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第4章
騎士団長の休暇
しおりを挟むユリウスが奇跡的に目を覚ました次の日。
レオナルドは王宮の執務室へと向かい、カイエンにその吉報を報告した。
カイエンは国王に正式に即位する前から既に始めていた公務に追われ、執務机には書類が山積みになっていたが、親友からの報告を聞くと、ペンを置いて顔を輝かせた。
ユリウスの目覚め、そしてレオナルドが半年以上も待ち続けていた念願の日がついに来たことを、我がことのように喜んだのだ。
「カイエン。……これからの回復を、ユリウスの一番そばで支えたいんだ」
レオナルドが真剣な眼差しでそう申し出ると、カイエンは深く頷いた。
「ああ、もちろんだ。この半年で、レオナルドには王宮騎士団の腐敗の粛清と再編に尽力してもらったからね。組織の基盤は整った。
ある程度は君がいなくても、優秀な副団長たちのもとで自走していくはずだ」
カイエンは穏やかに微笑み、レオナルドに告げた。
「一ヶ月の休暇を与えよう。何も気にせず、ユリウスのそばにいてあげてくれ」
「……感謝する」
「私からも、ユリウスにはまた必ず面会に行くよと伝えてくれ」
一番多忙なはずの若き国王は、優しく、穏やかな友人の顔でそう言って送り出してくれた。
その後、レオナルドは休暇をもらったことを王宮騎士団、そして獅子騎士団のそれぞれの副団長へと伝達した。
二人とも、この半年間、不眠不休で働きながら病室へ通い詰め、日に日に摩耗していく騎士団長がいつか心労で倒れるのではないかと肝を冷やしていたため、安堵の息を吐き、ほっとした様子で快く送り出してくれた。
引継ぎを済ませ、レオナルドはユリウスの病室へと急いだ。
静かに病室へ入ると、ユリウスは眠っていた。
まだ喉には呼吸器が付けられたままで、自力での発声はできない状態だ。
だが、一度目覚めた姿を見たからか、あるいは生命力が戻ってきたからか、いつ死んでしまうかも分からなかった昏睡状態の時よりも、ずっと穏やかな寝顔に見えて、レオナルドは胸を撫で下ろした。
ユリウスの安らかな眠りを邪魔しないように、音を立てずにベッドサイドの椅子へ座る。
顔色も、昨夜までの透き通るような死人の白さから、少しだけ血色が良くなったように見えた。
しばらくじっと、その愛しい顔を見つめていると、不意に長い睫毛が震えた。
そして、ゆっくりと瞼が持ち上がり、ユリウスの目が開いた。
「……ユーリ」
優しく声をかけると、ユリウスはゆっくりと視線を巡らせ、そして美しい碧眼をレオナルドへと向けた。
焦点が合うと、ユリウスは安堵したようにふわりと目を細めた。
「――ッ」
昨夜も、レオナルドはユリウスが少しでも微笑んでくれただけで叫び出しそうになっていたが、一夜明けた今も、その衝撃は変わらなかった。
ただレオナルドがそばにいるということを確認しただけで、嬉しそうに目を細めるユリウス。
その無防備な信頼と好意を見て、レオナルドの身体中は歓喜と愛しさでいっぱいになり、内なる獅子が暴れ出しそうだった。
(……よく今まで、俺は我慢できていたな)
在学中からずっと、こんなにも可愛くて、愛しい存在に見つめられて。
何度も何度も「愛してる」「好きだ」「俺のものになって欲しい」と伝えて、その細い身体を抱きしめたかったか分からない。
よくぞ気持ちを抑えていられたと、過去の自分を褒めてやりたくなった。
家同士のしがらみ、国の陰謀、そしてユリウスを永遠に失う可能性と隣り合わせの状態で待っていた時間――それら全ての枷から解放された今。
レオナルドの中で、長年築き上げてきた我慢の堤防が決壊しかけているのを感じた。
今すぐ抱きしめたい。口付けたい。ありったけの愛を叫んで、彼を甘やかしたい。
(だが、焦ってはいけない)
レオナルドは奥歯を噛み締め、自分自身に言い聞かせた。
ユリウスはまだ目覚めたばかりだ。ここで理性のタガが外れた獣のように迫れば、彼を驚かせてしまう。
回復を最優先し、距離をいきなり詰めすぎずに、優しく、穏やかに、少しずつ愛を伝えていくべきだ。
荒ぶる心臓を深呼吸で落ち着かせ、レオナルドは震える手で、ユリウスの手をそっと握った。
「ユーリ。……今日から、休暇をもらったんだ」
ユリウスが瞬きをする。
「一ヶ月間、ずっと君の一番そばにいるために。……だから、安心して回復に専念してくれ」
そう伝えると、ユリウスは先程よりもさらに嬉しさを滲ませた瞳になり、緩やかに笑い、そして小さくコクンと頷いて見せた。
「…………っ」
レオナルドは、あまりの愛しさにそれだけで心臓が痛かった。
ベッドに突っ伏して喜びを爆発させたい衝動に駆られたが、何とか叫び出すことだけは抑え込み、握った手に熱い額を押し当てて耐えた。
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