていう方が馬鹿なんだぞ!などと子供みたいな文句すら飛び出して、伽々里は心底呆れた顔をした。
「まず第一に、ボクはここ一週間家鳴りなんて聞いてません」
「えっ」
「話に出てきた女性、間違いなく死んでいます」
「えっ」
「ついでに言うと多分赤ん坊の方も死人です」
「ええ……」
「文緒さんそういうのに鈍いんだから気を付けてください」
「ごめんなさい……」
しょんぼりと肩を落とした文緒を見て、伽々里は再度溜息を一つ。茶盆を小脇に抱えて空いた手を緩く顎に添えた。
「まぁ、有り体に言えば『憑いて』来たんでしょうね。目が合ったから」
「刀を抜いたからじゃなくて?」
「そこは重要じゃないのでどっちでもいいですが、女の死因は恐らくその刀です。大方、その椿田とかいう男に赤子諸共斬り殺されて、死んだ場所から離れられないでいたんでしょう。そこに偶然文緒さんがやって来たから救いを求めて憑いて来たわけです」
「なるほど……」
頷きながらも文緒は顔を顰めた。憑いて来られても困る。生きている内なら保護して警察なり然るべきところに通報してやれば解決するだろうが、死んでいるのに何をどうすればいいと言うのか。
「ともあれ憑いて来てしまった以上、どうにかする他ありません。今夜、文緒さんの部屋に行きます」
「……一緒に寝る?」
「見張りです!」
どこまでも呑気な文緒の軽口に伽々里はとうとう声を荒げた。
****
「……あの」
「はい」
「そんな凝視されると寝られないんだけど」
「お構いなく」
「すごく構う……」
夜、文緒の寝室には昼間の宣言通り伽々里が居た。伽々里は昼間の服装そのままに床に敷いた布団の枕元に正座している。そんな所で寝顔を眺められては幾ら文緒とて寝られやしない。
「せめて寝巻きに着替えたらどう?」
「寝巻きは何かあった時動き辛いのでこれでいいです」
「なら私も寝巻きじゃない方が良かったんじゃ」
「大丈夫です。文緒さんにそういうのは期待してないので」
「言葉の刃が鋭い……」
容赦のない言葉に文緒は肩を落とした。最近益々扱いがぞんざいになっている気がする。昔はもっと可愛げがあったのに――いや、出会った頃もそんなに可愛げはなかったな。文緒はすぐさま思い直した。
「……それで、」文緒はずっと目を逸らしていたものに渋々視線を落とした。伽々里の左手にはつい一週間前に見た物とよく似た物が収まっていた。
「これは?」
「刀です」
「活字馬鹿のお姉さんでも見ればわかるよ。そうでなくて、なんでここに日本刀があるのかって話。うちに刀なんてなかったでしょ」
文緒の最もな問いに伽々里は事も無げに答えを返した。
「師範に『クソ親父の霊が出たかも』と相談したら快く貸してくださいました」
「古滝さん……!」
文緒は顔を覆った。三軒隣の居合家の好々爺はなんてものを簡単に渡してくれているのか。
先代のろくでなし具合に散々苦言を呈してきたらしい彼のことだ。それはもう鷹揚と貸してくれたことだろう。先代の人望のなさを改めて感じて文緒はほんの少しだけ苦い気持ちになった。ほんの少しだけだ。なにせどうしようもないろくでなしだったのは変えようのない事実なので。
「兎に角、文緒さんは普段通り寝てください。霊が現れたらボクがなんとかします」
「どう柔らかく言っても囮なんだよなぁ」
とはいえ他に出来る事がないのも事実だ。
文緒は仕方なく床に就くと、「おやすみ」と一言言い置いて徐に目を閉じた。
夜半を回った頃、事は起こった。
――ギィ。軋む音。
床が鳴く。床が鳴る。幾度となく繰り返す。
来た。文緒は上体を起こして伽々里を見た。伽々里が黙ったまま小さく頷く。その間にも家鳴りは響き続けた。段々と音は大きく頻りに変わっていく。
否、近づいて来ている。
改めて聞いて理解する。
家鳴りのように思ったそれは、足音だった。
ここ数晩文緒を悩ませていた音が一際大きくなったその途端、ピタリと音は止み――そして『それ』は昨夜の再演の如く現れた。
障子の向こう側に、人影が佇んでいる。
障子を通して畳に落ちる黒々とした影。その一部が障子の端へと伸びていく。
カリ、と木枠を爪が掻いて削る音。
やがてゆっくりと、障子が開いていく。
そこに立っていたのは女であった。
長い前髪を簾のように垂らし、俯いた姿勢はあの日文緒が見たものと同じもの。しかし一つだけ違うところがある。それは女の服だ。あの日着ていたのは白い襦袢であったはずだが、今女が身に纏っている着物は赤色をしている。
