25 / 112
第2章
汚れた蜜の味⚠️
しおりを挟むルシエルは、ユリウスが想像していた以上に、かつて「氷の女王様」と呼ばれた高潔な男に、強制的に愛の言葉を囁かせる現状を気に入っていた。
それは、ユリウスの言葉に、レオナルドへの行き場のない想いが乗せられ、演技を超えた真実味を帯びていたからに他ならない。
皮肉にも、心からの「愛している」という響きが、ルシエルの嗜虐心と支配欲をかつてないほど満たしていたのだ。
ついに、例の薬が届いた。
だが、ルシエルはその小瓶を弄ぶだけで、ユリウスに投与して精神を壊す選択を躊躇うようになった。
薬を使ってしまえば、この心地よい屈服と、熱を帯びた瞳での懇願は失われ、ただの肉人形になってしまう。
今の「意思を持ったまま堕ちていく美しいアルファ」という極上の玩具を手放すのが惜しくなったのだろう。
それを肌で感じ取り、ユリウスはさらに必死になった。
これが、生き残るための唯一の道だ。
このまま本心でルシエルを愛していると言い続け、その寵愛を受けている間は、人質であるカイエンの命も繋がる。
そして、この状態のユリウスを壊すことを躊躇っている限り、あの恐ろしい薬を使われることもない。
高潔なアルファであるユリウスへの精神的な支配を楽しみ、その肌を舐め回したりキスしたりすることでルシエルを満足させられているうちは、恐れていた最後の一線――結合――も、踏み越えてこなかった。
おそらくルシエルの中にも、「アルファ同士が薬もなしにセックスすることは不可能だ」という常識や、ユリウスが壊れてしまうかもしれないという懸念があるのかもしれない。
とはいえ、その安息は薄氷の上にある。
ルシエルは結合こそしないものの、己の性欲を満たすために、ユリウスの身体を隅々まで舐め尽くしたり、限界まで自身の逸物を奉仕させたりすることを強要した。
「ほら、綺麗に飲み干せ。一滴も残すな」
白濁した欲望が口内に放たれる。
唾液も、精液も、美味しそうに飲み込むことを強いられる。
そのたびに、ユリウスは必死に脳裏で記憶を巻き戻していた。
レオナルドとの夜。あの甘く、花の蜜のようだった、レオナルドのアルファフェロモン。
もう二度と、味わうことはない。
もう二度と、彼には会えないのだから。
記憶の中の甘さと、現実の不快な味を強引に重ね合わせる。
吐き気を愛おしさに変換し、ユリウスは喉を鳴らしてそれを飲み下した。
「……美味しいです、ルシエル様……ありがとうございます……」
今すぐ胃を洗いたいくらい気持ち悪いのに、何故かレオナルドのことを想っていたら、心の底から感謝の言葉が紡げた。
ルシエルはそれに満足し、ユリウスの頭を撫でる。
これでいい。
このまま、カイエンのためにこの身を捧げ、国のために次期宰相として父の元で働く。
心は壊れていても、機能さえしていればいい。
それが、今のユリウスにとっての最善であり、唯一の正解だった。
2
あなたにおすすめの小説
【完結】選ばれない僕の生きる道
谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。
選ばれない僕が幸せを選ぶ話。
※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです
※設定は独自のものです
※Rシーンを追加した加筆修正版をムーンライトノベルズに掲載しています。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
たとえ運命じゃなくても、僕は
mimi
BL
「僕は自分の気持ちを信じたい。
たとえ運命から背を背けようとも」
音楽大学に通うΩの青年・相田ひなた。
努力家の先輩αと、
運命の番だと告げられた天才α。
運命か、愛情か――
選ぶのは、僕自身だ。
※直接的な描写はありません。
【運命】に捨てられ捨てたΩ
あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる