龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第6話ー8

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自分の内側にある得体の知れない魔力の存在を意識したとたん勇吾の顔が急激に青ざめる。その正体が『蚩尤』の霊核から流れ出てくるものだと知って恐ろしくなったのだ。
「勇吾、無闇に恐れる必要はない。『蚩尤』の霊核はすでに純粋な魔力炉としての機能しかない。だが我輩が恐れたのはお前がその力を使いこなす事が出来にまま殺される事だ。」
「あの無茶苦茶な特訓の意味を漸く話してくれるのか?」
師の言葉に少し落ち着いてきた勇吾は深呼吸をして姜を見る。
だがその様子を見ていた月子には分かっていた。彼の体がまだ震えているのを。
「お前の中に宿っている霊核は『蚩尤』その物ではないが暴走すれば『蚩尤』以上の脅威になりえる。仮にお前が殺され霊核を奪われてしまうような事態が起きぬ様に此度急遽この様な強行に至った訳だ。」
「仮の話だけど俺がその霊核を奪われた場合どうなるんだ?」
勇吾の問いかけに対して姜は少しの沈黙の後に口を開く。
「最悪の場合、お前は死にそしてこの地で再びあの戦が起きる。その後に真っ先に狙われるのは誰か分かるか?」
姜の問いに顔を青くする勇吾。答えは分かっている、彼の横にいる少女は仇の孫娘。自分が死ねば月子も殺される。そのシンプルな答えを想像して彼女を見る事が出来ない。
「だが案ずるな。我輩が鍛えたお前がそう易々殺されるほど弱い分けなかろう?しかもお前を狙う輩は人の子に寄生してこの学園に潜り込んでいるのだから力は制限されているだろう、この度の特訓は後々を見据えた事、己が力を自覚し制御できる事に越したことはない。それにしても情けないこの程度の事で震えてしまう様な弟子であったとは。」
姜はあからさまに勇吾を見下ろし肩をすくめる仕草をした。
「はー?別にビビッてねぇし!師匠が真面目ぶって話してるもんだから空気読んだだけ!むしろ師匠想いの弟子だよね!」
その様子にカチンと来たのか立ち上がり姜に詰め寄る勇吾。
明らかに動揺している勇吾に意地の悪そうな顔で言い返す姜。
「そうか~?昔からお前は意気地の無い処が有ったから我輩心配してしまったぞ。では明日からの修行も厳しくするが良いな?」
「余裕だね、何なら今からでも構わないぜ。」
「それは無しだ。もう遅いのでお前たちは部屋に戻りなさい。それと明日の授業で今学期のテスト範囲が終わるのでしっかり授業を受けるように、解散!」
「えー!」
今までの重苦しい空気が嘘のように日常に戻された二人は納得が行かないような顔をして部屋に戻って行った。その様子を眺めている姜は大きく溜息をついた。その後ろに学園長が控えている。
「宜しかったのですか?本当の事をおっしゃらなかった様ですが?」環は目を細め姜の顔を覗きこむ。
「何の事だ?我輩は『今』言える事は全て話したつもりだが。」その視線を避けるように顔を逸らす姜。
「言えなかったとは言わないのですね?兵頭勇吾は『蚩尤』の生まれ変わりであり、霊核に飲み込まれれば『第二の蚩尤』に変成するやも知れぬ。そしてそれを狙っているのが貴方様の元家臣である四凶達であると…」
環の言葉を遮るように彼女を睨み返す姜。
「そんな事はさせん!この身に換えてもそれだけは阻止する。
そなたが我輩を裏切る事は構わないがあの子達は裏切るな。」
そう言うと彼は学園長室を出て行く。彼を見送る環は掠れそうな声で呟く。その言葉が届かないと知っていても。
「たとえ貴方様が望まなくても妾は…」

自室に戻る途中の校舎内で勇吾と月子はお互い無言で姜から聞かされた話を考えていた。自分達が置かれている状況が楽観視出来る状態ではないのは十分理解した。しかしそれ以上に疑問が残る話だった。
「なんか色々腑に落ちないんだよな。まだ隠している事があるんじゃないかな?月子はどう思う?」
「と言われても色々な事が有り過ぎて頭がパンクしそうだから良く分かんない。羌先生があの蚩尤でうちの親戚でお爺様と戦って勇吾君がなぜか蚩尤の霊核を持っていてそれを狙って悪い人がいてその悪い人がうちも狙っていて…あってる?」
「概ね合ってるよ。確かにいきなり聞かされる話としてはかなりの情報量だし重いよな。流石にちょっときついな。」
不意に与えられた事実を反芻しながら師が見せたかつて無いほど真剣な眼差しと自身の内側に確りと脈打つ蚩尤の霊核を感じると言いようのない焦燥感と不安感が礼司を襲い足が竦み体が震えだす。
「またかよクソ!如何しちまったんだよ俺は!」
体は正直で勇吾の無意識の恐怖を代弁していた。手足は熱く痺れ筋肉は強張り一歩も動けなくなっていた。
ままならない自分に苛立ち声を荒げる勇吾の手を優しく握る月子。その手の感触に我に返り彼女を見る。
「そんな風に取り乱す勇吾君うち初めて見た。」
彼女の手の温もりと声を聞いて彼女の方を見ようとするがなぜか視界が滲んで彼女の顔が良く見えない。勇吾は無意識に涙を流していた。
「カッコ悪いよな…怖いんだよ、自分の中に如何すれば良いか分からない化け物が居る事、俺が殺されたら月子を守れない、それどころか俺がもし暴走したら俺自身の手でお前を…」
流れ落ちる涙を自分で拭う事が出来ないほど恐怖を自覚して膝から崩れ落ちる勇吾、そんな彼の首に手を廻し思わず抱きしめる月子。その手は震えながらも勇吾の頭を優しく撫でる。
「大丈夫。勇吾君がそんな事になるなんて有り得ない。」
「そんなの分からない。」
「たとえそうなってもうちがちゃんと正気に戻してあげる。」
「どうやって。」
「いつもと一緒!思いっきりぶっ飛ばしてあげるから。」
「そっか、なら大丈夫だ。」
いつの間にかに勇吾の震えは納まっていた。
護衛対象の少女に慰められ励まされ頭まで撫でられている状況に気恥ずかしさが込み上げて来たがそれ以上に心地よさが合った。もう暫くこうして居たかったが流石に誰かに見られると言い訳出来ないシュチュエーションな事に気が付き立ち上がる。
涙を袖で拭きはにかみながら月子を見る。
「ありがとうな。」
不安も焦燥も恐怖もまだ胸の内で燻っているが彼女の顔を見れば我慢出来る、そう思った勇吾だった。
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