龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第4話ー4 Bパート

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ー勇吾が部屋出て三光院輝兼の部屋に向かった後白銀月子は自室の惨状に大きな溜息を吐いていた。実家を出る時に自身の荷物は最小限に詰めた物をダンボール2つほどに纏めたはずだったが何故か今彼女の部屋にあるダンボールの数は10個を越していた。10畳ほどの広い部屋がダンボールで占領されている。更に彼女にとって困惑する事は実家の自室で使っていた家具一式が送られてきた事である。
「姉様…やりすぎです。」
小さく溜息を吐きながら手付かずのダンボールを開けて行こうとするとダンボールの表に差出人が書かれている伝票に見つけるとそこには彼女の姉の名前と祖父の名前それに武術の師である叔父の名が別々のダンボールに張られていた。つまり三者三様に彼女を想い彼女が新たな生活で困らぬようにと荷物に詰めて送ったのだろう。それを悟った彼女は目頭が潤み少しだけホームシックを感じた。しかし、祖父と叔父のダンボールを空けるとほぼ同じ物が入っている事に困惑する。生活用品の他に大量の缶詰とそして何故か暗器がダンボールの底にある。缶詰は分かるがなぜ暗器?彼女は困惑した。そしてそれが後数個入っていると思われるダンボールを見てまた溜息を吐く。片す気力を少しずつ削られていく彼女は今度は姉が送ってくれたダンボールを開けると真新しい服や下着が入っており姉らしい内容のモノだった事にほっと胸をなでおろす。他にも乾燥させてある食品が袋に入っておりよく見れば干しアワビやフカひれ等の高級食材ばかりだったが彼女はその事に対してはあまり気にも留めていない。月子にとっては日常的な食材なのだろう。
「こんなに沢山送って貰えるとちょっと困るけど嬉しいな。」
彼女は実家から送られてきたテーブルの上に置いてある昼間勇吾に買ってもらった携帯電話で時刻を確認する。時刻は8時を回ろうとしていた。
「ちょっとだけ休憩してお礼の手紙書こう。」
実家から出る前に姉から持たせてもらった便箋を鞄から取り出し荷物を送ってくれた3人へのお礼状を書き始めた。送ってくれた事への感謝の言葉とコチラ側の様子や今日起きた出来事と始めて出来た友人達とそして彼の事を書いている内に瞼が重くなりいつの間にか眠りに落ちてしまった。
その寝顔は幸せに満ちている。

