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第8話ー9
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「壱ノ太刀…雷光!!」
勇吾と柾陰、二人の周りの空気が張り詰めていく。まともに喰らえば致命打になりえる一撃に対して勇吾は否応無く神経を研ぎ澄ます。柾陰の呼吸、体のミリ単位の動きにも反応しなくてはならない、出来なければあの神速の一撃を受け立ち上がる事は出来ないだろう。一秒にも満たない無限に思える刹那の中で微かに空気が震えた。
(来る!)
全神経を総動員し最大限まで高められた感覚は柾陰の起す微かな空気の振動を肌で捉え勇吾に危機を知らせる。勇吾が取るべく選択肢は二つ迎撃か回避、しかしこの二つとも非常にリスクが高い。実力、運動能力が拮抗していれば攻撃に対してカウンター迎撃は可能だろう。だがそのどちらも柾陰の方が上である現状では術式での迎撃はあの剣戟速度には間に合わない、では格闘術での迎撃ならばどうだろう。それも勇吾の中では却下した、先程の攻撃で致命打を与えられない事は経験済みであるならばあの鋼のような肉体には彼自身の渾身のカウンター攻撃も届く確立は少ない。良くて相打ち最悪耐えられて手酷い反撃を受け戦闘不能も有り得る。
ならば回避の一択しかなかったが避けた後の追撃がある事を勇吾は知っている。だが避ける事が出来なければ勝つ事も勝つ為の一手を打つ事も出来ない。
(覚悟を決めろ。剣筋を見極めろ。)
柾陰の体が弾丸よりも早く空気を切り裂いて勇吾に辿り着く、その剣閃は音よりも早く勇吾の体を切り裂こうとしていた。だが柾陰にはある予感がしていた、切り倒すはずの後輩が自身の一撃を完全に避ける事が出来ると…その予感は的中した。切上げたはずの木刀には手応えは無く空を切り兵頭勇吾の姿はそこには無かった。予感していたとは言え嬉しい誤算だった。昨年の試合ではこの一撃で彼を倒した、目を掛けている後輩が確実に成長し己の背中に追いつきつつある事が堪らなく嬉しい。そして本気で放つ次の一撃をどう対処するかが楽しみでしょうがなかった。
柾陰の一撃を交差するように避け距離を取り次の一撃に備える。避ける事が出来た、だが完全には見切れなかった。柾陰の放った剣閃は空気を切り裂くと同時に鋭い剣風を生じさせ勇吾の頬と右目の瞼を切り裂いた。瞼から流れる血が視界を塞ぐが回復させる暇など無かった。既に柾陰が追撃の構えを取っている。更に鋭くなるであろう次の一撃に備えるべく一瞬で周囲を見渡し試合会場の現状を把握する。
(この位置ギリギリだけど使える!)
