【完結】獅子は鳥籠を砕く

真大(mahiro)

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第3章

濁った碧眼の祝辞

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 生き人形として、ただ呼吸をするだけの存在になる。
 そう覚悟を決めて、どれくらいの時間が経っただろうか。

 ガチャガチャ、と。
 重々しい音を立てて、部屋の外鍵が外された。

 ルシエルが公務から戻ってきたのか。
 ユリウスは身構えることもなく、虚ろな視線を扉へと向けた。
 だが、そこに立っていたのはルシエルではなかった。

 年配の男性。冷徹な空気を纏い、ユリウスと同じ色の瞳をした男。
 ローゼンタール公爵――つまり、ユリウスの実の父親だった。

「……父上?何故、ここに……?」

 ユリウスの口から、掠れた声が漏れた。
 かつては次期宰相として、父の元で働いていた期間も長かった。
 だが、その後この王宮の奥深くに召し上げられ、立場上は同じ公爵位でありながら、事実上のルシエルの愛玩具として隔離されてからは、外界との関わりを絶たれていた。

 そのため、父と顔を合わせるのは数年ぶりのことだった。
 久しぶりの再会だったが、父の姿はあまり変わっていなかった。
 相変わらず冷淡で、厳格。
 余分なことは一切口にしない、氷のような雰囲気を漂わせている。

 だが、今日は何かが違った。
 その表情の端々に、微かな高揚が見て取れたのだ。
 なんだか少し、父が嬉しそうに見える。
 それがユリウスには異様に映った。

「ルシエル殿下より、ユリウスを正式に『妻』として迎えるという通達を受けて参った。
当主として、また親として、その婚姻を容認する手続きのためにな」

 父は、淡々と、しかし確かな満足を含んだ声でそう告げた。

 ユリウスは、無言になった。
 ルシエルは確かに、事あるごとに「お前がオメガなら番にして妻にしたい」と口にしていた。
 昨夜、オメガであることが露見し、番にされた今、それを早々に実行に移したことに驚きはなかった。あの男ならやるだろう。

 だが、そのことに対して、父が嬉しそうにしているのは不可解だった。
 アルファの男の妻になるということは、公的にユリウスが「オメガ」であることを認めたことになるからだ。

 ローゼンタール家は、代々優秀なアルファしか生まれない名門中の名門だ。
 オメガが生まれたなどという事実は、家名に泥を塗る最大の恥部のはず。
 だからこそ、ユリウスは「家の秘密」として性別を偽り、アルファとして厳しく育てられたのではなかったのか。

 ユリウスが怪訝な顔をして黙り込んでいると、父はゆっくりと歩み寄り、ユリウスと向き合った。
 そして、感情の読めない顔でこう言った。

「……お前はルシエル殿下の番となり、もう逃げられない。
その立場になり、完全にこちらの掌中の珠となったお前だからこそ……今まで話していなかった真実を教えてやろう」

 父が覗き込んでくる。
 ユリウスと同じ、美しいはずの碧眼。

 だが、その瞳は、どこまでも深く濁っているように見えた。
 そこには息子への愛情など欠片もなく、あるのはただ、どす黒い欲望と計算だけだった。
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