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出会い

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男性はオーナーを無視して立ち去ろうとしたとき私の目の前でいきなり立ち止まった。
数秒間、沈黙と、男性が私を見つめた。
退けってこと?
そう思い私は端っこに行くといきなり腕を掴まれてしまった。

「な、何っ。痛いっ!」
「すみません……」

男性は小声でそう言うと私を連れてオーナーの所へ向かった。
オーナーたちの前で立ち止まると男性はゆっくり口を開いた。

「親父、お袋。俺、今この人と付き合ってる。だから、その人とは会えない」
「そ、それは本当なのか!」
「ああ、本当だ。結婚を前提に付き合ってる」
「ええっ! 三橋さん……それ本当なの? 私そんな話聞いたことがないんだけれど……」

いきなりの展開に私の口が全く開こうとしない。
私の意図しないところでどんどん話が広がっていく。

「お袋、黙っててごめん。そういうわけだから。後宜しく」

男性はそう言って私を連れて店を後にした。
男性は私を車に乗せ発車させた。
暫く黙ったまま……嫌な沈黙が続く。

「……すみません、いきなり……」

ハンドルを握り前を向いて運転しながらぼそっとそう言った。

「……あのぉ……何なんですか? これ……」
「すみません……ああでもしないと帰れそうもなかったので」
「人を巻き込んでおいて……酷くないですか?」
「ですよねぇ……今喫茶店に向かってます。お詫びに思って…」
「…………」

私は黙ったままカバンを抱きしめながら男性の横顔を睨みつけた。
いきなり付き合ってるとか嘘ついて。
明日もバイトあるっていうのに。
どうあの二人と向き合っていけばいいのよ……。


「あの……名前なんて言うんですか?」
「僕ですか? すみません。名乗ってませんでしたね。僕は清水涼太と言います」
「……三橋……茜……」
「三橋さん。そうかお袋が言ってましたね。本当にすみませんでした」
「いえ……」

車は喫茶店の駐車場で止まり私は彼に言われるがまま店の中へ入った。
夕方の時間。
店内は物静かで何処からか流れてくるBGMが耳に残っていた。
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