 何に対して俺はイラつき憂鬱になっているのか判別出来ないまま自分の部屋の前まで戻ってきてしまった。どこかで頭を冷やせば良かったのにあいつに言われた言葉が妙に癪に触りそれさえも思い浮かばなかった。少し息を吐き気持ちを整える。部屋には居ると隣からは物音がせず静かだったので月子の様子を見る前に軽くシャワーを浴びる事にした。
シャワーを終えて寝巻きに着替えてるとさっぱりしたのか少しだけ気持ちが楽になっていた。あれこれ考えるのはまた明日からにして今日は月子の荷物を手伝おう。俺はドアをノックすると月子に声を掛ける。
「戻ったけど荷物の整理は進んでますか?おーい、月子さん。」
返事が無い、普通返事が無いのに人の部屋にはいるのはマナー違反だろうがもし仮に非常状況だったとしたらこれは正当な理由になるのではないだろうか?いや、学園長の結界内にあるこの寮の中で何か起こる事はほぼほぼ無いが万が一があるかも知れないと俺は自分に言い聞かせ月子の部屋に入る。
「月子、入るぞ…これはあくまでもお前の無事を確認することであって決して悪意等がある訳じゃないからな。」
と弁解しながら部屋には居るとテーブルにもたれ掛かって寝落ちしている月子が居た。疲れて寝てしまったのだろう、彼女の肘からの下には便箋が挟まっているもしかすると手紙でも書いていたのかもしれない。しかし、
部屋がまったく片付いていないじゃないか。
「あー、さっきより酷くなってないか?」
開けっ放しのダンボールからは色々なものが見え隠れする、見ちゃ不味いけどこのままにしておくのも不味いよな。俺は少し考えてから寝息を立てている月子を見て片す事に決めた。
テーブルで寝てしまっている月子を起こさない様に抱き上げるとベットに運び布団をかけてあげる。よく寝ているようで起きる気配がなかった。
「今日は色々あって疲れちゃったよな。」
可愛らしい寝顔を見てから俺は彼女が起きないように静かに片し始めた。
殆どのダンボールに何故か暗器が入っている事に旋律を覚えると同時によく配達して貰えたなと感心する途中で送り状の伝票が目に入る。
「これは?」
伝票は国外から国内に向けてのモノだったがそれだけじゃなかった。
更に特殊な伝票に俺は彼女の出身地に驚いた。彼女は此方の世界ではなく
アチラ側の世界から来たと言う事に驚きはしたが納得もすぐ出来た。そして送り主の名前で彼女が本来ならコチラの世界に居てはいけない人物だとも分かってしまった。『白銀月子』宛に送られた『黄帝鴻』からの送り状で俺は全てを理解した。その名前に聞き覚えがあったからである。
「月子、君はお姫様だったんだな。」
そう、彼女はアチラ側の世界の半分を支配する龍神『黄龍』の一族だという事、それなら礼司兄や師匠が言葉にする事を憚る気持ちが分かる。
そしてあの学園長を知っている人物は勿論『黄帝鴻』、黄龍帝本人だろう。それなら色々と納得いく部分がある。それなら尚更俺なんかに月子を守らせようとする?彼女に何かあったら世界間の外交問題に発展するの。
それに何故月子はコチラ側のこの学園に来た?
新たに浮かび上がった疑問と何故か妙に俺の心をざわつかせる『黄帝鴻』
の名前、余計な事を知ってしまったと頭を悩ませる結果になってしまったがふと月子の寝顔を思い出して悩むのを止めた。
「そうだよ、月子を守る事に変わりはないだろ。」
守りたいと何故か俺の心の奥でそれだけは揺るがない物になっている。
月子が黄龍帝のお姫様だろうが関係ない、俺が守ると決めたから守るだけだ。そう思い始めたら心が軽くなった。
「よし、さっさと片すとするか。」
止まっていた作業が妙に進んだ。

ー「あれ?うち寝ちゃったの?いつの間にベットに入ったのかな?」
彼女が目を擦りながらベットから立ち上がると片付けの途中だった部屋が綺麗になっている事にまだ瞼が開け切れない目を擦りながら気が付くまで数秒のタイムラグがあり気が付くと同時に一気に目が覚める。
見渡せばアレだけ有ったダンボールは姿を消し綺麗に畳まれて紐で括ってある。クローゼットの中には服と制服が掛けられており見知らぬ収納ボックスには下着や靴下が綺麗に畳まれて入っていた。混乱する彼女が様々な考察でこの状況を整理している内にもっとも彼女にとって最悪な事実に辿り着く事になる。恐る恐る隣の同居人のが居る部屋のドアを叩く。
「お、おはようございます。あのね、勇吾君まさかと思うけど…」
友人であり同室の兵頭勇吾は眠そうに欠伸をしている。
「おはよう、よく眠れたか?あんな所で寝ちゃ駄目だろ、それと部屋綺麗になってただろ、がんばっちゃったよ!」
「何てことするのよ馬鹿!!」
彼女の怒号と共に学園での新生活が始まる。
「何でそんなに常識がないの!」
「片したのに怒られるなんて聞いた事ないぞ!」
「し、下着とか見られて怒らない女の子が居るわけないでしょ!!」
この他愛も無い喧嘩が彼女、白銀月子と彼女を守る兵頭勇吾の日常になっていく。
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