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第3章
作られた名門
しおりを挟む父は、まるで業務報告でもするかのように「まず順を追って話そう」と前置きをした。
そして、ローゼンタール家という一族の根幹に関わる話から口火を切った。
「ローゼンタール家がアルファの名門であるということは事実だが、長い歴史の中で、万が一オメガが生まれた場合はどうしていたと思う?
……代々伝わる特殊な薬を服用させていたのだ」
父の低い声が、淡々と秘密を暴いていく。
「それは、オメガとしての生殖機能を完全に殺す薬だ。
生まれてすぐから、第二性を発現する可能性のある十六、七歳まで欠かさず飲み続け、二十歳まで飲めば完全に身体は作り変えられ、オメガとしての機能は死に、一生ヒートも起こることはない」
「……な」
「つまり、『アルファの名門』というのは名ばかりで、それは薬によって作られた虚構なのだよ」
父は悪びれる様子もなく、そう告げた。
ユリウスは言葉を失った。自分という存在の根底が、足元から崩れていくような感覚だった。
「ユリウス、お前は特に幼い頃から第一王子殿下の側近として選ばれるほど、優秀で見目麗しかった。
だからこそ、万が一にもお前がオメガの可能性があり、それが露見することは許されない。だから、幼い頃からずっと食事に混ぜて薬を飲ませ続けていた。自我が芽生えた頃からは、必ず飲むように与えて飲ませた。
アルファが飲んでも害のない薬だからな」
父の濁った瞳が、ユリウスを映している。
だが、そこには息子への愛など微塵もなく、ただ「優秀な道具」の性能について語るような冷徹さしかなかった。
「そして、側近としてずっと全寮制の学院でカイエン殿下とルームメイトだったお前が、第二性を発現する可能性が高まる十七歳の年。
……ローゼンタール家と裏で繋がっているブラント家の息子を、お前のルームメイトとして途中転入させたのだ」
「――ッ!?」
その名前に、ユリウスは息を呑んだ。
レオナルドの転入が、偶然ではなく、ローゼンタール家とブラント家の意図でなされたことだったなんて。
「……それは、何故ですか?」
震える声で尋ねると、父は平然と答えた。
「あの時、両家とも、第一王子のカイエン殿下か、第二王子のルシエル殿下。
そのどちらを次の王にするか決めかねていたんだ」
まるで、一貴族である彼らに王を決める決定権があるかのような言い草に、ユリウスは背筋に悪寒が走った。彼らは、王家に仕えているのではない。
王家を利用し、支配しようとしているのだ。
「もし、お前がオメガで、薬の効果が間に合わずに第一王子と同じ部屋でヒートを起こし、番にでもなられてみろ。
それは非常に困る。我々はまだどちらにつくか決めていなかったのだからな。
最悪お前がオメガであっても、番になるなら我々がどちらを王にするか決めてからにして欲しかったのだ」
父は、チェスの駒を動かす話でもするように続けた。
「だからあの男、レオナルド・フォン・ブラントを送り込んだ。
あの男には、こう密命を下していた。
『もしユリウスがオメガなら、その秘密を卒業まで守り通す工作をしろ』とな」
「……あ……」
「薬を与え続け、ブラント家の息子が監視し、ガードする。
そうすればオメガの機能は二十歳までに完全に死ぬ…………そのはずだったのだがな」
父の言葉が、脳内で反響する。
つまり、あのヒートがなくても、レオナルドは最初からユリウスがオメガである可能性を知っていた?
あの優しさも、あの距離感も、全ては「監視役」としての任務だったというのか?
何もかも、知らなかった事実ばかりだ。ユリウスの手がカタカタと震え出した。
だが、父の話はまだ終わらなかった。
さらに残酷な真実を告げるために、父は口を開き続けた。
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