勇吾は魔力を練り上げ術式の発動させる。
『百槍百戈河!!』
柾陰に向かって無数の槍と戈が床を切り裂き波打つ大河の様に襲い掛かる。しかしそれを物ともせず柾陰の一撃は放たれる。
『二ノ太刀 迅雷!!』
切っ先一点に集約された雷の如く鋭い至突は幾重にも覆い被さる刃の波を切り裂き勇吾の眼前に迫るが彼の術式によって威力を殺され十全とは程遠かったがそれでも勇吾に迫り次の太刀を打つには十分な間合いを確保した。
「獲ったぞ兵頭!!」
上段に振り上げられた木刀に柾陰渾身の霊力が集約されて
練り上げられた霊力によって青き雷が木刀に宿る。そして必殺の一撃が振り下ろされる。
『参ノ太刀 雷槌(いかづち)!!』
「悪いけどそれには付き合いません!『千刃剣嵐』」
勇吾が先程放った『剣舞乱陣』を上回る高密度に展開した剣の包囲網が柾陰を囲み降り注ぐ。
これには柾陰も技を中断し防御に徹しざるを得ない。振り下ろしかけた木刀を無理矢理体を捻り上げ上段に構え直し迎撃の姿勢を取ると怒りの形相で吼える。
「此処に至ってなお児戯で俺を馬鹿にするか!!」
「虚仮脅しかは喰らってからにして下さい。これでもガッツリ魔力使った大技なんですから、それにこの術でも柾陰さんを倒せるなんて毛頭無いですよ。」
今までセーブして術式を発動していたがこの術の為に本来の魔力の五割を削った。急速な魔力消費の為に軽い眩暈に襲われるがこのチャンスを逃す訳には行かなかった。
柾陰を覆う剣が間髪要れずに柾陰に降り注ぐも容易く弾かれ致命打は依然与えられない。それもそうだろう千に及ぶ剣の雨の全てはハリボテの剣、しかし例えハリボテでも千本となればそれは脅威になりえるしかも全方位から絶え間無く断続的に狙って来るのだから足を止めるにはこれほど効果的なものは無い。
「此処が俺達の試合の分水嶺。」
勇吾は右手を柾陰に向けると発動している術式に対して再び魔力を通わせる。
「一斉発射!」
勇吾の声と共に無数の剣が柾陰に降り注ぎ轟音と共に土煙を起す。そして土煙の中に一条の稲妻が走るや否や雷を纏った柾陰が飛び出してくる。多少の切り傷を負っただけで今だ健在だった。
「舐める兵頭ぉぉぉ!!」
「言っただろ、飛び道具だけであんたを倒すって!月子!」
迫り来る柾陰の木刀に背を向け柾陰が居る方向とは別の方向に向けて槍を放つ。その先には追いかける様に走り出した香澄千草の姿があった。
「なっ!!」
勇吾と柾陰の間に割り込むように月子がそこに居た。
「『金剄、蒼崩拳!』」
腰を深く落とし最速最短のシンプルかつ無慈悲な一撃が柾陰の腹部を撃ち穿つ。完全に虚を突かれた上に完璧なカウンターを喰らってしまった柾陰の体は吹き飛ばされた。
勇吾と柾陰、二人の周りの空気が張り詰めていく。まともに喰らえば致命打になりえる一撃に対して勇吾は否応無く神経を研ぎ澄ます。柾陰の呼吸、体のミリ単位の動きにも反応しなくてはならない、出来なければあの神速の一撃を受け立ち上がる事は出来ないだろう。一秒にも満たない無限に思える刹那の中で微かに空気が震えた。
(来る!)
全神経を総動員し最大限まで高められた感覚は柾陰の起す微かな空気の振動を肌で捉え勇吾に危機を知らせる。勇吾が取るべく選択肢は二つ迎撃か回避、しかしこの二つとも非常にリスクが高い。実力、運動能力が拮抗していれば攻撃に対してカウンター迎撃は可能だろう。だがそのどちらも柾陰の方が上である現状では術式での迎撃はあの剣戟速度には間に合わない、では格闘術での迎撃ならばどうだろう。それも勇吾の中では却下した、先程の攻撃で致命打を与えられない事は経験済みであるならばあの鋼のような肉体には彼自身の渾身のカウンター攻撃も届く確立は少ない。良くて相打ち最悪耐えられて手酷い反撃を受け戦闘不能も有り得る。
ならば回避の一択しかなかったが避けた後の追撃がある事を勇吾は知っている。だが避ける事が出来なければ勝つ事も勝つ為の一手を打つ事も出来ない。
(覚悟を決めろ。剣筋を見極めろ。)
柾陰の体が弾丸よりも早く空気を切り裂いて勇吾に辿り着く、その剣閃は音よりも早く勇吾の体を切り裂こうとしていた。だが柾陰にはある予感がしていた、切り倒すはずの後輩が自身の一撃を完全に避ける事が出来ると…その予感は的中した。切上げたはずの木刀には手応えは無く空を切り兵頭勇吾の姿はそこには無かった。予感していたとは言え嬉しい誤算だった。昨年の試合ではこの一撃で彼を倒した、目を掛けている後輩が確実に成長し己の背中に追いつきつつある事が堪らなく嬉しい。そして本気で放つ次の一撃をどう対処するかが楽しみでしょうがなかった。
柾陰の一撃を交差するように避け距離を取り次の一撃に備える。避ける事が出来た、だが完全には見切れなかった。柾陰の放った剣閃は空気を切り裂くと同時に鋭い剣風を生じさせ勇吾の頬と右目の瞼を切り裂いた。瞼から流れる血が視界を塞ぐが回復させる暇など無かった。既に柾陰が追撃の構えを取っている。更に鋭くなるであろう次の一撃に備えるべく一瞬で周囲を見渡し試合会場の現状を把握する。
(この位置ギリギリだけど使える!)
