龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第8話ー15

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 「お上際が悪いよ!うちから逃げられると思ったの?ってあれ?勇吾君?強く叩きすぎた?」
振りぬかれた縦にはべったりと血痕が付着し廊下に無言で倒れている勇吾。凶器は血痕着きの盾、被害者は兵頭勇吾、加害者は白銀月子、今際のきわに彼が残した血文字には『つ』の文字…傍から見れば殺人現場と言われても致し方ない状況だが大変丈夫な主人公なので3分以内に意識を取り戻す。
「本気で殴るの止めろよ!俺じゃないと死ぬからな!」
「勇吾君が逃げるから悪いんでしょ!」
「はぁ~?逃げてねぇし月子から逃げる理由無いだろ?」
「あれだけ逃げておいて、どうしたらそこまで開き直れるかな?で?結局の所観念したの?」
いじましい最後の抵抗をサラリと無視し彼に詰め寄る月子に自ら居住いを正し正座をする勇吾。
 
 「よく聞け月子、いいから聞いてくれださい。確かに俺の取った行動はやや挙動不審だったかもしれないが決して疚しい事ではなくってですね自分でも制御不能な処でありまして
・・・詰まるところ自分でも良く分からないと申し上げますか…という感じで勘弁願えませんでしょうか?」
勇吾は全く持って要点を得ない言い訳を並べる、自分の置かれている状況に苦笑いしか出来ない勇吾であった、窺うように彼女を見上げると腕組し仁王立ちしている月子が無表情ので見下ろしている。
「ほう?で?」
「でっ?でっすか?こっこれ以上お話しすることは無いと思われる所存でありますと言うか…」
恐怖の余り声が上擦る勇吾。
「そう…じゃあ直接あの人に聞きに行けば良いって事かな?
勿論勇吾君も連れて行くけど。」
力強く襟足を掴まれ有無を言わさず引きずられ始めた勇吾。
「止めてぇぇ!もう無理だから!なんでも言う事聞くからそれだけ止めて下さい。」
一瞬なんでも言う事を聞くと言う台詞に心が揺れた足が止まり掛けたがしかし月子の足は止まらない。
「勇吾君!往生際が悪いよ、うちも後には引けないの!」
身体強化を使い自分より大きな勇吾を引きずって行く月子に対し為すがままの勇吾、彼も身体強化を行い本気で抵抗すれば逃げられるかもしれないが逃げた後に追いつかれもっと酷い目に合う事を月子のあの目を見たために容易に想像出来てしまったので心が折れ泣きそうな顔で引きずられていくしかない様だ。

「誰か助けてくださいぃぃ!」
「情けない声出さない!うちが悪者みたいじゃない。」
引きずられて行く最中最後の抵抗なのか虚空に向かって助けを求める勇吾。するとそんな彼の前に人影が見えた。
「私が助けてあげようかしら、ユウ君。」
春風の様な微笑で勇吾を見つめているのは今まさに勇吾が連行される場所に居るはずの千草だった。勇吾の願いは天に届かずむしろ悪い方へ事態が悪化していく。
「な、なんでちぇ姉ちゃんがここに居るんだよ。」
「なんでって、それはユウ君に合いたかったからよ。ああっ可哀想にこんなに窶れて凶暴小娘に酷い事されたのね。お姉ちゃんがギュウとして上げるから。」
千草が勇吾をハグしようとしたその時、物凄い勢いで勇吾を自分の後ろに引っ張る月子。千草と月子の視線が火花を散らす。

