悪役令嬢とドラゴン王子

第8章 婚約

４

ルクの案内で私はドラギウス国の城下町を散策した。
皆笑顔でルクに挨拶を交わしている。
気さくなルクは手を上げて応対してる。
本当にこの国の民たちは元気があって凄い。
ヨ―ルリアン帝国の城下町を私が歩いたとしても誰も声を掛けようとはしないだろう。
その前にお父様が私を外に城外へ出すことに反対するだろう。


「久々の外はどうだ？」
「はい。とっても楽しいです。皆元気いっぱいですね」
「ああ、ここは特に活気があってな。近くに市場もあるのだ。言ってみるか？」
「はい。是非見ていたいです」
「良し。行こう」


ルクが私の前に手を差し伸べ、私はその手を取ると走り出した。
引っ張られて転びそうになりながらも必死で走った。


「此処だ」
「すごい……」


大きな声と大勢の民たちが市場に集まっている。
魚や、野菜、花、果物、肉、何でもここで揃っている。
ここに居る人たちはみな竜族なのにまるで人間そっくりだった。


「皆人間の姿をしているのですね」
「ああ。前にも話した通り、民のほとんどは人間と同じ姿をしている。私たち王族の一部と貴族の一部がドラゴンに変身することが出来るのだ。どちらかというとドラゴンの姿が本当の姿で今のこの姿は仮の姿だけどな」
「そうでしたね。それにしても凄い人の量です。私はこんな光景初めて見ました」
「そうか。楽しんで貰えると私も連れて来た甲斐があったものだ」


ルクに連れて言って貰ったのは此処だけではなかった。
街の中心街にある色々なお店がある場所にも連れて行ってくれた。
洋服店、お茶屋、食事処、宿……色々な店がやっていた。
美味しそうな匂いを辿っていくと可愛らしい店構えの場所に着いた。


「ここは、パン屋だな」
「パン？」
「知らぬのか？　パン」
「知っておりますが、此処の匂いはパンの匂いなのですか？」
「焼きたてのパンだからな。小麦の焼く匂いやパンの中にいろんな具材を詰めて焼くパンもあるのだ」
「そうなんですね。私はそんなパンを食べたことが無いです」
「おお、それでは食べてみるか？」
「宜しいので？」
「ああ、では行こうか」


ルクは店の中に私を案内してくれた。
カランカランとドアを開ける音がして中に入ると、色々な形をしたパンがたくさん並んでいた。
ルクが店一番の売れているパンを一つ買ってくれた。


「これは美味しいパンだ。食べてみよ」
「頂きます……美味しいっ」

このような美味しいパンを食べたことが無かった。
いつもは少し硬めのパンを食べていた私にとってはこのフカフカの物がパンだとは思わなかった。

「他にもたくさんのパンがある。人々は色々な工夫をして頑張っているのだ。私もその民たちに答えたいのだ。もっとこの国が繁栄するために様々な国との交流、そして物流を活発にしていきたい。私の役目は国と国との交渉役。各国の要人に会合するのはそのためなのだよ」
「そうだったのですね。このような活気がある国を私は知りませんでした。まだ私の知らない世界が沢山あるのですね」

そうだよ、とルクが優しく微笑んでくれた。
ヨ―ルリアン帝国に戻る時、私はお父様にしっかり伝えないと。
そして私がこの国とヨ―ルリアン帝国を結んでみせる。
そんなことを思ったのだった。

「さぁ、そろそろ城に戻って明日の準備をしなければな」
「はい、ルク様」