龍帝皇女の護衛役

右島 芒

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第5話ー1

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今朝の一件から一言も口を聞いてくれない月子を二階席から監視しつつもどうしたものかと頭を悩ませて居ると壇上の学園長が思いも寄らない話を切り出してきた。 
「今年度から新たな試みとして中等部、高等部と分けていた実技演習を合同にし上位生徒による選抜戦を行う事になった。」
壇上の学園長は講堂内のどよめく生徒達を見下ろしながら話を続ける。
「我が御幸ヶ原学園と共に日本各地で術者育成の機関の幹部会会合での折に武官育成の各学園でも進捗状況が芳しくないとの報告を受けた。」

この国で認定される術者の公的な資格として3つある。ひとつは特技文官これは術者が用いるアチラ側の知識をフル活用してアチラ側との交渉や貿易などに携わる職業で主に外務省や経済省に重宝される。2つ目に特技技官は主にアチラ側から流失した呪具や秘法それに伴う犯罪への対応など様々な面で捜査機関からお呼びが掛かる。この二つは比較的安定した職場であり危険度も高くない。そして3つ目の特技武官は同じ特技官の枠の中でも極めて危険な任務に就く事が多い。アチラ側から来たアウトロー達の鎮圧や要人の警護。かく言う俺も現在要人警護真っ最中である。
その為か術者の家の者なら妖怪や化け物の退治はお手の物だと思うが実は殆どがインドアであり引き篭もり体質な事が殆どである。
一般的な術者の基本はあくまでも術の研鑽や始祖から続く最終目標への到達が基本姿勢な為わざわざ学園を出たのに自ら危険な事をするのは有り得ない事らしい。曲がり間違ってその家の嫡男が帰らぬ人になってしまえば今まで続いていた血脈を絶やす事に他ならないからだろう。
故に特技武官になりたがる術者は概ね居ない。俺や礼司兄はかなり稀な存在らしい。全体の割合を見ると武官の割合は1割以下が現状だ。
「本来ならば君達術者は知識と技術を持って今の世に貢献するべきなのだろうが世界は未だに犯罪や凶事に溢れている。これに対応できる人材の確保が強く要望されているのが現実だ。そこで本来は基礎能力の向上として実施して来た実技演習は継続し続けるがその上で実戦演習を新設しそこで行われる試合に関しての勝敗は成績に反映される。先程も言ったが上位の生徒はそれ相応に優遇させてもらう。そしてその上位生徒達は年度末に行われる各学園からの上位生徒達との交流戦への出場もしてもらう。以上!」