いや違う。着物が赤いのではない。あの日見たのは後姿だった。だから文緒は気付かなかったのだ。その表側が女の血で赤く染まっていたことに。
長い髪の向こうで女が文緒を視界に捉えた。暗澹とした眼が文緒を覗き込む。そして。
直後、すぐ側から意識を遮るような金属特有の澄んだ高い音が響いた。鞘走り。正体を理解した直後、文緒の横を過る気配。
一踏、伽々里が強く畳を踏みしめて文緒の前へと踊り出る。深く腰を入れ、迷いのない所作で刀を持った右腕を真一文字に振り抜く。その動きと共に夜闇を銀が閃いた。
その瞬間、短い悲鳴を上げて女は後ずさった。
「件の女で間違いありませんか」
淡々とした声音で伽々里が問う。構えた刀はまっすぐ女へと向けたまま、背後の文緒を一瞥する。「うん、間違いないよ」文緒は背中に向かって頷いた。
「それにしても不運な霊だ」
伽々里は鋭い眼差しで女を睨んだ。
「縋り憑いた相手がこんな――へなちょこ妖怪だなんて」
「へなちょこは酷くない?」
文緒はすかさず抗議の声を上げた。
「幽霊と人間の区別がつかない系妖怪さんは黙っててください」
「妖怪は妖怪でも私は文章の妖怪なんで。怪談本とかならともかく実物の幽霊なんて門外なんで!」
文緒が声を大にして主張するも伽々里の反応は淡白だ。返事一つなく黙殺される。そりゃあ今はそんなこと言ってる場合じゃないけれども。伽々里が見ていないのをいい事に文緒は口を尖らせた。
伽々里の持つ刀を恐れるように女が呻いた。垂れた髪ごと首元を隠すように痣だらけの手で覆い、じりじりと後退する。
「こ、わ、こわ、いイ……かた、かたな……たス、け……うぅゔう」
見るからに怯えた様子の女の霊は掠れた吃り声で救いを乞うた。恐らく生前首を斬りつけられ亡くなったたのだろう。声を出す度ひゅうひゅうという苦しげな音が交じる。「どうして」「わたしのあかちゃん」「きられた」「いたい」「なんで」「たすけて」――そんな言葉を辿々しく繰り返して訴えるその姿はあまりに痛ましく哀れで、到底悪霊などと呼べるものではなかった。
「その言葉は些か遅すぎたな。せめて生きている頃に、そう誰かに伝えられていれば或いは――」
そこで文緒は言葉を切った。そっと目を伏せる。これ以上は言っても詮無い事だ。
「さて、どうしたものかな。このままにはしておけないし……」
「流石に二度死ねば消えるでしょう」
「相手も被害者なんだからもう少し温情をだね」
「実害が発生した時点で情け無用」
「やだ峻烈」
今にも伽々里に斬り捨てられそうな女の霊はすっかり萎縮して、部屋の隅で可哀想なほど震えている。その様子に同じ人ならぬ者として同情を禁じえなくなった文緒は助け舟を出すことにした。
「お嬢サン、手伝ってあげるから未練残さず成仏しよう? 二度も斬られたくないでしょう?」
するりと横入りして霊と目線を合わせる。助けを求めて憑いて来たという伽々里の推察通り、すぐ傍と言えるところまで近寄っても積極的にこちらを害そうとする気配はない。前に出てくるなと訴える伽々里の視線が痛いが文緒は無視を決め込むことにした。
「君も赤ん坊も供養してあげるからね。お墓はあるかい? ――あ、ない? 遺体は井戸の中? そっかぁあそこかぁ」
朝にでも警官に伝えて家を検めてもらうとしよう。幸いにして近所の交番に詰めている巡査は半分『こちら側』だ。管轄外の事件であっても早々に動くよう手を回してくれるだろう。そうつらつらと言葉を並べて女を宥める。その甲斐あってか、ややあって女が僅かに顔を上げた。
「ほら紙とペンを貸してあげるから、恨みつらみは全部ここに書き捨ててしまいなさい、ね?」
文緒は女を安心させるように微笑むと、そう言って女に紙とペンを手渡したのだった。
「そういう話を何故、その日のうちに、ボクにしてくれないんですか」
「だって不気味過ぎて一刻も早く忘れたかったんだもの……」
眉間に皺を刻んだ伽々里の咎めるような視線に文緒は身をすくめた。声を荒らげこそしないものの伽々里は目に見えて憤慨している。これは拙い。静かに怒気を燃やす伽々里の機嫌をこれ以上損ねないように、文緒はおずおずと顔を上げた。
「と、兎に角、その日の夜が丁度この前の大雨でね。雨のせいで家鳴りが酷くなってるんじゃないかなぁと……思っていたんだけど……」