「何するんですか?伽島千草先輩。」
「何って分からないかしら?姉が弟に対する極々普通のスキンシップだけど?」
お互い静かな口調だが放たれている闘気は臨戦状態で在りいつ殴り合いが始まってもおかしくないほど剣呑である。
「丁度良かった。『うち』の勇吾君が試合後から様子がおかしくてもしかしたら貴女に何かされたかと思いまして。」
「何の事とかしら?ああでも、姉として女として当たり前の事をしただけよ。大好きなユウ君に大好きと言うのはいけない事かしら?それと何ちゃっかり所有者宣言してくれてるの小娘。」
膨れ上がる闘気がぶつかり合いその周りには途轍もない圧を生み出している。その渦中に絶望顔の無力な男は逃げる事も叶わず唯二人の少女の巻き起こす嵐に耐えるしかない。
「もう一度伺います。何をしたんですか?そんな耳タコになる程度の台詞なら勇吾君がうろたえる筈が無いです。」
「違うわ何時もと違ってち・ゃ・ん、と伝わる様に大好きって言ったの、ふふっ。」
千草が唇自らの唇をなぞる仕草を見てその意味が最初は分からなかった月子だが彼女の自信に満ちたその瞳が見つめる先に居る勇吾を見てハッとし見る見る顔が赤くなる。
「勇吾君!!どういう事!あの人とき、き、き、キスしたとか言わないよね?」
勇吾の顔を両手で鷲掴みし凄い勢いで勇吾に迫る月子。
「したというか・・・されたというか・・・」
月子の額に血管が浮き上がる、勇吾の顔を掴む手にも力が入ってしまっているので彼の頭蓋骨がミシミシと音を立て始める。
「月子さーん!俺の頭割れます!割れるって!」
ゆっくりと千草に向き直る月子、その顔は笑っている様だが頬は引き散っている怒りを我慢しているのでちゃんと笑えていない。
「随分卑怯な真似をするんですね。見損ないました。」
「好きだと言う気持ちを伝えるのならこの方法が一番解り易いでしょ。それにあなたに断る理由は無いわ。」
「時と場所を選ばないのですか!しかもこんな不意打ち見たくずるいと思わないのですか?」
怒り心頭の月子だがそんな彼女を涼しげな眼で見据える千草
「思わないわ。ユウ君は初で鈍感だからこれ位しないと伝わらないでしょ?それと貴女がとやかく言う資格があるのかしら?気持ちを伝えないくせに傍には居たいなんて。ずるいのはどっち?」
「!」
千草の言葉に言葉が詰まる月子、何の事だかさっぱり分からない鈍感が月子に声を掛けてしまう。
「なあ月子、良く分からないけどそろそろ・・・」
「分からないなら黙ってて!それと今はあっちに行ってなさい!」
月子は再び勇吾の襟首を掴むと全力で廊下の先に投げ飛ばす
勇吾はもう訳分からんといった表情で遥か先まで投げ飛ばされていく。
「そうやって逃げて有耶無耶にするなら私が何しようと関係ないでしょ。」
「うちだって!うちだって勇吾君のことが好き!大切な人…初めてなんだもんこんな気持ち。でも!」
スカートの裾を握り締め押し殺した声で自らの感情を吐露する月子。
「でも何?怖いんでしょ。思いを伝えた時にユウ君がどんな表情をするのか見るのが怖いんでしょ。」
本音を見透かされて顔を真っ赤にする月子は更に顔を伏せてしまう。悔しくて泣きそうになるのを唇を嚙締めて我慢している。
「怖くないんですか自分の想いが拒絶される事が!」
「怖くない訳無いじゃない。でもそれ以上に私がユウ君を想う気持ちが上回っている。たとえ今は振り向いてくれなくてもいつかは振り向かせるだけよ。」

 強く凛とした千草の想いを知った月子は打ちのめされる。
一度手を合わせた月子だから千草の言葉が本気である事が解る。思いを貫く強さと自信が彼女には有り自分には足りていない、その事が勇吾への想いが彼女より負けていると思ってしまう事が何よりも悔しかった。
「怖いままならじっとしてれば良いわ。ユウ君の隣に居るのが貴女じゃなく私になるだけだから。」
何も言葉を返せず俯き震える月子を一瞥し千草は踵を返し月子から離れていく。
「私、この本戦が終わったらまたユウ君に告白するわ。今度は真正面から。貴女はどうするのかしらね?」
誰も居なくなった廊下でとうとう堪え切れず大粒の涙を流す月子。様々な感情が押し寄せる、悔しさ、悲しさ、そしてある意味の恐怖が彼女の華奢な体を震え上がらせる。足に力が入らなくなり膝から崩れ落ちる。胸が締め付けられて苦しくて床にへたり込む。何度も何度も千草の言葉が頭に響く。
「やだ、やだよ。」
流れ落ちる涙を止めることが出来ず力無く呟く事しか出来ない。勇吾が自分の隣から居なくなるそんなネガティブな想像ばかりが頭を駆け巡る。
「やだよ、勇吾君。」
「月子!?なにがっあった・・・部屋に戻るぞ。」
「…勇吾君?」
戻って来た勇吾が見たのは蹲り震えている月子の姿。駆け寄るとそこには泣き腫らした月子の顔を見た。その瞬間今にも壊れてしまいそうな彼女を見て何も言えなくなり何も聞かずに抱き上げる。月子も抱き上げられても抵抗せず素直に従うそれほど心が疲弊してしまっていた。

