【完結】獅子は鳥籠を砕く

真大(mahiro)

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第2章

凱旋の熱狂

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 その日は、何の前触れもなく、唐突に訪れた。

 王宮の奥深くにまで届くような、地響きに似た轟音。
 どんな早馬の知らせよりも先にユリウスの耳に届いたのは、国民たちが上げる熱狂的な歓声だった。

 ユリウスは書類の手を止め、眉を顰めた。
 この十年間、国の空気は淀み、国民の声は諦めと沈黙に支配されていたはずだ。それが、まるで祭りでも始まったかのような騒ぎになっている。

 ユリウスは椅子から立ち上がり、鳥籠である王宮の一室の窓から、眼下の大通りを覗き込んだ。

「……な、んだ……?」

 そこには、驚くべき光景が広がっていた。
 沿道を埋め尽くした人々が、馬に乗り凱旋する一団を、割れんばかりの拍手と歓声で迎えていたのだ。

 何事なのかと目を凝らす。
 行進してくる騎士たちの身につけている鎧は、バラバラだった。この国の正規軍の制服ではない。東方の軽装鎧もあれば、北方の重厚な甲冑もあり、まるで傭兵団か、多国籍軍のようだ。

 常識で考えれば、それは「侵略者」の姿だ。
 それなのに、国民たちは彼らを敵として恐れるどころか、待ちわびた英雄を迎えるかのように両手を振って歓迎していた。

 彼らが向かう先は、この王宮の正門――そして「王の間」であることは明らかだった。

(行かなければ)

 ただ事ではない。
 そう思ったユリウスは部屋を出て、王の間へ向かおうと反射的に扉に手をかけたが、外からルシエルによって鍵をかけられているので出られない。
 そうだった。自分の意思では出られないんだった。
 とユリウスがどうするか考えようとした瞬間。

 バン!勢いよく扉が外から開かれ、ルシエルが飛び込んできた。

「――ッ!」

 その顔を見て、ユリウスは息を呑んだ。
 いつも尊大で、余裕に満ちていたルシエルの顔色が、死人のように蒼白だったのだ。
 彼は荒い息を吐きながら、ユリウスの姿を認めると駆け寄り、その細い身体をきつく抱きしめた。

「ルシエル様……?何が……痛いです」
「…………ユリウス」

 ルシエルの腕が、小刻みに震えているのが分かった。
 彼はユリウスの肩に顔を埋め、絞り出すような声で言った。

「あの男が、帰ってきた」
「え……?」
「お前はこの部屋を出るな。……絶対に、ここから動くんじゃないぞ」

 それだけを言い残し、ルシエルはユリウスを突き放すようにして離れた。
 そして、何かに怯えるような、あるいは覚悟を決めたような瞳で一瞬だけユリウスを見つめると、静かに部屋を出ていった。

 おそらく、そのまま王の間へ向かい、あの正体不明の騎士たちを出迎えるつもりなのだろう。
 扉が閉ざされ、静寂が戻った部屋に、ユリウスは一人取り残された。

 知りたい。
 あの不揃いな鎧の騎士たちが、何者なのか。
 なぜ国民は彼らを英雄として迎えているのか。
 そして何より、ルシエルをここまで怯えさせた「あの男」とは誰なのか。

 知りたい、という焦燥感以外には、何も具体的な情報がないはずだった。
 それなのに、ユリウスの心は十年ぶりに、痛いくらいにざわついていた。

「……っ」

 ユリウスは自分の胸元を強く握りしめた。
 何も分からないのに。
 心だけではなく……死んだはずの身体の奥、下腹部のあたりが熱く疼き、ざわつく感覚を覚えたのだ。

 それは恐怖による震えなのか、それとも歓喜の予感なのか。
 ユリウスは、自分の身体に起きている理解不能な反応に、大きな不安を覚えずにはいられなかった。
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