段々と声が小さくなる。ついでに体もどんどん縮こまる。言い終わる頃にはすっかり小さくなった文緒を見て、伽々里は深く溜息を吐いた。
「そんなわけないでしょう」
「ですよね……」
「それだけ怪しいことが起きていて何の関係も無いなんてあります? 『奇妙』と『不気味』の二言で片付ける文緒さんの頭の中がどうなってるのか知りたいんですけど」
「文緒さんの頭の中は紙と墨とインクで出来てるから……」
「知ってますよこの活字馬鹿」
「ひどい!」
身も蓋もない言い草に文緒はワッと両手で顔を覆った。馬鹿っていう方が馬鹿なんだぞ!などと子供みたいな文句すら飛び出して、伽々里は心底呆れた顔をした。
「まず第一に、ボクはここ一週間家鳴りなんて聞いてません」
「えっ」
「話に出てきた女性、間違いなく死んでいます」
「えっ」
「ついでに言うと多分赤ん坊の方も死人です」
「ええ……」
「文緒さんそういうのに鈍いんだから気を付けてください」
「ごめんなさい……」
しょんぼりと肩を落とした文緒を見て、伽々里は再度溜息を一つ。茶盆を小脇に抱えて空いた手を緩く顎に添えた。
「まぁ、有り体に言えば『憑いて』来たんでしょうね。目が合ったから」
「刀を抜いたからじゃなくて?」
「そこは重要じゃないのでどっちでもいいですが、女の死因は恐らくその刀です。大方、その椿田とかいう男に赤子諸共斬り殺されて、死んだ場所から離れられないでいたんでしょう。そこに偶然文緒さんがやって来たから救いを求めて憑いて来たわけです」
「なるほど……」
頷きながらも文緒は顔を顰めた。憑いて来られても困る。生きている内なら保護して警察なり然るべきところに通報してやれば解決するだろうが、死んでいるのに何をどうすればいいと言うのか。
「ともあれ憑いて来てしまった以上、どうにかする他ありません。今夜、文緒さんの部屋に行きます」
「……一緒に寝る?」
「見張りです!」
どこまでも呑気な文緒の軽口に伽々里はとうとう声を荒げた。
****
「……あの」
「はい」
「そんな凝視されると寝られないんだけど」
「お構いなく」
「すごく構う……」
夜、文緒の寝室には昼間の宣言通り伽々里が居た。伽々里は昼間の服装そのままに床に敷いた布団の枕元に正座している。そんな所で寝顔を眺められては幾ら文緒とて寝られやしない。
「せめて寝巻きに着替えたらどう?」
「寝巻きは何かあった時動き辛いのでこれでいいです」
「なら私も寝巻きじゃない方が良かったんじゃ」
「大丈夫です。文緒さんにそういうのは期待してないので」
「言葉の刃が鋭い……」
容赦のない言葉に文緒は肩を落とした。最近益々扱いがぞんざいになっている気がする。昔はもっと可愛げがあったのに――いや、出会った頃もそんなに可愛げはなかったな。文緒はすぐさま思い直した。
「……それで、」文緒はずっと目を逸らしていたものに渋々視線を落とした。伽々里の左手にはつい一週間前に見た物とよく似た物が収まっていた。
「これは?」
「刀です」
「活字馬鹿のお姉さんでも見ればわかるよ。そうでなくて、なんでここに日本刀があるのかって話。うちに刀なんてなかったでしょ」
文緒の最もな問いに伽々里は事も無げに答えを返した。
「師範に『クソ親父の霊が出たかも』と相談したら快く貸してくださいました」
「古滝さん……!」
文緒は顔を覆った。三軒隣の居合家の好々爺はなんてものを簡単に渡してくれているのか。
先代のろくでなし具合に散々苦言を呈してきたらしい彼のことだ。それはもう鷹揚と貸してくれたことだろう。先代の人望のなさを改めて感じて文緒はほんの少しだけ苦い気持ちになった。ほんの少しだけだ。なにせどうしようもないろくでなしだったのは変えようのない事実なので。
「兎に角、文緒さんは普段通り寝てください。霊が現れたらボクがなんとかします」
「どう柔らかく言っても囮なんだよなぁ」
とはいえ他に出来る事がないのも事実だ。
文緒は仕方なく床に就くと、「おやすみ」と一言言い置いて徐に目を閉じた。
夜半を回った頃、事は起こった。
――ギィ。軋む音。
床が鳴く。床が鳴る。幾度となく繰り返す。
来た。文緒は上体を起こして伽々里を見た。伽々里が黙ったまま小さく頷く。その間にも家鳴りは響き続けた。段々と音は大きく頻りに変わっていく。
否、近づいて来ている。
改めて聞いて理解する。
家鳴りのように思ったそれは、足音だった。
