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第1章
夜だけの協力者⚠️
しおりを挟むその時だけではなかった。
あの日を境に、学院内におけるレオナルドとの距離や関係は、明らかに変わってしまった。
会話がなくなったわけではない。教室で顔を合わせれば挨拶もするし、カイエンを交えて三人で昼食を摂ることもある。
それなのに、決定的な何かが欠落していた。
かつてのように、「私と話してもつまらないだろう」とユリウスが突き放しても、面白がって食い下がってくることはない。
ユリウスを困らせない範囲で、けれど確実に距離を詰めようとしていたあの熱量。
ユリウスという人間個人への興味やアプローチが、嘘のように消え失せたのだ。
カイエンがこの微妙な変化に気づいているかは分からない。
それくらい自然に、けれど当事者であるユリウスにとっては残酷なほど明確に、一線を引かれていた。
だが、夜になれば話は別だ。
二人きりになり、寮の生徒たちが寝静まった時間になると、その境界線は歪な形で踏み越えられる。
部屋の明かりが消され、暗闇が満ちる頃。
レオナルドは音もなくベッドを抜け出し、静かにユリウスの枕元へと近づいてくる。
「……ユーリ。ほら、横になるんだ」
低い声でそう促され、時には寝たままのユリウスの口を開かせ、レオナルド自身を深く咥えさせられる。
「……、ん、ぅ」
抵抗などは許されない。喉の奥に注ぎ込まれる白濁した、ユリウスにとっては甘美な熱を、薬を飲むように嚥下させられる。
またある時は、レオナルドのベッドの上に呼ばれ、精液ではなく唾液を時間をかけて飲み干すよう強要された。互いの呼吸を奪い合い、舌を絡ませ、唾液腺が痺れるほどに与え合うような口づけを繰り返す。
毎夜行われるその行為。
ユリウスがアルファとして生きるために必要な「事務的な処置」。
そう分かっているはずなのに、ユリウスは愚かにも、それ以外の理由を見出そうとしてしまっていた。
「……ユーリ……」
ふと、ユリウスの名を呼ぶレオナルドの声が、あまりに優しく響く瞬間がある。
ふと、暗がりの中でユリウスを見つめる黒曜石の瞳に、焦がれるような熱が宿っているように見える瞬間がある。
ふと、理性を保てなくなった彼が、ユリウスの首筋に歯を立てて吸い付いた時の、所有欲めいた痛みがある。
「……っぁ、……」
それらの断片が、ユリウスの理性を揺さぶる。
……これは本当に事務的なものなのだろうか。それ以上の何かが、レオナルドの中にあるのではないか。
そんな淡い期待は、行為が終わった直後に無惨に打ち砕かれる。
事後の片付けは、淡々とした事務作業だ。
レオナルドは何も言わず、ただ手際よく汚れを拭き取り、背を向けて自分の寝床へと戻っていく。
そして翌朝にはまた、他人のように礼儀正しい距離感で接してくるのだ。
(……期待するな。この関係に、意味なんてない)
ただ、レオナルドは哀れな学友のために嫌々協力している……もしくは、国のために尽くす騎士となる立場で、同じく次期宰相となるユリウスの秘密を守るために協力しているだけだ。
あるいは、健康なアルファである彼の、都合の良い性欲処理。
そうでしかない。それしか理由はあり得ない。
(余計なことは考えるな、……考えるな……)
暗くなった部屋で、シーツを頭まで被り、ユリウスは毎晩のようにレオナルドには聞こえない声でそう念じた。
目尻から枕へと、温かい雫が伝い落ちる。
この涙にも、意味はない。
レオナルドの行為の中に愛という意味がないのと同じで、自分の中にも「家のために、国のためにこのままアルファとして生きたい」という義務感以外の理由など、あるはずがないのだから。
ユリウスは声を殺して泣いた。
自分自身についた嘘で、心が張り裂けそうだった。
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