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推しとファン③

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伊藤さんとの話が一段落し、真美の緊張も少しほぐれてきた時、椅子から転げ落ちるくらいビックリすることを言われた。

「まだお時間に余裕があるようでしたら、ルゼーフも本日出社しておりますので、呼んできましょうか」

口はポカンとあき、目は驚きで見開かれた。そして、声は出なかった。

「どうしましょうか」
再び、伊藤さんに問いかけられた。

「あ、あ、あいたいです!」

伊藤さんの落ち着いた話し方とは反対の、慌てた大声で答えた。
伊藤さんは優しく微笑み「少々お待ち下さい」と言って席をたった。

真美は居ても立っても居られず、立ち上がって、気をつけの姿勢をとった。

頭の中は真っ白だ。もしルゼーフに会えたら、なんて何千回も何万回考えていたことなのに、いざとなったら何もできない。心臓はバクバクしすぎて、息をするのも苦しいぐらいだ。せめて緊張で倒れたりしないように呼吸だけはちゃんとしよう。そんなことを考えながら自分のエナメルの靴のつま先を見つめていたら、ドアが開く音が聞こえた。

目の前にはルゼーフがいた。
何か言わないと。ファンですとか、応援してますとか。せめて、初めましてとか何か言わないと。
焦って「あっ、」と言ったのと同時に、ルゼーフも何かを言おうとした。

やってしまった。ファンが推しの言葉を遮るなんて。あるまじき行為。スミマセンと、ペコペコ頭を下げながら、ルゼーフの言葉を待った。

「歌っているのを拝見しました。ファンになりました。ルゼーフの歌、作ってくれてありがとうございます。」

えっ!?

ルゼーフが私のファンになったって言ったの!?
嘘でしょ?私、夢見てるの?

ファンです、は私が言うはずの言葉だと思っていた。

「ファンです。私もファンです。」
真美は言った。言った後に、混乱した。ルゼーフが私のファンだと言ったあとに私もファンですって言ったら、真美がマミ~のファンみたいだ。

「違います。私はルゼーフさんのファンです。」
訂正したら、ますます訳がわからなくなった。

ルゼーフは笑ってくれた。
「ありがとうございます。」

ルゼーフが大人の対応をしてくれた。こういう冷静で大人な対応ができるところ、やっぱり好きだな。こんなときでさえ、真美はそんな風に思った。

「ファンが応援してくれるのって嬉しいですよね。」

ルゼーフは続けてそう言った。同意を求められ、真美はファンと初めて言われた今の気持ちを考えた。

「はい。」
「自分がしてきたことが間違ってなかったんだなって、認めてもらえて嬉しいなって。」

ルゼーフはうなずきながら聞いてくれた。
ファンがいるってこういう気持ちなんだ。

推しに推されて、知りたかったことがわかるなんて、最高に幸せだ。

これからも推しを応援するぞ。
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みんなの感想(1件)

田中マーブル(まーぶる)

はじめまして。
一通り読了いたしました。
自分が初めてアルファポリスに小説を投稿した時のドキドキを思い出しますね。
続き楽しみにしてますね( ´ ▽ ` )ノ

舞浜あみ
2023.01.15 舞浜あみ

初めて感想をいただき、とても嬉しいです。

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