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第4章
安息の地
しおりを挟む「おばあちゃん」とヨハンが呼んでいた花屋の店主は、ジョセヌという名前だった。
店を訪れ、ヨハンから事情を聞いたジョセヌは、穏やかな微笑みを浮かべて相談を快諾してくれた。
「ヨハンのお兄さんなら、大歓迎だよ。部屋も余っているしね。それに……私はこの歳で、朝から花の世話をするのがだんだん辛くなってきていたんだよ。ヨハンが来てくれてからもすごく助かっているし、働き手が増えるのは嬉しいことさ」
「ありがとうございます……!」
住む場所と仕事を同時に与えてもらえるなんて。エリアスは深々と頭を下げた。
「ヨハン共々、お世話になります。ジョセヌさん」
エリアスがそう呼ぶと、ジョセヌは優しく首を横に振った。
「エリアス、と呼んでもいいかしら? ……あんたも、ヨハンがそうしているように、私のことは『おばあちゃん』と呼んでおくれ」
ジョセヌは少し寂しげに、けれど嬉しそうに目を細めた。
「離れて暮らしている孫に呼ばれているみたいで、嬉しいんだよ」
聞けば、この家で一緒に暮らしていた息子さんは早くに亡くなり、もう一人の息子さんは家族と共に遠方の街で暮らしているらしい。
「……はい、分かりました。おばあちゃん」
エリアスが頷くと、ジョセヌは満足そうに微笑んだ。
それから早速、エリアスは荷物をまとめるために、しばらくお世話になったヘレンの民宿へと戻った。
ジョセヌの店で買った花を渡し、宿を出ることを伝えると、ヘレンは目を丸くして引き留めてくれた。
「なんだい、金のことなら気にしなくていいから、仕事が見つかるまでうちで暮らしても良いんだよ?」
「ありがとうございます、ヘレンさん。でも……弟と再会できて、一緒に暮らすことになったんです」
「おやまあ!弟さんと!」
それを聞くと、ヘレンは自分のことのように破顔した。
「それは良かったねえ!やっぱり家族といるのが一番さ。この花も、ありがとうね」
ヘレンはそう言うと、厨房へ行き、パンやチーズ、果物などを袋いっぱいに詰めて持たせてくれた。
「ほら、これを持っていきな!弟さんと一緒に食べるといいよ」
「こんなに……」
「いいってことさ。元気でやるんだよ!」
エリアスは胸がいっぱいになり、涙ぐみながらその重みを受け取った。
「……私は、どこでも出会う人に恵まれているな」
実家での冷遇が嘘のように、外の世界は温かい。
「本当に、ありがとうございました。……と言っても、同じ町にいるのですから、また会いに来ますね」
「ああ、いつでも顔を見せにおいで!」
エリアスは大きく手を振り、思い出の民宿を後にした。
そして、ジョセヌの家へ。
案内されたのは、二階にある空き部屋の一つだった。
「ここを使っておくれ」
扉を開けると、そこはヘレンの民宿の部屋のように、温かい日差しがたっぷりと入り込む、居心地の良さそうな部屋だった。
今離れて暮らしている息子さんが出てからも、ジョセヌが毎日手入れをしていたのだろう。埃一つなく、清潔感があり、大切に守られてきた場所だということが伝わってくる。
「ありがとうございます。素敵な部屋ですね」
「気に入ってくれたなら良かったよ」
ジョセヌが部屋を出て行き、エリアスは一人になった。
ベッドの上に、数少ない荷物を置く。
持ってきたのは、実家を出た時の結納金が入った小さな袋と、この街で暮らすようになってから買った数着の安価な服くらいしかない。
ハルトマン家を出た時のまま、身軽で、何もない。
けれど、ここには確かな「生活」の匂いがあった。
エリアスは荷解きを終え、窓辺に立った。
窓の外には、のどかな平民街の風景と、手入れされた美しい花々が広がっている。
「……ふぅ」
エリアスは肩の力を抜き、深く息を吐き出した。
ようやく、ここで一息つける。
エリアスは窓から差し込む陽光に目を細め、静かに新しい生活の始まりを受け入れた。
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