一方的な宣言をして壇上から姿を消す学園長に再び講堂内はどよめいている。それは生徒達だけではなく教官や講師達も同じ様に見えた。
その後入学式は恙無く終わり生徒達は講堂を後にしていく、俺は月子の元に行き声を掛ける。
「月子、さっきの学園長の話どう思う?」
「うちはいいと思うよ…って勇吾君は話しかけないで下さい!」
まだ怒ってらっしゃる。
「俺が悪かったから機嫌直してくれよ。」
「…」
くっ、出た無視!こうなるとどうしたら良いのか対処に困る。月子と着かず離れずの距離で歩いていると俺の携帯電話が鳴る。画面を見ると学園長からだった。
『何だ面白い事になっておるな。』
「一つも面白くないですよ。」
『早々に喧嘩とは先が思いやられるな。どれ妾が一つ助け舟を出してやろう今日は授業はせんのだから教室での挨拶が済み次第妾の部屋に二人で来い。なーに悪い様にはせんよ。』
嘘だ、嫌な予感しかしない。絶対俺の苦境を楽しんでいるだけだ。しかしこの状況も精神的に苦痛だったので藁にも縋ってしまいたくなる。
「分かりました。…本当に助けてくれるんですね?」
『よいよい、任せるが良い。』
一抹の不安を抱えながら教室に向かう。着いた先の教室には既に数名の生徒が既に席に着いていた。ここが今日から一年間お世話になる教室になる。俺と月子を含めて10人ほどのクラスだ。中等部の頃は30人ほどで一クラスだったが高等部では更に細分化される。能力や成績で分けられるらしいがその詳細は俺も知らない。座席はかなり余っているようだったので何処に座るのも自由なのだろうけど月子は緊張しているのか入り口で立ち止まってしまっていた。ちなみに月子も俺と同じクラスになったのは学園長の采配だろう。俺は月子の頭に手を置き声を掛ける。
「とりあえず好きな所に座ろうぜ。なーに、後は自己紹介して終わりだから気楽にしてなよ。」
月子の頭を撫でながら言うと月子は少し驚いた顔をした後顔を赤くして怒ってきた。
「子ども扱いしないでよ!それに、うちはまだ怒ってるんだから!いーだ!」
可愛らしい威嚇をしながら俺の手を払いのけて空いている席に座って何故か机に顔を伏せている。俺も月子の後ろの席に座り担当の講師が来るのを待った。数分後クラスに現れたのはなんと礼司兄だった。
「おし、ガキ共!今日から俺がお前達の担当だ。」
クラスの皆がざわついていた。何故ならこの人は術者社会ではかなりの有名人だからだ。特技武官として数々の事件を解決し日本で5本の指に入る武闘派術師である。そして学園の生徒内ではある種の恐怖の対象でもある。特技武官で忙しく仕事をする傍ら非常勤教官として実技演習を担当する時には鬼のような指導で恐れられている。正直指導じゃなくて忙しすぎて家に帰れないストレスを発散しに来ているだけにも見えたが言わないのが花だと黙っている。
「あのババアが今朝言ってた通りだ実技演習に参加する奴は俺がみっちりしごいてやる。楽しみにしてろ!」
この学園内であの学園長を相手に真正面から悪態を付けるのはこの人くらいなものだという事実が更に神代礼司という人物に畏怖の念を集める結果になっている。他の生徒を一人一人検分するかのの様に教室を練り歩くと俺と月子の入る席にもついに来た。
「ゆ~ご~、兄ちゃんが今日から先生だぞ~。」
「公私混同は止めてください、神代せ・ん・せ・い!」
「でた~猫被り、それいつまで続けるの?」
礼司兄はニヤニヤしながら俺の頭をガシガシと撫でる。礼司兄がこんな態度で俺に接するから俺が礼司兄の義弟という事は学園内では良く知られている、その所為で俺が学生の身でありながら特技武官になれたのも礼司兄の七光りだと陰口を叩かれた。俺がどうこう言われるのは構わないが礼司兄が不当に貶められるのは我慢できなかった。だから俺は資格に見合う成績と立ち振る舞いを心がけてきたがこういう事されると立つ瀬が無い。
「それと君が白銀月子か思いの他小柄だな小学生かと思ったぞ。」
「神代先生?それは女性に対して余りにも無礼ではないですか?」
…月子の肩が震えている、血が繋がってなくても俺たち兄弟なんだなと思うくらい同じポイントで月子の逆鱗に触れる。
「そうか?俺の奥さんの十子ちゃんなんて中学校に上がる前は君と同じくらいだったぞ、今では俺が言うのも何だけどでもあえて言う!まるでモデルの様に美人で町内会の男共がいやらしい目で見るのを何度潰してやろうかと思ったほどだがな!」
もうやめて!家族の惚気話ほど恥ずかしいモノは無い。嬉々として十子姉さんの話をする礼司兄を怒りを忘れポカーンとした顔で見る月子に気が付くと礼司兄は我に返っり咳払いをした。
「つまり、君も直ぐに背が伸びるという事だ。良く寝、良く遊びよく食べろ!俺もそうやって勇吾を育てたらほれ見ろ、無駄にニョキニョキ大きくなりやがって。」
 確かに俺も中等部に入学する位に一気に背が伸びたから月子もまだ伸びる事もあるのかもしれないがそんな気休めに月子が納得するとはとても思わないが。
「ですよね!私もそう思っていました。」
…納得してる。月子としては小学生に見られるのは屈辱なのだろうから身長が伸びない事にコンプレックスを感じていたんだろうけど礼司兄の言葉を真に受けるなよ。
「来年にはもしかすると150センチ位になってるかも!」
目をキラキラさせている、さっきまでの怒りはもう何処かへ行ってしまったようだ。言葉でのフォローって大事だなっとつくづく思う。
俺が素直に感心していると礼司兄は俺に小声で話しかけてきた。
「女の子はちょっとした事で傷ついたり怒ったりするからなお前は気をつけろ。」
「礼司兄のこう言う所凄いよな、伊達に十子姉さんの旦那だよね。」
「俺も十子と付き合う前はしょっちゅう喧嘩しては酷い目にあったからな女の子は怖いぞ、…本当に怖いぞ。」
礼司兄の眼が本気で言っている、相当怖い目にあったのだろうと容易に想像が出来た。俺も気をつけないと。

礼司兄がクラスを一周すると教壇の前で明日からの予定などを話して今日は解散になった。さて、月子に学園長の所にまた行く事を告げねばならないのだけどご機嫌の程はどうだろうか?
「月子、この後ちょっと付き合って欲しいだけど良いかな?」
「…別に良いけど、でも勇吾君にはまだ怒ってるんだからね。」
そう言いながらも刺々しさは感じないのでワリと機嫌も回復しているような気がする、胸を撫で下ろしつつ学園長に呼び出された事を告げると「何の用があるのかな?」と首を傾げている。まあ確かに二日続けて呼び出される理由が早々無いだろう、実のところが俺と月子の様子が面白いから茶々入れさせろとは知っていても言えなかった。俺としても月子の機嫌が直って来ているので行く理由無いんだけどな…すげー嫌な予感がするしな…
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