上 下
187 / 262
7章 次への引き継ぎと暗躍の者達

188 故障しそうな交渉

しおりを挟む
 私が和平交渉を諦めようかと思い始めた。

『アリス姉ちゃん、外交っていうのは交渉だよ。
 だから交渉次第で減額させることも可能なはずなんだ。』


「少なく出来るの?
 でもそれでも莫大な額になるでしょ。」

『そうだけど、それに関しても対処する方法はあるよ。
 まず魔領には魔晶石が沢山あるよね。』

「魔晶石?
 あんなものいくらでも採れるわよ。
 魔力を含んだただの石ころなんだから。」

『帝国では純度の高い魔晶石は、金に匹敵する価値があるんだよ。』

「そうなの?」

『魔領では石ころでも、人間の国では高く売れるんだ。
 これを交渉に使えば意外に安く済むかも知れない。』

「なるほど。
 魔晶石で済むなら安いものだわ。」

 さすが賢者の杖の賢者。
 希望が見えてきた。

『それに途中の街で魔道具を見かけたんだけど、あれも使えるかも知れない。』

「魔道具?
 そこら中にあるけど何に使えるの?」

『人間の国では魔道具はすごい価値を持つんだよ。
 魔領で使われている日用品を向こうに持ち込んだだけで、何年か遊んで暮らせるぐらい。』

「へえ、そういうものなの?」

『最終的に魔晶石や魔道具の輸出なんかも加えれば、有利な条件で交渉できると思う。
 その他にも調べてみればもっと出てくるかも知れない。』

 寝るときには賢者の杖には足を向けられないと思った。

 そして方針は決まり、使者に場所と時期の希望を伝える。
 使者は一瞬気の抜けたような表情をしたが、すぐに我に返ったようだ。
 そして一目散に帝国に戻っていった。

 予定通りいけば、私は一ヶ月後に帝国へ出発することになる。
 その間に内政の基盤を少しでも固めておかなければならない。

 そんな時、また新たな報告が入る。
 魔領と帝国の間にあった闇の亀裂が突然収束した。
 今までは空間のゆがみが生じて、近寄るのも危険な状況だった。
 それが突然ただの巨大な穴になったというのだ。

「彼の使った闇魔法はどういうものだったの?」

 私はルディンに聞いた。

『あの魔法については禁呪指定されているから、使い方は説明できないよ。
 それにオキス兄ちゃんも、あんな強力な魔法だと思って使ったわけじゃないんだ。
 だからどういう魔法だったのか、僕にも分からない。
 理解しているのはギスケだけだと思う。』

「魔神ギスケはあの魔法が使えるの?」

『無理だと言っていたよ。
 あの魔法だけは真似できないらしい。
 魔法の影響が消えた理由も、時間の経過で収まったのかそれ以外の理由があるのかは僕には分からない。』

「ギスケに聞けば分かるのかしら?」

『その可能性はあると思う。』

 ならば帝国に行ったときに話を聞けば良いだろう。








 価値が無いと思っていたものに無双の価値があるらしい。
しおりを挟む

処理中です...