龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第8話-16

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「なるほどな。青春しているようで結構ではないか。」
夕暮れが迫る学園の外れまで学園の外周に備えられている壁沿いに歩き続けて人気が全く無くなった専門研修練の外れの外れで俺と師匠は温くなってしまったペットボトルのお茶を分け合いながら座っている。今日の出来事を5キロ近く歩きながら紆余曲折しながら何とか全て話しきる事が出来た。
俺にとって衝撃的な出来事の数々を青春の一言で片付け無いで欲しい。
「確かに、お前にとっては大変な出来事過ぎたのだろうよ、 大変すぎて持て余すほどにな。」
ペットボトルのキャップを器代わりにして器用に飲み干す師匠、話を聞いてもらい多少気が楽になった気がするが自分の不甲斐無さを改めて自己確認しただけで何も解決していない事に気が付き溜息が出てしまう。
「ちなみにだけどさ、師匠ならこんな状況どうする?あくまでも参考として聞いてみたいんだ。俺なんかより師匠の方が人生経験豊富だろ?」
数々の修羅場を潜り抜け神話に残るほどの師匠なら何か得る話を聞けるのではないかと期待して聞いてみたが返ってきた言葉は予想外なものだった。
「今のお前の状況に照らし合わせられる様な事は我輩の人生で一切無かったから参考にならんぞ。」
「波乱万丈すぎる人生を送ってきた師匠がこの手の話が一つも無いなんて嘘だろ?」
 
 師匠の話を要約するなら神話の時代のしかも王族だった師匠には自由恋愛という概念すらなく、気が付いた時には奥さんが既に十人近く居たらしい。師匠曰く『我輩の妻たちは皆中が良かったからそれ相応に良い夫であった気がするな。』
だそうだが・・・確かにこれだと師匠に話は全く参考にならない、聞いてもらって置いてなんだが相談する相手を間違えたかもしれない。
「その手の相談事には哥哥には無縁と言うより無駄であろう よ。正妻側室が何人も居たのに本人は剣を振るう方がお好 きな方であるからな。奥方達がよく嘆いていらした。」
空間が歪んだ先から学園長が口元を隠しながら俺と師匠の前に姿を現した。今聞いた話が本当ならやはり2千年以上前の記憶は当てにならないなと心から思う。本人はそう勘違いしているけど他から見れば全く違う事だったというのが如実に出た。
「夫人達がその様な事を申している筈が無い・・・無い?」
師匠は学園長に言われたことが何処か思う処が在ったらしく急に歯切れが悪くなった。眉間に皺を寄せながら思い出しているみたいなのでそっとしておく。
「その手の相談事は妾が適任であろう?」
得意げな顔をしているけどこの人が関わったその手の話って全部酷い話で終わる気がしたんだけど。藁にも縋る思い…藁なら良いけどバラの枝とかだったら大怪我しそうだ。
「適任かどうかは疑問ですが師匠よりマシな気がします。」
「引っ掛かる言い方だのう。まあ良いか、どうだ小僧、予行 練習でもしておくか?この手の事に耐性が無さ過ぎるのも 考え物であろうよ、万事何事も経験よ!見ておれ。シャン シャンパッ!」
予行練習という言葉に嫌な予感を感じつつもわざわざ来てくれたのを無碍にする事も出来ない。それが十中八九からかいに来たとしても師匠に対するストカー行為だとしても・・・
っと言うかシャンシャンパッてなんだよ!ピンク色の煙が学園長を包む、妙にメルヘン名雰囲気にも見えるがこの人が出す煙だと毒かもしれないとつい警戒してしまう。一応の警戒をしつつ煙が晴れるのを待っているとそこには今最も顔をあわせずらい人の一人が立っていた。
「ユウ君、どうしたのそんな顔して私の姿変かな?」
「なにしてくれてんだあんたはぁぁぁ!!」
自分でも驚くほど声が出た。そこに居たのは学園長ではなくちぃ姉ちゃんだった。薄々感じていた学園長の性格の悪さ、いや性格の極悪さをなんでこのタイミングでこう言う事するんだ!
「香澄の所の娘は中々いい乳に育っているではないか。妾程 ではないがなっ!ん?何を呆けておる小僧。妾だ妾!この 程度の変化も見破れんのか?」
「正直見抜ける自身はありません。さすがは学園長です。  ですのでいい加減にその姿でそういう事するの止めて下さ い。」
学園長からすれば自分の胸を触っているだけだろうがちぃ姉ちゃんの姿でそう言う事されるのは眼のやり場が無くて困ってしまう。
「初心ぃのう。この胸も体もお前が望めば好きに出来るのだ というのに。」
「その姿でそんな事言わないで下さい。第一ちぃねえ…」
 
