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第1章
実戦の流儀
しおりを挟むそうして、途中転入してきたレオナルドが学院の空気に馴染んできた頃、剣技の授業の日がやってきた。
この学院において、剣技の実技授業は月に一度しか行われない。座学や型稽古が中心であり、実際に剣を交える機会は限られている。
だから、これがレオナルドが転入してきて初めて、公の場で剣を振るう機会だった。
講師を務めるのは、王宮から派遣された騎士の一人だ。
つまり、騎士団長であるレオナルドの父親の部下にあたる人物である。当然、レオナルドの実力や、彼が他国で積んできた経験についても知っているはずだ。
だからだろうか。準備運動を終えた直後、王宮の騎士は手合わせの相手として、真っ先にレオナルドを指名した。
「レオナルド・フォン・ブラント。前へ」
「はい」
レオナルドはその指名に何の動揺も見せず、抵抗なく準備を整える。
訓練用の模造剣ではなく、刃引きされた鉄剣を手にしたレオナルドが、演習場の中央に立つ。対峙するのは本職の騎士だ。
転入生の、しかも「実戦向き」と豪語する男の実力が見られるとあって、生徒たちの視線は一点に集中していた。
試合が始まる。
だが、その結末はユリウスたちの予想を裏切り、あまりにあっけなく訪れた。
騎士が鋭い踏み込みと共に打ち込んでくる。
レオナルドはそれを、最小限の動きで受け流した――ように見えた。
次の瞬間、金属音が一つだけ鳴り響く。
レオナルドが騎士の剣をいなし、その勢いを利用して、強烈な一撃で剣の腹を叩いたのだ。
ガシャン、と乾いた音がして、騎士の手から剣が弾き飛ばされ、地面に転がった。
「――そこまで」
静寂が落ちる。
打ち合いと呼ぶにはあまりに短く、あまりに一方的だった。
その光景を見て、ユリウスはかつてレオナルドが言っていた「俺の剣は実戦向きだ」という言葉の意味を、真に理解した気がした。
学院で教えるような、華麗な型を見せつけるための剣技ではない。
あくまで最短で、無駄な消耗をせず、確実に相手を無力化して決着をつける。人を殺すための剣ではなく、戦場を生き抜くための動き。
王宮の騎士相手にそれを涼しい顔でやってのけるのだから、レオナルドの実力が並のものではないと、その場にいた全員が戦慄と共に理解した。
王宮の騎士もまた、苦笑しながら己の剣を拾い上げる。
彼も分かっていて指名したのだろう。自分が負けることは想定内であり、むしろここでその圧倒的な実力を見せつけることで、並の生徒では相手にすらならないという「格の違い」を周囲に知らしめたようだった。
「参りました。流石です」
「いえ、手合わせ感謝します」
レオナルドは剣を収めると、騎士の作法に則り、恭しく礼をした。
その姿は完璧だった。
先程までの野性味あふれる力強い剣戟とは裏腹に、その所作は洗練されており、どこまでも貴族然として美しかった。
(……ああ)
ユリウスの胸の奥で、トクン、と大きな音がした。
ただ強いだけではない。獣のような強さを持ちながら、理性という檻でそれを優雅に飼いならしている。
認めたくなかったが、その美しい振る舞いに、ユリウスは高鳴る胸を抑えることができなかった。
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