ワールド・トラベラーズ 

右島 芒

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鋼蟲 その2

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 ケンタウロス族の全力疾走がこれ程とは知らなかった。私は振り落とされないように必死にターニャの腰にしがみ付く。なんとか薄目をかけるとパジャックおじさんと兄の姿、その先には先行しているカリムさん。
「族長、集落が燃えてます!」
「黒き風の息子よ、お前の勘が当たったな!駆けるぞ!」
「嫌の予感ほど当たるって父ちゃんも言ってたっけ、このまま集落のど真ん中まで突っ込む!」
ターニャの背にしがみ付いたまま集落に入るとそこは混乱の只中だった。火の手は数か所の民家から上がており原因は昼食の準備をしている時間帯に鋼蟲の襲来があったために起きたものだと思う。
思った以上に現場が混乱している、このままだと状況を正確に把握でいない。戦えない人達を一旦避難させないと。
「「ターニャ、私と一緒にここの人達の避難を手伝って。同じケンタウロス族の貴女の声の方が届き易いはず。」
「ああ、分った!みんな聞いてくれアタイはパジャックの娘ターニャ!父と共に助けに来た、女子供年寄りはアタイの指示に従って避難してくれ。集落の外まで逃げるんだ!」
ターニャの大きく通る声がは混乱している人たちの耳を傾かせるには十分だった。彼女の誘導のお陰で集落の中が良く見通せる。私がすべき事でまずしなければいけない事は?この集落の安全の確保、帆の手がこれ以上回らないようにしなければ兄達が安心して戦う事が出来ない。
「お願い『スイカ』力を貸して。」
私は自分の内側に語り掛ける。眼を閉じると私の魂と繋がる回廊を輝きながら青く澄んだ花の精霊が
私に向かって手を伸ばす。
「マールお嬢様、スイカ参上致しました。ではちゃっちゃかと火を消してみせます。」
咲き誇る花をモチーフにしたメイド服姿の女性がスカートをはためかせながら現れスカートの端を摘まみ上げながら恭しく一礼すると燃えている民家を確認しながら指先をその民家の方に向ける。
「発射!」
「えっ!」
スイカの指先から高密度に圧縮された直径1トール程の水球が次々民家に打ち出される。
「一つ!二つ!三つ!」
案の定火を消すどころか家は見る影もなく破壊されている。私は慌ててスイカに抱き着き辞めさせるが既に時遅く廃墟と化した民家が残るだけだった。
「うえぇん!人選間違えた。」
「お嬢様、なんか楽しくなってきたので他の家とかも壊していいですか?いいですよね。」
「ダメに決まってるでしょ!なんでもっと丁寧に出来ないの?」
「?無理ですよ。だったスイカは戦闘精霊メイドですよ?そんな難しいことできるわけないじゃないです!」
くっ、ちょっと泣きそう。がんばれ私、少しでも早くこの状況を収めて誠心誠意謝るしかない。スイカの責任は呼び出した私の責任でもあるんだから!
「ファイトですよお嬢様!あっ、あっちに若様が何か虫っぽいのと戦ってますよ。おーい!若様!」
「ねえ少しは反省する素振りくらい見せてよ!ちょっと!話聞きなさい!」
勝手に兄の元に走り出す駄メイドを追いかけると兄は既に数匹の鋼蟲を無力化していた。手練れの冒険者でも一匹倒すのにも苦労するはずだけどさすがは私のお兄ちゃん!すべて頭部の付け根を一太刀で落としている。
「え?スイカ?うわぁ・・・確かに火には水だけど、よりによってスイカか・・・うわぁ。」
「なんですか?あからさまにガッカリした顔されるとさすがのスイカも怒りますよ。」
「お兄ちゃん、ごめんなさい。ここまでガッカリメイドだと思わなくて。」
兄は私たちが来た方向をちらっと見るとスイカが起こした惨状を見て顔を引きつらせている。
「やっちゃったものはしょうがない・・・しょうがない。」
諦めたように何度も呟く兄を見て申し訳ない気持ちになる私に対して事を起こした張本人はと言うと別の方向を何故か睨んでいる。
「スイカ?」
「お嬢様、一エイルほど先から大量の虫がこちらに向かってきています。この距離なら迎撃殲滅が可能です、ブッ飛ばしますか?」
「方向は?」
「北からまっすぐこちらにシャカリキになって突撃中。」
彼女の索敵能力は信用出来る、空気中の微量な水分の流れを感知出来るのはさすが水の精霊と感心する。兄も地面に耳を当てて確認している。
「多いな、スイカ出来るか?」
「お任せください若様、あっでもこれやるとお嬢様からガツッリ魔力頂きますので宜しいですか?」
スイカがニコニコした顔で私を見る、嫌な予感しかしない。
「ちなみにだけど私の全魔力が100だとしたらどれ位?」
「90ほど頂きます。お嬢様迷っている暇はありませんよそろそろ目視できる距離にまで来てしまいますよ。さあさあ、スイカお任せくださいよ。」
悪辣な訪問販売人迫られている気分になる、切迫した状況に無茶な要求を突きつけるメイドなんて聞いた事ないんですけど!
「本当に大丈夫なのね?念を押すけど大丈夫よね?」
「もう、心配性なんですから虫の十匹や二十匹軽ーく殲滅して見せますからどーんと魔力下さい。」
覚悟を決めた私は兄の顔を見る、真剣な顔をした兄は私を見て頷いた。深呼吸をしてスイカの背中に手を当てる。彼女との魔力の繋がりを強くイメージする。
「本当に任せたからね!契約者マール・カスミ・ウォードットは魔力の譲渡を認めます。」
体の芯から力が吸い上げられていくのが解る。あっという間に私の中の魔力の殆どがスイカに流れ込んでしまい立っているのも辛くなる。
「お嬢様、感謝いたします。それでは対大軍殲滅術式起動開始いたします。第1シークエンスから第5シークエンスまで並列構築開始、術式砲台完了。次いで拡張式展開索敵開始、ロック完了。魔力弾生成開始、最終段階完了!『超圧縮拡散式水貫砲』発射!」
魔力で生み出された大砲から打ち出された弾丸は放物線を描きながら鋼蟲がいると思われる場所の真上に迫るとその真下に向かって鉄をも貫く豪雨となり降り注ぐ。
「やったの?」
私はよろめきながらスイカの傍に行くと彼女はバツの悪そうな課を押して私を見た。
「申し訳ありません、お嬢様。何匹か撃ち漏らしちゃいました。テヘペロ。」
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