ここ数晩文緒を悩ませていた音が一際大きくなったその途端、ピタリと音は止み――そして『それ』は昨夜の再演の如く現れた。
障子の向こう側に、人影が佇んでいる。
障子を通して畳に落ちる黒々とした影。その一部が障子の端へと伸びていく。
カリ、と木枠を爪が掻いて削る音。
やがてゆっくりと、障子が開いていく。
そこに立っていたのは女であった。
長い前髪を簾のように垂らし、俯いた姿勢はあの日文緒が見たものと同じもの。しかし一つだけ違うところがある。それは女の服だ。あの日着ていたのは白い襦袢であったはずだが、今女が身に纏っている着物は赤色をしている。
いや違う。着物が赤いのではない。あの日見たのは後姿だった。だから文緒は気付かなかったのだ。その表側が女の血で赤く染まっていたことに。
長い髪の向こうで女が文緒を視界に捉えた。暗澹とした眼が文緒を覗き込む。そして。
直後、すぐ側から意識を遮るような金属特有の澄んだ高い音が響いた。鞘走り。正体を理解した直後、文緒の横を過る気配。
一踏、伽々里が強く畳を踏みしめて文緒の前へと踊り出る。深く腰を入れ、迷いのない所作で刀を持った右腕を真一文字に振り抜く。その動きと共に夜闇を銀が閃いた。
その瞬間、短い悲鳴を上げて女は後ずさった。
「件の女で間違いありませんか」
淡々とした声音で伽々里が問う。構えた刀はまっすぐ女へと向けたまま、背後の文緒を一瞥する。「うん、間違いないよ」文緒は背中に向かって頷いた。
「それにしても不運な霊だ」
伽々里は鋭い眼差しで女を睨んだ。
「縋り憑いた相手がこんな――へなちょこ妖怪だなんて」
「へなちょこは酷くない?」
文緒はすかさず抗議の声を上げた。
「幽霊と人間の区別がつかない系妖怪さんは黙っててください」
「妖怪は妖怪でも私は文章の妖怪なんで。怪談本とかならともかく実物の幽霊なんて門外なんで!」
文緒が声を大にして主張するも伽々里の反応は淡白だ。返事一つなく黙殺される。そりゃあ今はそんなこと言ってる場合じゃないけれども。伽々里が見ていないのをいい事に文緒は口を尖らせた。
伽々里の持つ刀を恐れるように女が呻いた。垂れた髪ごと首元を隠すように痣だらけの手で覆い、じりじりと後退する。
「こ、わ、こわ、いイ……かた、かたな……たス、け……うぅゔう」
見るからに怯えた様子の女の霊は掠れた吃り声で救いを乞うた。恐らく生前首を斬りつけられ亡くなったたのだろう。声を出す度ひゅうひゅうという苦しげな音が交じる。「どうして」「わたしのあかちゃん」「きられた」「いたい」「なんで」「たすけて」――そんな言葉を辿々しく繰り返して訴えるその姿はあまりに痛ましく哀れで、到底悪霊などと呼べるものではなかった。
「その言葉は些か遅すぎたな。せめて生きている頃に、そう誰かに伝えられていれば或いは――」
そこで文緒は言葉を切った。そっと目を伏せる。これ以上は言っても詮無い事だ。
「さて、どうしたものかな。このままにはしておけないし……」
「流石に二度死ねば消えるでしょう」
「相手も被害者なんだからもう少し温情をだね」
「実害が発生した時点で情け無用」
「やだ峻烈」
今にも伽々里に斬り捨てられそうな女の霊はすっかり萎縮して、部屋の隅で可哀想なほど震えている。その様子に同じ人ならぬ者として同情を禁じえなくなった文緒は助け舟を出すことにした。
「お嬢サン、手伝ってあげるから未練残さず成仏しよう? 二度も斬られたくないでしょう?」
するりと横入りして霊と目線を合わせる。助けを求めて憑いて来たという伽々里の推察通り、すぐ傍と言えるところまで近寄っても積極的にこちらを害そうとする気配はない。前に出てくるなと訴える伽々里の視線が痛いが文緒は無視を決め込むことにした。
「君も赤ん坊も供養してあげるからね。お墓はあるかい? ――あ、ない? 遺体は井戸の中? そっかぁあそこかぁ」
朝にでも警官に伝えて家を検めてもらうとしよう。幸いにして近所の交番に詰めている巡査は半分『こちら側』だ。管轄外の事件であっても早々に動くよう手を回してくれるだろう。そうつらつらと言葉を並べて女を宥める。その甲斐あってか、ややあって女が僅かに顔を上げた。
「ほら紙とペンを貸してあげるから、恨みつらみは全部ここに書き捨ててしまいなさい、ね?」
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