 自室への帰り道、勇吾は人目を避けながら歩いている。
あれから一言も話さないままじっとしている月子を両手に抱かかえたまま勇吾も口を開くことは無かった。彼も何故泣いていたのか?千草と何が合ったのか知りたかったが二人の話に自分が首を突っ込んでも良いのだろうか?それ以上に月子の泣き顔を見た時に彼女が泣くような状況に自分が傍にいない事に酷く後悔し自己嫌悪していた。
一方月子も彼に抱かかえられている事への複雑な感情に苛まれていた。勇吾が傍にいてくれる幸福と安堵しかしそれに甘えている自分自身への嫌悪と弱さそして再び聞えてくる千草の言葉。

 勇吾はこのまま女子寮の入り口に彼女を下ろすだけでは心配になり御行符を使って気配と姿を消しながら月子の自室の前まで侵入すると静かに扉を開け中に入る。まだ少し震えている彼女を下ろす事をためらっていると月子はか細い声で勇吾に降ろして欲しいと言ってきた。
「ありがと、それとごめんね。」
俯いたまま勇吾の顔を見ようとしない月子。
「謝るなよ。・・・なあ月子、」
勇吾は月子の肩に触れようとするがそれを遮るように笑顔で勇吾の言葉を振り切る。
「ごめんね、少し疲れちゃったからこのまま寝るね。」
彼女の精一杯の笑顔だったのだろうが勇吾には痛々しいくらいの痩せ我慢にしか見えなかった。解ってしまったからこそそれ以上は何も言えなかった。
「…分かった。オヤスミ月子、また明日な。」
「うん、また…明日。」
後ろ髪を引かれる思いだったが今はそっとして置くべきだと自分に言い聞かせ自室に繋がっているドアから月子の部屋を後にする。

 出て行く勇吾の後姿を見送るとふらつく足取りで浴室に向かう、制服を脱ぎシャワーのコックを捻ると熱いお湯と湯気が彼女を包む。鏡に映る泣き腫らした自分の顔を見て情けない気持ちになり再び涙が流れる。シャワーの音が彼女の嗚咽をかき消してくれた。

 月子の部屋を後にした勇吾だがそんな彼の胸には言いようの無い苛立ちが湧き上がっていた。本当は月子をあのまま独りにしたくないのに月子の言葉を言い訳に引き下がった自分に苛立ったいた、今から戻って彼女の傍に居てあげたいと思っているのにそれが出来ない自分の意気地の無さに苛立っていた。目まぐるしい一日だった、思いも拠らない事が多過ぎた一日だった。千草からの告白とも思えるキス、泣き腫らした月子の顔、そんな月子を慰める事が出来ない情けない自分。そして月子を異性として意識しているのにそれはいけない事だと戒めようとしている自分。
心身共に疲れきっているのに今日の出来事が頭の中をグルグルと廻り始め眠る事を赦してくれない。
「はぁ~、どうしたらいいんだ。」
深い溜息を吐いて天井をボーっと見上げて居ると足元から声が掛かる。
「どうした?今にも死にそうな顔にも見えるぞ。」
そこには久しぶりに勇吾の部屋に戻って来た勇吾の師であり古代の戦神『蚩尤』であった姜臨魁が小さなサイズのまま勇吾を見上げていた。
「師匠、お帰り…」
覇気の無い勇吾の様子を見てすぐさま彼の肩に飛び移る。
「勇吾、少し外を散歩しよう。」
「師匠、あの俺…」
俯きながら話し出そうとする勇吾を宥める姜師匠。
「直ぐに話さんでも良い。追々ゆっくり聞かせてくれ。」
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