悪役令嬢とドラゴン王子

杏仁豆腐

文字の大きさ
33 / 34
第8章 婚約

3

しおりを挟む
「帝国へ向かう日取りが決まった」

それは突然の事だった。
私はルクにそのことを訊いて動揺してしまった。
あの国にへ戻る事が辛い。
本当は逃げ出したいのに……。


「そうですか。それで、いつ向かうのでしょうか」
「明後日だ。帝国も了承している。其方と共に行くことが条件となっている」
「そうですよね……分かりました」


私はうつ向いたままそう言うと、ルクが私をそっと抱きしめた。
心配ない、その言葉を何度も何度も耳元で囁いてくれた。


ヨ―ルリアン帝国とドラギウス国との間に何があるのか、それは私には分からない。
私は帝国の姫であったのに何も知らされていないことに憤りを感じていた。


「ルク様。帝国との間に何があったのか、私には教えて貰えないのでしょうか?」


私がそう訊ねるとルクが暫く考え事をした後に私に話しかけた。


「ヨ―ルリアン帝国と我国とは対峙した政治状態がずっと続いているのだ。我竜族は昔から神のの交流があるとされている。実際私自身神の存在を確認したことはない。が、ドラゴンの変身出来る能力は人間にとっては脅威でしかない。私たち竜族は貴族、王族が一丸となって各隣国へ赴き交流を深めて来た。しかしヨ―ルリアン帝国だけはそれを許されてはいないのだ。父上は私と其方の婚儀を機会に交流を深めたいという狙いがあるようだ。つまり政治的に利用しようとしている、ということだな」
「そんなことが……」


私の知らない帝国と竜族……。
しかし私は一度断罪された身、今は恐らく姫として帝国は席をおいているかもしれないが、これはとても重要な案件なのだと理解した。
ルクは全てを私に話してくれた後私に問いかけた。


「私は政治的に其方を利用しようとは考えていない。婚約の事は真剣だ。しかし結果的に利用することになる。それでも私を信じてついてきてくれるか?」


私は黙ったまま頷いた。
今私に出来る事、ルクに恩返しできることと言えば私の地位を使用してもらう事。
それで上手く行くのであれば私を窮地から掬ってくれた彼に尽すことが出来る。
私は嬉しさのあまり目から涙が零れた。
スーッと頬を伝る涙をルクが優しく人差し指で掬ってくれた。


「其方は優しい。いつでも私や家族の事を考えてくれている。其方に出会って、本当に良かったと思っている。有難う、エリーザ」
「ルク…様」


私はルクに抱き着いた。
ルクは私の事を優しく抱擁してくれた。
この人に一生ついていこう、私は心の中でそう呟いた。


「出発までにはまだ時間がある。良かったら私の国を紹介するが、どうする?」
「はい。色々なところが見てみたいです」

私はルクにそう言って微笑んだ。
束の間の休息…私とルクは笑顔で笑った。
楽しい時間が過ぎるのはあっという間。
ヨ―ルリアン帝国に赴く日がどんどん近づいてきているのだった。

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。

水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。 しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。 マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。 当然冤罪だった。 以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。 証拠は無い。 しかしマイケルはララの言葉を信じた。 マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。 そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。 もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約破棄までの七日間

たぬきち25番
恋愛
突然、乙女ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタに転生したことに気付いた私。しかも、気付いたのが婚約破棄の七日前!! 七日前って、どうすればいいの?!  ※少しだけ内容を変更いたしました!! ※他サイト様でも掲載始めました!

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!

158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・ 2話完結を目指してます!

処理中です...