ワールド・トラベラーズ 

右島 芒

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鋼蟲 その1

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 体中がじんわり痛い、傷自体はそろそろ治るはずだ。何でこうなったんだっけ?ええっと、パジャックと話しながらみんなの所に戻る途中でマールが何故か僕らを睨んでいるとこまで何となく覚えているけど、あれ?ああそうだった、巻き込まれた。はぁー、僕の妹はちょっと怒りっぽいところがある。短気なのは良くない処だけどそれは素直なことの裏返しでもあるから言うほど悪くもないと僕は思っている。出会った頃は寂しがり屋で人見知り、いつも僕の尻尾を掴んで後ろを歩いていたマールが今はこんなにも元気いっぱいなのが少し嬉しくも思う。後頭部には柔らかい感触、マールの匂い、薄目を開けるとやっぱりちょっと泣きそうな顔している。
「マール、大丈夫だよ。僕が丈夫なの知ってるだろ?」
「ごめんなさい。」
落ち込んでいるマールの頭を優しく撫でる太陽みたいに奇麗でサラサラの黄金色の髪から僕の好きな良い匂いがした。いつまでも妹の膝枕は少し恥ずかしいのでそろそろ起きると何故かマールは残念そうな顔をして僕を見た。
「どうしたの?」
僕は不思議に思いマールに聞いた。すると顔を伏せながら小さい声でボソボソ言っている。
「マールさすがにそんなに小さい声で言われたら僕でも聞き取れないよ。」
するとマールは顔を真っ赤にしながら僕を睨む。
「お兄ちゃんのバカ!聞こえないように言ったの!隊長の所にでも行ってくれば!」
・・・怒られた、うちの妹はたまに理不尽な怒りを僕にぶつけてくる。反抗期ってやつかな?でも実家に居る時はうちの父ちゃん母ちゃんにはそんな素振りは見せない、僕限定なのかな?なんかへこむな・・・
僕が落ち込みながらトボトボ歩いているとルーさんが口とお腹を抱えて笑いを堪えている様に見える。
「笑う事ないじゃないか。」
「違うわよ、アナタ達があんまりにも愛らしくてつい悪気はなくってよ。」
「?良く分からないけど悪い意味じゃないならいいや。それよりこの後の話ってまとまってるの?」
「それも込みでちょっと話し合いたいから皆に一旦集まって貰おうかしらね。」


 まったくうちの小隊はスマートに調査出来ない運命なのかしらって疑いたくなるわ。それにしてもケンタウロス族の男性はなんで皆あんなにもエロい体つきなのかしらね!族長のパジャック氏、推定で50過ぎかしら?なのに!あの盛り過ぎの胸筋とメリハリのある上腕二頭筋そして美しい腹筋!抱かれたいわ!
後ろに控えている従者のお兄さんもカリムって言っていたわね、細マッチョ!知的かつ腹黒そうなところもデンジャーかつアタシ的に好みなのよね・・・ヤバイ妄想が膨らむわ。それにターニャちゃんも美人さんね、男勝りのぶっきらぼうだけど根は超良い子入ってる処ところが萌えるのよ!あんな子が恋しちゃうところなんかを想像しただけで大好物です!・・・危ないわ脱線どころの話じゃなくなりそうだから戻さないと。
あのちょい悪エロ杉ダンディ・・・ごめんなさい、パジャック氏達が何故自分たちの集落から離れた場所に居るのかと言えば彼の妹さんが嫁いだ先がこの先にある別のケンタウロス族の氏族が集まる集落でそこから2週間ほど前に救援を求めてその集落の若者が彼を訪ねて来たようね。『化け物が襲ってきた』この話を聞いた時点で彼らの集落の付近んにダンジョンが発生したって確定した。この地域で未確認の野生動物の存在って線も否定しにくわね、仮にいたとしても人がいる集落を襲ったりしないモノよ。まあそれ以前に深界断層が起きた地域なら何が起きても不思議じゃない、ダンジョンが出現しているなら尚更。困ったわね・・・今回の遠征は当たりも、当たり、大当たりじゃない。
「確定だな、彼らの集落を襲ったのはおそらく『鋼蟲』と呼ばれている深界遺跡由来のモノだろう。」
「我も同意見だ!アレは厄介だ!並の戦士では屠るのに手がかかる。」
ダンジョンの良い所と悪い所、まず良い所の一つに新しい技術が手に入るかもしれない、発掘次第では巨万の富を手に入れられる可能性。悪い所はそのダンジョンを守る存在が厄介な事、最もよく確認されているのが鋼蟲、個体は多少あるものの全長1・5トールほどの虫のお化け。硬い、多い、早いこれだけでうんざりしちゃう、見た目のインパクトもあるからアタシ苦手なのよね。ダンジョンから出てきては無差別に襲って来る、もしかすると彼らの集落のかなり近くにダンジョンが有りそうね。最悪死人が出るわ。
「隊長急ごう、嫌な予感がする。」
「うむ・・・隊を分ける。レン、マールはパジャック殿と共に先行して集落に急行しろ。俺とルーデンスは悪いが少し遅れる。俺の足と荷物を考えると仕方ない。パジャック殿、二人を頼む。」
「応!任せろ!二人とも我らの背に跨れ!そして落ちるなよ!」
土煙を上げながら5人は見えなくなっていく、あの速度は驚異的ね。うちの小隊にもケンタウロス族の子一人くらいスカウトしたくなるわ。
「俺たちも急ぐぞ。」
「そう急かさないの、リヒター荷物が落ちないようにしっかりロープを鉸めて。よし、これなら大丈夫。」
「ルーデンス、体力補助と肉体強化の重ね掛けを頼む。」
「任せなさい!カストロール、ニトロバースト!張り切るのは良いけど安全運転でよろしくね!」
「応よ!うおぉぉぉぉ!燃え上れ俺の躰と魂!」
リヒターの体は引き締まり急激に熱を帯び走るための体に変化している。オーク族の能力身体改造、
もともと狩猟種族の彼らが自然の中で生き延びるために編み出した特異な能力。本来ここまで急激な変化は危険を伴うけれど彼のオーク族の中でも一際恵まれた体格とアタシの補助呪文なら体にそれ程負担は掛からない。りひたーがフロートカートに結ばれた縄を掴み腰に巻くと親指を突き出したハンドサインを私に向ける、スタートの合図に私は頷く。その瞬間体は後ろに引っ張られる、ケンタウロス族にも負けないスピードでアタシ達も目的地に向かって駆け出した。
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