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第1章
不本意な安息
しおりを挟むユリウスが抱いた嫌な予感は、見事に的中した。
ルームメイトになったあの日から、ユリウスは自然と、転入生であるレオナルドの世話役のようになってしまっていたのだ。
部屋を出て教室へ向かう時も、昼時に食堂へ移動する時も。
レオナルドは当たり前のような顔をして、ユリウスの背後をついてくる。
まるで刷り込みをされた大型犬か何かのようだが、その存在感は犬などという可愛いものではなく、威圧感のある獅子のそれだ。
当然、ユリウスの隣にはカイエンがいる。
カイエンもまた、この新しい「異物」が加わることに抵抗はない様子だった。
むしろ、波長が合うらしい。
「レオナルド、君は剣の腕で途中転入を認められたんだろう?早く授業で見てみたいな」
移動中の廊下で、カイエンが興味深そうに話題を振った。
「はは、まあ確かに俺は強い。だが、俺の剣はあくまで『実戦向き』だからな。この学院の上品な『剣技』の授業に向いているかどうかは分からない」
レオナルドは悪びれもせず、あっけらかんと言い放つ。
それを横で聞いていたユリウスの眉が、ピクリと動いた。
(……なんだその言い草は。まるで学院で教える剣技など、実戦の場では何の役にも立たないとでも言うつもりか)
レオナルドに悪気はないのかもしれない。
事実を述べているだけなのだろう。
だが、この学院の、そして国の伝統的な剣術を重んじてきたユリウスにとっては、決して面白い響きではなかった。
だが、悔しいことにレオナルドは単なる腕自慢の無骨者ではなかった。
座学の授業が始まってみれば、彼は予想以上に賢かったのだ。
さすがに成績順位で言えば、幼少期から英才教育を受けてきたカイエンやユリウスの方が上だ。
しかし、レオナルドには独特の「地頭の良さ」があった。
教師の問いに対する反応の速さ、物事の本質を掴む勘の鋭さは、時にユリウスすら舌を巻くほどだ。
そして放課後や自由時間になると、彼はふらりとどこかへ消える。
特定の目的があるわけではないらしい。
気ままに学院内を散歩し、すれ違う生徒に自分から声をかけ、あるいはかけられ、談笑している。
その社交性は驚くべきものだった。
誰にでも話しかけやすく、飄々としている。
それでいて、ふとした瞬間に見せる表情には凛々しい風格がある。
転入してわずか数日だというのに、すでに六歳からここにいるユリウスよりも、彼の方が顔見知りが多いのではないかと錯覚するほどだ。
レオナルドは日に日に、学院の人気者になっていった。
外ではそんな調子だが、部屋に戻ればまた別の顔がある。
ユリウスが最も懸念していた共同生活のストレスは――驚くべきことに、皆無だった。
レオナルドは意外と綺麗好きだったのだ。
脱いだ服を散らかすこともなければ、音を立てて物を扱うこともない。
潔癖なユリウスが「やってほしくない」と感じる境界線を、彼は本能的に察知しているかのように踏み越えてこなかった。
極めつけは、夜だ。
これがユリウスにとって、最大の謎であり、最も認めたくない事実だった。
なぜか、レオナルドが隣のベッドで眠っていると、ユリウスは熟睡できたのだ。
かつてカイエンと同室だった時でさえ、最初の数ヶ月は互いの呼吸音や寝返りの気配が気になり、完全に慣れるまでには長い時間を要した。
それなのに、出会ったばかりのこの男が近くにいると、泥のように深く眠れる。
彼の発する体温なのか、あるいは微かに漂う匂いなのか。理由は分からないが、レオナルドの気配を感じると、張り詰めていた神経が強制的に緩められるような感覚に陥るのだ。
(……訳が分からない)
朝、目覚めの良い頭でユリウスは天井を睨む。
気に入らない相手のはずだ。
馴れ馴れしいし、デリカシーもない。
それなのに、勉学の点では良い刺激になるライバルができ、学院内の空気は彼のおかげで明るくなり、ルームメイトとしては無害どころか快適ですらある。
その上、長年の悩みだった睡眠の質まで改善されている。
ユリウスは本気で認めたくなかった。
だが、彼の頑なな拒絶心を置き去りにして、レオナルドが来たことによって、環境は明らかに好転してしまっていた。
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