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第2章
太陽の決断
しおりを挟むユリウスの言葉を受けた後、レオナルドはしばらくの間、沈黙した。
俯いている間、レオナルドが自分をどのような目で見下ろしていたのか、ユリウスには分からない。
けれど、想像するのは容易かった。
どうせ、怒りと侮蔑、そして汚らわしいものを見る目で睨んでいたに違いない。
それ以外の感情など、今の自分に向けられるはずがないのだから。
「……ユリウス。話をしたくてここに呼んだんだ。座って欲しい」
静かな声だった。
「話」というのが、単なる尋問ではなく、もっと重く大事なことだということが声色から伝わってくる。
ユリウスは無言で頷き、今度はその言葉に従った。
ユリウスがソファに浅く腰掛けると、レオナルドもその対面にある席に座った。
真正面から向き合い、その黒曜石の瞳で真っ直ぐに見つめられる。
ユリウスは耐えきれずに目を逸らした。
彼があまりにも眩しくて、まるで太陽に焼かれるように目が痛かったからだ。
直視すれば、自分の薄汚さが浮き彫りになるようで怖かった。
「……単刀直入に言う。俺たち獅子騎士団は、ルシエルが計画している『カイエン暗殺計画』を嗅ぎつけた」
「――ッ!」
その言葉に、ユリウスの喉がヒュッと締まった。
「……な、何故ですか?裁判中の第一王子を、今更殺す必要が……?」
「今、ルシエルは焦っているんだ。我々が帰還し、第一王子派が勢力を盛り返していることに恐怖している。
だから、少しでも王位を奪われる可能性を消したいんだろう。秘密裏にカイエンを始末し、事故か病死に見せかけるつもりだ」
レオナルドは拳を握りしめ、語気を強めた。
「そのために、我々はここに、このタイミングで独立
した騎士団として存在していると言ってもいい。
カイエンを救いだし、ルシエルを廃するために。
現国王陛下が存命のうちに……ルシエルが正式に王位に就く前に、正しい国の姿に戻すんだ」
レオナルドの口から紡がれた言葉は、まさにユリウスが十年もの間、心を殺して願い続けてきた未来そのものだった。
その未来を描くたびに、自分の居場所はそこにはないことを確信し、絶望していた。
けれど、その実現のために協力できるなら、この命も身体も、何でも捧げられると思った。
「分かりました」
ユリウスは顔を上げ、強くはっきりと答えた。
「その為に私を呼んだのですね。
分かりました、何でも協力します。私が持っている情報は全て――」
そこまで言って、ハッと我に返った。
ユリウスは急に声を潜め、表情を曇らせた。
「…………ああ、申し訳ありません。ブラント卿は、私のような裏切り者を信用など出来ませんよね。
何を命令されるのかも聞かず、先走ってしまい大変失礼しました」
言いながら、深く頭を下げた。
なんて恥知らずなのだろう。
実質的にレオナルドにとって第二王子派の中枢であり、敵の情婦である自分が、まるで対等な仲間かのように「協力する」などと意気揚々と答えたのだ。
その図々しさは、レオナルドにとって無礼だと捉えられてもおかしくない。
処刑台に上がる前の罪人のように、頭を下げて次の言葉を待った。
その時だった。
ふわり、と。
大きく温かい手が、ユリウスの頭に乗せられた。
そして、優しく撫でた。
「ッ!?」
ユリウスは、ビク!と身体を震わせてしまった。
殴られるならまだしも、そんな優しさを向けられるとは微塵も思っていなかったからだ。
驚いて顔を上げると、目の前のレオナルドは、怒りなど欠片もなく、ただひどく悲痛な顔をしていた。
(……なぜ、そんな顔をするんだ)
疑問が浮かぶが、すぐに一つの解釈に行き着いた。
かつての学友が、ここまで堕ちて卑屈になっている姿が、あまりに哀れだと思ったのだろう。
これは、敗者への同情だ。
だが、次にレオナルドの口から発せられた言葉は、ユリウスの想像を遥かに超えるものだった。
「…………ユリウス。君を、あの部屋に帰すつもりはない」
「え……?」
「君には獅子騎士団に協力してもらう。今日から、ここが君の居場所だ」
よく通る、揺るぎないレオナルドの声が、そう宣言した。
ユリウスは瞬きすら忘れ、言葉の意味を理解できずに、ただ呆然とレオナルドを見つめることしかできなかった。
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