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第2章
王代理の装飾品
しおりを挟む卒業から十年が経ち、ユリウスは二十七歳になった。
かつては次期宰相として、その知性と能力を嘱望されていた男の評価は、この十年で大きく変質していた。
ルシエルがあまりにもユリウスを大切に、そして執拗に手元に置きすぎたせいだ。
今やユリウスを見る周囲の目は、国の政務を担う官僚としてではなく、実質的な権力者であるルシエルの「愛玩具」を見るそれへと変わっていた。
二十七歳になったユリウスの容貌は、爛れた日々の中で、毒々しいまでの美しさを放つようになっていた。
かつての冷ややかな氷の造形はそのままに、憂いを帯びた瞳や、触れれば折れそうな儚さが加わり、見る者の庇護欲と加虐心を同時に煽る。
その美貌は、国中の選りすぐりの美女や、フェロモンを振り撒くオメガたちを集めても到底敵わないだろう。
宮廷の回廊ですれ違うだけで、誰もが思わず息を呑み、そして下卑た視線を背中に投げかけるようになっていた。
だが、どれだけユリウスが美しく、人々の劣情を誘う存在であったとしても、ルシエル以外の者が彼に触れることは許されなかった。
ルシエルの支配欲は年々高まり、異常な域に達していたのだ。
ユリウスが自分以外の誰かと話すことすら禁じ、視線を合わせることさえ許さない。
ユリウスが口を開いてよいのは、ルシエルのそばで意見を求められた時のみ。
それ以外は、美しい装飾品として沈黙を守ることを強いられた。
そしてついに、ルシエルの権限でローゼンタール家に命令が下った。
ユリウスの住まいは実家の屋敷ではなく、王宮の奥、ルシエルの寝室に繋がる一室に移されたのだ。
表向きは「多忙な王代理を補佐するため」とされたが、それが事実上の「召し上げ」であることは誰の目にも明らかだった。
ローゼンタール家もまた、それを認めて息子を差し出したのだ。
現宰相である父は、息子をルシエルの愛人として献上することで、その信頼と地位を盤石なものにした。
ユリウスの全ては、名実ともにルシエルの手の中にあった。
十年経った今、彼は鳥籠の中に閉じ込められた飛べない鳥となっていた。
だが、奇妙なことに、ユリウスの貞操における最後の一線は、未だ守られていた。
ルシエルは、最初に脅しに使ったあの薬を使うこともなく、そして強引に結合することもなかった。
それは慈悲ではない。
ルシエルにとって、高潔なアルファであり、完璧な貴族であるユリウスを「所有物」として侍らせ、精神的に支配下に置くことこそが、肉体的な快楽以上の充足をもたらしていたからだ。
優秀な兄カイエンや、それを支えていた完璧なユリウス。
彼らに対して抱き続けてきた根深い劣等感。
それを慰めるために、ユリウスは「犯される」のではなく「支配される」存在でなければならなかったのだ。
ユリウスは、生き残るための必死の分析の中で、その歪んだ心理構造を正確に理解していた。
こうして、王代理であるルシエル、その右腕であり息子を差し出した宰相ローゼンタール卿、そして政治的中立を保ち武力を握るレオナルドの父・騎士団長ブラント伯爵。
この三者が、ここ十年で国の中枢を牛耳り、歪な均衡を保っていた。
腐敗し、澱みきった平穏。
ユリウスはこのまま、籠の中で枯れていくのだと思っていた。
だが、そんな窒息しそうな日々に、急に亀裂が入る日が、ついに訪れる。
その亀裂から差し込む光が、ユリウスにとっての救いとなるのか。あるいは、今の生活すら生温いと思えるほどの、さらなる地獄の業火となるのか。
外界から隔絶され、情報を遮断されていたユリウスには、まだ知る由もなかった。
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