悪役令嬢とドラゴン王子

杏仁豆腐

文字の大きさ
6 / 34
第2章 拘束

2

しおりを挟む
「私の国までは少々距離がある。移動手段は本来ならば空で飛ぶのだが……私の背中に乗ってみるか?」

出会って数時間も立たずいきなり背中に乗れと、目の前の美青年のルクが私にそう言った。
そ、そんな……背中なんて恥ずかしい…背中に乗れなんて…そんなことを考えて黙っている私にルクは優しく声を掛けた。

私が恥ずかしがっていたのを悟ったルクが咳ばらいをして話し出した。


「背中と言うのは、その、ドラゴンの私の背中なのだが」
「……!?」


恥ずかしくて何処かに穴があったら入りたいっ、私…私ったら破廉恥な事を考えていたことがルクにバレてしまった。
両手を手で覆って後ろを向いた私。
彼も恥ずかしかったのか頭をポリポリ頭を掻きながら足を揺さぶっていた。


「どうする? 空を飛べば国までそう時間は掛からぬのだが……もし……背中がアレだったら……歩いていくか?」
「え……?」


両手で顔を隠していた私は手を退けて後ろをゆっくり振り返った。
下を見つめながら片足を揺すりながら恥ずかしそうにしているルクを見てなんだか可笑しくなってしまった。


「はい。一緒に歩きたいです」

私はそうルクに答えた。
ルクは、では行くか、と私の前に手を差し伸べ私はその手を取って薄暗い洞窟を後にした。
まだ外は明るくお日様が登っている時間帯だった。

これから私は彼の国、ドラゴンの住まう国へ出発するのだ。
どういう世界なのか分からないけれど行く当てもない私にルクが道を与えてくれた。
彼の優しさに感謝しながら握りしめていた手をぎゅっと掴んだ。


「では、まずは『エルドランド王国』へ向けて出発だっ」
「はいっ」


洞窟を後にした私とルクは森の中に入った。
道なき道を、獣道なのだろうか、足跡が幾つか見つけた。
大きな森を何時間か歩いていると目の前に光が見えてきた。


「さぁ、もうすぐ王国の領土だ。私は王宮に用事があるのだが、其方はどうする? 城下町の宿屋で待っておるか? それとも一緒に王宮へ赴くか?」
「私は身分をはく奪された身……。ルク様とご一緒に王宮にお邪魔したらきっとご迷惑では?」
「そんなことは……行ってみないと何とも言えぬが……」


ヨ―ルリアン帝国はこの大陸でも大きな大国。
それぞれ隣接している国には私の事が知れ渡っているに違いない。
悪役令嬢のレッテルを貼られ、姫として身分も無くなってしまった私がルクと共に王族と会うわけにはいかない。一緒にいるだけでも迷惑になっているい違い無いのに…。


「私は町の様子を見ながらどこかの宿で待っておりいます。どうぞルク様はお仕事を済ませてくださいまし」


私はそう言ってにこやかにルクを見た。
ルクは少し困った表情を見せたが私の申し出を受けお城の近くにある宿屋まで私を案内してくれた。
私はルクに礼を言って宿屋の女将さんに案内された部屋に向かい、ルクは私の事を気遣ってかすぐ戻ると言い残し、宿を後にした。


「ここでお休みください。姫様」
「わ、わたくしは姫では御座いません。ただの娘です」
「ふふふ……」

そんな事はないでしょう、とふふふと笑いながら女将さんが部屋を出て行ってしまった。
もし私が姫だったらこのような宿屋に泊まることなんてない、と思う筈なのにどうして……。
まさかここの国にも私は身分をはく奪された姫だということが知られている!?

女将さんの言っていたことが引っかかってしまったが色々あり過ぎて疲れたのかベッドに腰かけると眠気が襲ってきた。


「少し横になろう」


私はそう呟き靴を脱いでそのままベッドに横になって目を瞑った。
何だか嫌な事があったばかりなのにぐっすりと安心して眠れる気がする…私は夢の中へ向かうのだった。

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。

水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。 しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。 マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。 当然冤罪だった。 以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。 証拠は無い。 しかしマイケルはララの言葉を信じた。 マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。 そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。 もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約破棄までの七日間

たぬきち25番
恋愛
突然、乙女ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタに転生したことに気付いた私。しかも、気付いたのが婚約破棄の七日前!! 七日前って、どうすればいいの?!  ※少しだけ内容を変更いたしました!! ※他サイト様でも掲載始めました!

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!

158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・ 2話完結を目指してます!

処理中です...