悪役令嬢とドラゴン王子

杏仁豆腐

文字の大きさ
5 / 34
第2章 拘束

1

しおりを挟む
「あの、わたくし実はアルバーニ国に向かう途中でした。その国の王子様と婚約していてもしかすると……助けてくれるかと思い…しかし、もう既にヨ―ルリアン帝国の誰かが私の事を伝えているのかもしれません。そうなればわたくしにはもう帰る場所が無いのです……」

私は両手を胸の前で組みルクを上目遣いで見つめた。
ルクは私の事を見ると少し恥ずかしそうな表情で顔を赤らめて視線を反らして話をする。


「そ、そうか。それは困ったことだな。では私と共に旅をするか。それがいい、うん、それがいい」
「はい……ルク様」


私はそのまま目の前にいるルクを抱きしめた。
この人の匂い…まるでお母様と同じ匂いがして凄く落ち着く。
私が抱きつくと驚いてルクが慌てて声を裏返した。


「おいっ! 抱き着くなっ!! び、びっくりするだろう」
「ふふふ、すみません。でもこうしてると落ち着くのです。ルク様の匂いがとても……」
「に、匂いを嗅ぐな……臭いだろう……」
「いえ、そんなことは……わたくしにはとても懐かしい匂いがするのです」


そ、そうなのか? と言いながら頭を掻きながら照れるルク。
なんだかルクの事を考えるとおかしくて笑ってしまう。この人はドラゴン。
だけどどの人間よりも人間らしい表現をする人だ、と私は思った。
暗い洞窟の中男女が抱きついている所を誰かに見られたら恥ずかしいと思いつつも私はぎゅっとルクを抱きしめてしまう。
ああ、ずっとこのまま抱きしめていたい、そう思った。


しかしそんなことをルクがゆる筈もなく私の肩に触れると無理やり離されてしまった。


「あまり私を揶揄うな……それより、もう体は大丈夫なのか?」
「あ…揶揄うだなんて、そ、そんなことは……。はい、もう大丈夫です。ルク様に助けられてとても嬉しゅうございます」
「ああ、それは良かったな。偶々見かけただけなんだが……それより腹は減らぬか? どこかで腹ごしらえをしたいのだが……」


私はお城から一歩も出たことが無かった。
なので下界の事は全く無知。
ルクにそう言うと『根っからのお姫様か』と言われてしまった。
でもそれは事実。嘘を付いても仕方がない事だ。
ルクがまた考え事を始めた。
今度は何を言うのだろう、それがちょっと楽しみでもあった。


「旅と言ってももう行くところが無いのだがな……本当はこれから国に帰る途中だったのだが……其方がよければ祖国へ来るか?」


え……? 2人で旅をするのではないの? 
成り行きでルクの国に行くってことになるのかしら。


「わたくしは構いません。ルク様が宜しければ……」
「私は問題ないぞ。因みに私には婚約者も居ない。旅の目的は諸国を見て回ることと、実はもう一つあるのだ。それが―――」


それが『妃』を見つける事だった。
いきなりそんなことを言われても、と思うところだが私にはもう何もない。
ルクが良ければ、私でよければ……そう思った。
それをルクに伝えると嬉しそうに喜んでいた。
私は彼に命を救われただけでなく妃として迎えられることになったのだ。


ただ、ドラゴンの国の王子に……。



しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。

水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。 しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。 マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。 当然冤罪だった。 以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。 証拠は無い。 しかしマイケルはララの言葉を信じた。 マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。 そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。 もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約破棄までの七日間

たぬきち25番
恋愛
突然、乙女ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタに転生したことに気付いた私。しかも、気付いたのが婚約破棄の七日前!! 七日前って、どうすればいいの?!  ※少しだけ内容を変更いたしました!! ※他サイト様でも掲載始めました!

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!

158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・ 2話完結を目指してます!

処理中です...