 気が付けばちぃ姉の顔がおれの真近に迫っていた、目と目が合った瞬間体が動かなくなる。
「ねぇユウ君、私の事嫌い?」
「嫌いな訳無いだろ・・・」
体に力が入らないちぃ姉の声と臭いで頭がボーっとする。そのまま地面に押し倒されちぃ姉が俺に馬乗りになり見下ろしている。重いとは思わなかった、むしろ心地良く思えたがちぃ姉の顔を見るとなぜか胸が苦しい。
「ユウ君、私はユウ君の事が大好きよ。私の全てを捧げても 構わない。ねぇユウ君は私の事どうしたい?」
「俺は・・・」
この声に感触に全て委ねてしまえば良い、そう思えば思うほど胸がじくじくと痛み出す。ちぃ姉が俺なんかを好きと言ってくれた事に嬉しくもあり戸惑ってもいる。ただの好きではない事だって分かってる、今でもあの唇の感触が残っている気がする。潤んだ瞳と唇を見詰ると受け入れししまえば良いと鼓動が跳ね上がるがそれ以上にもっと大事なものを取りこぼしてしまう気がした。耳の奥で小さな声が聞こえた。
消え去りそうな声で俺の名を呼んだ。その声は・・・
「ちぃ姉、俺は・・・」


 時と場所を移して夕日も落ち夕食を済ませた学生達で疎らになった食堂のテラス席に香澄千草は一人で風に吹かれている。食堂から洩れる光が愁いを帯びた彼女の顔に影をさしている。試合中に勇吾にしてしまった事に対して今更ながら後悔と反省だけど会心の一撃だったはずと自分を褒めている。
丁度夕食を取り終えたのだろうか高等部一年生の女生徒数名が千草を見かけるとその姿に溜息を吐く。
「千草お姉様、あのような物悲しいお顔で何をお考えになっているのかしら・・・」
「きっと今日の試合の事でしょうね。兵頭君との対決にはきっと私達には分からない思いがあったのでしょう。」
「そうね。兵頭さんとは本当の御姉弟の様に仲が良いと聞き及んでいますわ。試合の結果は残念でしたけど兵頭さんの成長を喜んでいるのではないかしら?ほら少し微笑んでるようにも見えますわ。」
「本当だわ!愁いを帯びたお姉様も美しいけど微笑むお姉様も美しいわ!ああっ、ずっと見て居たいけど今日の試合のダイジェストが始めるわ、部屋に戻って録画しないと。」
「あっ、まってちゃんとBDで撮って下さいまし。」

女子生徒たちの黄色い声が遠くになって行くが本人には全く聞えていないようである。7月の暑さは夜になると少し収まり千草の頬を夜風が撫でる。その風と共に懐かしい声が聞こえた。
「今日の試合残念だったな。でもまあ、悪くなかった。」
「お久しぶりです、礼司師匠。学園で会うのは初めてですよ ね。またそうやって歩きながらお酒を飲まれていると十子 師匠に怒られますよ。」
礼司は缶ビール片手に千草が座る席の向かい側に腰を下ろすと不満そうな顔をする。
「なんだよ、お前までトコちゃんに告げ口する気か?それと 師匠は止めろ。俺はお前を弟子にしたつもりは無いし何も 教えたつもりも無い。」
先日飲酒しながら観戦していたのを勇吾から十子へ報告が行った事で彼女からこっぴどく怒られたはずだったが余り懲りていないようだ。
「この力の制御の仕方を教えて頂きました。師事するのと同 じだと思っています。」
「教えた内に入るかよ。あの手の力は自分自身の業と向き合 う事でしか折り合いが付けられねぇ。結局の所自分のそれ を受け入れられるかどうかだしな。それに、それが出来た のもあの馬鹿が毎日毎日飽きもせずお前の所に通ったから だろ?」
礼司の言葉を受けて千草は瞳を閉じる。
今でも鮮明に思い出すことが出来た。
勇吾の首を絞め殺しかけたあの日の事。
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