そっと、口吻けを。

璃鵺〜RIYA〜

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そっと、口吻けを。

そっと、口吻けを。 13

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そんな風に穏やかな日々を送っていたが、美波の学校の春休みがそろそろ終わりそうだという、4月の初旬に美波が家に帰ると言い出した。
何だか妙にスッキリした顔をして、朝起きたら急に帰ると言い出して、急にランチを珀英と3人で外で食べたいと言い出した。

オレは今日は何も予定がなかったから、珀英に電話してランチに誘ったら、都合をつけてくれて来てくれた。
そして今、オレと美波と珀英で、六本木にあるオレのお勧めのお寿司屋さんへ来ていた。

3人なのでカウンターではなくテーブル席に通され、ランチのコースを3人分注文する。外観も店内も『和』で統一されていて、木造の年季(ねんき)の入った建物に、白木のテーブルと椅子が置かれている。
カウンターにはガラスの冷蔵ケースがあり、職人さんが無駄のない綺麗な動きで、魚を取り出しては戻していく。

出された暖かいお茶を飲みながら、何でこんな風に一緒にランチに来てるのかもちょっとわからなく、何を話したら良いのかわからない。
と、美波がお茶を一口啜(すす)って、目の前に座っている珀英を見上げながら言った。

「私、この後もう家に帰るから」
「あ・・・そうなん・・・ですか?」

珀英が縁なしの眼鏡を直しながら、オレをちらっと見て返答する。珀英は視力があまりよくないので、仕事なんかの時はコンタクトを入れていて、今みたいに完全にオフだと眼鏡をかけている。
オレと会う時はだいたいコンタクトを入れてくるが、慌てて出てきたのか。珍しくて思わずじっと見てしまう。

黒い薄手のセーターにジーパン、足元はスニーカーという格好を見ても、予定が特にあるわけじゃないとわかる。まあ、オレも青いVネックのカットソーに黒いパンツという適当な格好してるけど。

「なんか、朝急に帰るって言い出して、珀英とランチ行くって・・・」
「そうなんですね・・・」

珀英は少しほっとしたように微笑んだ。美波はそんな珀英から目をそらさずに、はっきりと言った。

「私、ママと一緒にイタリア行くことにしたから。だから、パパのこと珀英に頼みたいの」
「え?!イタリア行くの?!」

これはオレが聞いていなかったので、びっくりして声が大きくなってしまった。慌てて口を噤(つぐ)んで、小さい声で言う。

「急にどうしたの?」
「うん・・・昨夜ママから電話があって。ものすっごい泣いて帰ってきてって」
「そっか・・・」

キッズケイタイを持っており、昨夜誰かと話している感じだったのは、やっぱりそういうことだったのか。
それにしても、何でそれをオレに言わずに珀英に言い出したのかわからない。
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