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第1章
期限付きの恋慕⚠️
しおりを挟むレオナルドとそんな奇妙な共犯関係を一年間続けたまま、ついに卒業の時期が間近に迫っていた。
あと半年もすれば、皆それぞれこの学院を巣立っていく。
半年と言っても、実質的な猶予はもっと短い。成績優秀な生徒はすでに大半の単位を取得しており、最後の方は卒業後の進路に向けた準備期間に充てられることが多いからだ。
実際に同じ学舎で、同じ学年の生徒たちが机を並べて授業を受けるのは、残りわずかな期間に限られていた。
あの一年前の模擬戦以来、第二王子派の動きは嘘のように大人しくなっていた。
理由は明白だ。ルシエルが改心したわけではない。彼はあんなことで懲りて、嫌がらせをやめるような殊勝な人間ではないからだ。
おそらく、騎士団長の息子であり、王宮の騎士をも凌駕する実力を持つレオナルドを傷つけたことで、これ以上の騒ぎは自身の立場を危うくすると判断したのだろう。
どちらの派閥にも属さない「武の要」を敵に回す愚は避けた、というのがユリウスの見立てだった。
だが、その平穏な日々に安堵しながらも、ユリウスの心には常に重い鉛のような決意があった。
それは、卒業後のことだ。
卒業したら、レオナルドとのこの関係を完全に解消する。そう、彼に告げると決めていた。
レオナルドがどういうつもりで協力してくれているのかは分からない。
だが、ユリウスとしては、この関係あくまで在学中の一時的な措置として、きっぱりと終わらせてしまいたかった。
(…………いや、違う)
ユリウスは心の中で首を振る。そんなもっともらしい理屈は建前だ。
本音は、もっと弱くて惨めなものだ。
レオナルドの口から、「もう終わりだ」と言われるのが怖かったのだ。
彼が義務感からの協力関係を終え、あるいは飽きて、自分を捨てるその瞬間が来るのが耐えられない。
だから、その前に自分から終わらせてしまいたかった。
傷つく前に逃げる。それは臆病な防衛本能だった。
そう決めてからというもの、ユリウスは毎夜の行為一回一回を、まるで最後の晩餐のように大事に噛み締めるようになっていた。
今夜は、ベッドの縁にレオナルドが座り、その開かれた足の間にユリウスが傅いていた。
シーツに膝をつき、レオナルドの昂ったそれに唇を寄せ、夢中で舌を這わせる。
「ん、……ふ、ぅ……」
滲み出る先走りさえもが、甘くて美味しい。脳が痺れるようなアルファの蜜の味。
ユリウスは懸命に頭を動かし、喉を鳴らして奉仕した。やがてレオナルドの息遣いが荒くなり、ユリウスの口内へと熱い飛沫が放たれる。
(……ああ)
美味しくて、甘くて。
……どうしようもなく虚しくて、悲しい。
あと何回、こうして彼に触れられるのだろうか。
それをレオナルドに決められる前に、自分から言わなくてはならない。いつ切り出されるか分からない恐怖に怯えるくらいなら、今日こそは。
そう毎晩思うのに、結局その温もりを手放すことができず、言葉を飲み込んでしまう。
「……はぁ……、」
精液を飲み干し、荒い息をつくユリウスの口元を、レオナルドの手が優しく拭ってくれた。
ふと、視線が絡む。
至近距離で見つめるレオナルドの黒曜石のような瞳は、明らかに情欲の熱を孕んで揺らめいていた。
濃厚なアルファフェロモンにあてられ、ユリウスの下半身も疼き、彼を求めて熱くなっている。
(…………いっそこのまま)
理性を失ったレオナルドに押し倒され、抱き潰されたかった。
一夜だけでもいい。番になれなくてもいい。
それほどまでに、……認めたくはないが、ユリウスはレオナルドのことが好きだった。ただの協力者としてではなく、オメガとして彼に求めて欲しかった。
だが、その時は来ない。
ユリウスのフェロモンは、レオナルドを理性を失った獣に変えるには至らないらしい。
彼は決して、互いの性器を触れ合わせたり、口で慰め合う以上の行為――結合――をしてくることはなかった。
そこには明確な「処置」としての線引きがあった。
行為を終え、ユリウスはゆっくりと自分のベッドに戻り、横になった。
天井を見上げながら、自分の中に巣食う矛盾に吐き気がした。
アルファとして生きるために、レオナルドに嫌々協力してもらっているはずなのに。
オメガとして彼を求めてしまう自分の浅ましい本能を自覚するたびに、己を呪いたくなる。
(私は、アルファだ)
ユリウス・フォン・ローゼンタール。
名門公爵家の長男であり、次期宰相。
国と家と、良き王となるカイエンを支えるべき人間。
そう生きてきたし、これからもそうとしか生きられない。
その言葉を呪文のように心の中で唱え、涙が滲まないよう強く目を閉じた。
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