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第2章
英雄の宣戦布告
しおりを挟むルシエルは、玉座の上からレオナルドたちを毅然とした態度で迎えていた。
少なくとも、表面上はそう取り繕っていた。
だが、一番近くに侍るユリウスには痛いほど分かっていた。
ルシエルが今、内心ではものすごく動揺し、怯えていることを。
その証拠に、膝の上に置かれた拳は微かに震えていた。
「……ブラント卿。まさか死んだと思っていた貴殿が、こうして宿敵であるマシルバ国を打ち倒して凱旋するとは、夢にも思わなかったぞ」
「はい。殿下、我々騎士団は少数精鋭。
あくまで『国王陛下』の名の下に動いた極秘任務でしたので、殿下がご存じなくとも無理はありません」
レオナルドは、ルシエルの目を真っ直ぐに見据え、わざとはっきりと「国王陛下」という言葉を強調した。
それはつまり、現国王が意識不明の中、国王代理として玉座に座っているルシエルを、真の主君としては認めていないという強烈な皮肉であり、挑発だった。
だが、それを無礼だと騒ぎ立てるような空気にはならなかった。
レオナルドたちが成し遂げた功績があまりにも大きく、その威圧感が会場を支配していたからだ。
ルシエルは頬を引きつらせ、怒りに震える声を必死に抑え込みながら続けた。
「……そうか。では、王の代理としてこの俺が、国の英雄となったブラント卿に褒美をやろう。
望むものはあるか」
褒美、と言われて貴族たちがまず想像するのは爵位だ。
ブラント家は伯爵家。
対して、代々宰相を輩出するローゼンタール家は、そのさらに上の公爵家だ。
レオナルドは静かに、しかし会場の隅々まで届く声で答えた。
「では、爵位を。公爵位を賜りたいと存じます」
会場がどよめいた。伯爵から公爵への昇爵。それはユリウスの実家と同格になることを意味する。
ルシエルが渋々といった様子で頷くのを見届けると、レオナルドは「それから」と続け、さらに踏み込んだ言葉を紡いだ。
「殿下、我々が不在の間にこの国で起きたことは、全て理解しております。
……これは褒美とは関係ありませんが、ここに一つ宣言をいたします」
レオナルドの瞳が鋭く光り、その場の空気を凍りつかせた。
「我々は『獅子騎士団』と名乗り、王宮の騎士団とは独立した存在として、これからもあり続けると」
そして、一呼吸置いて、爆弾を投下した。
「我々は、今獄中にいらっしゃる第一王子、カイエン様を支持いたします」
その言葉に、会場全体が揺れたような衝撃が走った。
悲鳴にも似たざわめきが広がる中、ルシエルも流石に余裕を保てなくなり、顔を真っ赤にして立ち上がった。
「な、なんだと……貴様、謀反者を支持するというのか!?それは国への反逆だぞ!」
「いいえ。カイエン様はまだ正式に断罪されておりません。
あくまで容疑者という形で、裁判中の御身です」
レオナルドは一切怯むことなく、理路整然と言い放った。
「そのカイエン様を支持し、公正な裁きを求めることは、決して謀叛には当たりません」
正論であり、そして何より「武力」という裏付けを持った言葉だった。
ルシエルはその圧倒的な気迫に気圧され、反論の言葉を失った。
そして、恐怖と焦燥に駆られた彼は、無意識に救いを求めるように――すぐ隣に立っていたユリウスの腕を乱暴に引き寄せた。
「あ……ッ」
立ったままバランスを崩し、ユリウスはルシエルの腕の中に倒れ込むように収まった。
ルシエルはユリウスの腰を強く抱きしめ、まるで「これは俺のものだ」と誇示するかのように、あるいは盾にするかのようにしがみついた。
王宮の臣下たちにとっては見慣れた光景であり、誰も声を上げない。
だが、居合わせた貴族や他国の招待客たちは、こうして公衆の面前で、次期宰相であるユリウスを異常なまでに寵愛し、抱き寄せるルシエルの姿を初めて目の当たりにし、大きくざわついた。
「あ……、見ろ、あの噂は本当だったのか」
「美しいが、やはり……」
好奇と軽蔑の視線が突き刺さる。
だが、ユリウスにとってそんなことはどうでもよかった。
ユリウスは、誰よりも……目の前にいるレオナルドの顔が見たくなくて、深く俯いた。
(見ないでくれ)
こんな姿を見られるくらいなら。
薄汚れた愛玩具として、男の腕に抱かれている今の自分を見られるくらいなら。
その前に死んでしまいたかった。
まさか、再会するなんて。
あの日、高潔なまま別れたはずの彼と、こんな最低な形で再会するなんて。
絶望に染まったユリウスは、レオナルドの視線から逃げるように、ルシエルの腕の中で固く目を閉じた。
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