勇吾は魔力を練り上げ術式の発動させる。
『百槍百戈河!!』
柾陰に向かって無数の槍と戈が床を切り裂き波打つ大河の様に襲い掛かる。しかしそれを物ともせず柾陰の一撃は放たれる。
『二ノ太刀 迅雷!!』
切っ先一点に集約された雷の如く鋭い至突は幾重にも覆い被さる刃の波を切り裂き勇吾の眼前に迫るが彼の術式によって威力を殺され十全とは程遠かったがそれでも勇吾に迫り次の太刀を打つには十分な間合いを確保した。
「獲ったぞ兵頭!!」
上段に振り上げられた木刀に柾陰渾身の霊力が集約されて
練り上げられた霊力によって青き雷が木刀に宿る。そして必殺の一撃が振り下ろされる。
『参ノ太刀 雷槌(いかづち)!!』
「悪いけどそれには付き合いません!『千刃剣嵐』」
勇吾が先程放った『剣舞乱陣』を上回る高密度に展開した剣の包囲網が柾陰を囲み降り注ぐ。
これには柾陰も技を中断し防御に徹しざるを得ない。振り下ろしかけた木刀を無理矢理体を捻り上げ上段に構え直し迎撃の姿勢を取ると怒りの形相で吼える。
「此処に至ってなお児戯で俺を馬鹿にするか!!」
「虚仮脅しかは喰らってからにして下さい。これでもガッツリ魔力使った大技なんですから、それにこの術でも柾陰さんを倒せるなんて毛頭無いですよ。」
今までセーブして術式を発動していたがこの術の為に本来の魔力の五割を削った。急速な魔力消費の為に軽い眩暈に襲われるがこのチャンスを逃す訳には行かなかった。
柾陰を覆う剣が間髪要れずに柾陰に降り注ぐも容易く弾かれ致命打は依然与えられない。それもそうだろう千に及ぶ剣の雨の全てはハリボテの剣、しかし例えハリボテでも千本となればそれは脅威になりえるしかも全方位から絶え間無く断続的に狙って来るのだから足を止めるにはこれほど効果的なものは無い。
「此処が俺達の試合の分水嶺。」
勇吾は右手を柾陰に向けると発動している術式に対して再び魔力を通わせる。
「一斉発射!」
勇吾の声と共に無数の剣が柾陰に降り注ぎ轟音と共に土煙を起す。そして土煙の中に一条の稲妻が走るや否や雷を纏った柾陰が飛び出してくる。多少の切り傷を負っただけで今だ健在だった。
「舐める兵頭ぉぉぉ!!」
「言っただろ、飛び道具だけであんたを倒すって!月子!」
迫り来る柾陰の木刀に背を向け柾陰が居る方向とは別の方向に向けて槍を放つ。その先には追いかける様に走り出した香澄千草の姿があった。
「なっ!!」
勇吾と柾陰の間に割り込むように月子がそこに居た。
「『金剄、蒼崩拳!』」
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