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第2章
夜の風に攫われて
しおりを挟むそしてついに、その日がやってきた。
あの夜、レオナルドが密かに訪れた時と同じように、ルシエルが王族の会合のために王宮を空けるタイミングが巡ってきたのだ。
しかも、今回は一日ではなく、三日間もの不在となる。
三日もユリウスと離れることを、ルシエルは酷く不服に思っていた。
その鬱憤を晴らすかのように、昨夜は常軌を逸した執着で身体を貪られた。
「もう出ない」とユリウスが懇願しているのに、無理やり何度も射精させられたり、気絶する寸前まで喉の奥深くまでを使われ、呼吸すら許されないような奉仕を強要されたりした。
今のユリウスの身体は、指一本動かすのも億劫なほどに疲弊しきっている。
それでも、最後の一線さえ超えられなければ、どんな酷い扱いを受けても構わないと、ユリウスは感覚を麻痺させて耐え抜いていた。
静まり返った部屋で、重い身体を引きずってソファに座っていると。
コンコン、と。
窓ガラスが軽くノックされた。
ユリウスは弾かれたように顔を上げた。
ここは王宮の最上階だ。下を覗き込めば、足がすくみ、死を予感するような高さにある。
緊張した面持ちで窓の方を見ると、外には窓枠に器用に足をかけた、身軽そうな男が張り付いていた。
見覚えがある。
先日、広間に入場してきた二十人の「獅子騎士団」のうちの一人だ。
ユリウスが鍵を開け、窓を押し開く。
吹き込む夜風と共に、男は音もなく部屋の中へと滑り込んできた。
これほどの高所を登ってきたというのに、息ひとつ切らさず、平気そうな顔で微笑んでいる。
「ユリウス様。お迎えにあがりました」
恭しい口調だった。
だが、ユリウスはその言葉に違和感を覚えた。
お迎え、だって?
情報を聞き出すだけなら、わざわざ連れ出さなくとも、この場で必要なことを聞いてくれれば全て答えるのに。
そうすれば、レオナルドにとってもリスクが少ないはずだ。
「……ここで話すわけにはいかないのか?」
そう問いかけようとしたが、男はユリウスの返事を待たずに手を伸ばしてきた。
「さあ、行きましょう。レオナルド様がお待ちです」
その言葉と共に、男の手が伸びる。
手際よく、ひょい、と。
まるで荷物か何かのように、ユリウスの身体は男の肩に担ぎ上げられた。
「なっ、ちょっ……」
「舌を噛まないようにご注意を」
ユリウスが抗議する間も、怖いと思う暇もなかった。
男はユリウスを担いだまま、開いた窓から外へと身を躍らせた。
ヒュッ、と風を切る音がする。
落下するのではない。
男は重力を無視したような動きで屋根へと飛び移り、そのまま王宮の尖塔を蹴って闇の中を疾走し始めた。
速い。
人を一人抱えていることを忘れさせるほどの速度だ。
流れる景色が黒い線となって後方へ消えていく。
ユリウスは、レオナルドの部下であるその男の肩の上で、颯爽と夜の闇を走り抜けていく風の冷たさに、ただ目を閉じるしかなかった。
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