【完結】獅子は鳥籠を砕く

真大(mahiro)

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第1章

距離と痛み

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 その翌日。
 重たい足取りで教室へ向かうと、カイエンが心配そうな顔で入り口の近くに立って待っていた。ユリウスの姿を認めるなり、彼は駆け寄ってきた。

「ユリウス。昨日の模擬戦でのこと、聞いたよ。……ルシエルには、僕から正式に厳重に抗議した。いつも君を矢面に立たせてしまってすまない」

 カイエンは痛ましげに眉を下げた。
 彼はいつも、第二王子派の攻撃の矛先がユリウスに向きがちなことを気に病んでいた。

 ルシエルたちも、第一王子であるカイエンに直接害をなすような愚かな真似はできない。だからこそ、その切っ先は常にカイエンの側近に向けられる。
 次期宰相であり、合理的で理知的。つまり、多少の挑発や理不尽を受けても、感情的に騒ぎ立てて事を荒立てることのない「ちょうどいい標的」であるユリウスが、その役割を一心に背負わされてきたのだ。

 今までは、精々陰湿な嫌がらせ程度で済んでいた。
 今回は、武闘派を気取るルシエルに対し、レオナルドが圧倒的な実力を見せつけたことが火種となり、そのプライドを傷つけられた八つ当たりが爆発した結果、あのような凶行に及んだに過ぎない。

「……大丈夫だ。私よりも、庇って怪我をしたレオのことを心配してやってほしい」
「ああ、そうだね。彼にも礼とお詫びを言わないと」

 カイエンは深く頷き、ふと周囲を見回した。

「あれ? いつも同じ部屋から出てきているはずなのに、今日はレオナルドと一緒じゃないのかい?」
「……ああ。レオとは、今日は別で来たんだ」

 ユリウスは視線を逸らして答えた。
 なんとなく、あの契約のような会話の後から、どう接していいか分からず気まずかったのだ。

 今朝、ユリウスが身支度を早々に終えて部屋を出ようとした時、それよりも早くレオナルドが「悪い、先に行く」と言って、慌ただしく部屋を出て行ってしまった。

 先に行くと言った割に、まだ教室には来ていないようだ。
 少し驚いたが、彼はふらふらと何処かへ行き、他クラスの生徒や誰かと話している姿をよく見かける。きっと今も、授業が始まるまでの時間をどこかで潰しているのだろう。

(……昨日までは、こうではなかった)

 常にべったりと一緒にいたわけではない。けれど、朝、部屋から教室までの道のりは、当たり前のように並んで歩いていた。
 その当然だった時間が、たった一夜にして消失してしまった。

 ズキリ、と胸の奥が痛む。
 ユリウスはその痛みの原因が何なのか、分かっていないふりをして、そのまま無視することに決めた。これはきっと、急激な身体の変化による副作用か何かだ。精神的なものではない。

 だが、その決意はすぐに揺らぐことになった。
 予鈴が鳴り、授業が始まる直前になって、ようやくレオナルドが教室に入ってきた。

 彼は入り口で一瞬だけユリウスの方に視線を向けたが、すぐに目を逸らし――いつもならカイエンやユリウスの近くに座るはずなのに、あえて遠く離れた、窓際の席へと座ったのだ。

「……ッ」

 明確な拒絶、あるいは線引き。
 その背中を見た瞬間、無視していたはずの胸の痛みが、呼吸を阻害するほどに一層強まったのを感じた。

 苦しくて、ユリウスは机の上で固く手を組み、誰にも表情を見られないように深く俯いた。
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