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プロローグ
2.悪役・ローゼルアリオン
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薄水色の長い髪を後ろに三つ編みにさせ、ワインレッドの瞳。氷の彫像のような顔立ち。
私の名前はローゼルアリオン。この国の魔法使いの頂点にして、魔塔の主だった者だ。
この国では、魔法を使うものが国中の至るところに存在し、魔法で生計を立てる覚悟を決め、才能を持ったものだけがこの学園に通う権利を得られる。
私は闇魔法という非常に珍しい適性を持ち、学園生活では主席を維持。そして魔塔の主へと昇りつめた。絶え間ない努力の果てに、栄光を掴んだのだ。
今より遡って6年前に私は学園を卒業する。そこからとんとん拍子で、魔塔の主として選ばれた。
けれど魔塔の主としての任を拝命したその時、私の中には別の記憶が蘇った。そう、日本という別の世界で生きていた記憶だ。
私は30代のサラリーマンとして生きてきた。そして、過労によって死んだ。
その人生で何をしていたかなどという大層なことが出来たわけではない、本当にどこにでもある、ごく普通の人生だった。
そんな普通の人生で、私はある本を読んだ。
ここは、前世で読んだ小説と同じ世界だった。魔法の世界を中心として繰り広げられる学園の話。
主人公は日本から転移してきた聖女・心愛。そしてそれを支える、王太子のアウレリウス。
そしてそんな二人に立ちふさがる、悪役のローゼルアリオン。そう、私だ。
ローゼルアリオンの野望はシンプル。国の掌握だ。
魔塔を牛耳って勢力を伸ばし、学園も抑えることで自分の手の者を時間経過によって増やす。やがて魔物に国民を襲撃させ、自作自演でそれを跳ね除け、英雄視されることで国民たちの信頼を得るというもの。
やがては王族をも倒すために、得意の闇魔法を使って生徒会長である王子に襲い掛かるものの、王子は聖女と一緒にローゼルアリオンの悪行を露わにし、二人で倒すという、ごく普通のロマンス小説だ。
女上司が読んでいるということで話を合わせるために購入したものの、なんともまあありがちなロマンス小説か。
私は魔塔主の任命式を終え、今は自室で改めて自分の容姿を見ていた。さすが悪役、綺麗ではあるが毒々しい容姿だ。
小説でのローゼルアリオンは、悪役らしくみんなに嫌われていた。こちらも理由はシンプル。闇の魔法が最も得意で、支配において彼の右に出るものはいないから。
闇魔法の適性を持つ者は蔑まれる運命にあるが、彼もまたそれは例外でなかった。故に子爵の出ではあるが、その闇魔法の才能から家族からは部屋に閉じ込められて育った。
やがて悪役は自分を認めてくれない世界に嫌気がさし、歴史に名を残すために野望を抱くのだ。
「けれど、私は私として生きてきたから、今のところまだ悪行はしていない」
そう、本当であれば学園にいる間に私は、自分より優秀な成績を出したものを陰謀で追いやっていたはずだ。けれど私はそんなことをするまでもなく、ストレートで主席卒業した。魔塔主になれたのも、洗脳を使っていた小説とは違って、先代に気に入ってもらえたからだ。
・・・とはいえ、私に嫉妬した者のせいで、事実無根の黒い噂は流れたが。
「王城に行った時も王子のことを殴っていない」
本来のローゼルアリオンであれば、学生時代に行った王城で、なんと第一王子に手を上げたのだ。相手は私より六つ下のまだ幼いころの王子。
原作では自分よりも環境的に恵まれた人間がただ気に食わず、殴った後に闇魔法で記憶を弄った。けれど、守護の魔法を持っていた王子はそのことを記憶に留め続け、早い段階から私の悪性に気が付くという流れだった。
けれど、私は王子を殴っていない。それどころか、他王族にいじめられていた年下の王子とは、雑談して終わっただけだ。
「私は、決して何もしていない。そしてこれからも何もしない」
だとすると、悪役に生まれ変わったのは決して絶望的なことではない。そう考えると勇気が湧いてきた。
小説の終わりには、悪役ローゼルアリオンは聖女と王子に、光の刃で心臓を貫かれて絶命する。
けれど、私ならその未来を回避できる。
・・・そう思って努力してきた、つもりだった。
魔塔の主というのは、いわば魔法使い達の社会の政治における執政者というべきだろう。けれど、政治というのは本当に難しい。
人は生きていれば、必ず意見の衝突が起こる。政治家というのは、それらのすべての意見のまとめ役というべきものだ。私は魔塔の主となり、「作品のローゼルアリオンが血縁主義でやってきたのであれば、逆に身分が低い者への融和的な政策をすればいいのではないか」と考えた。
・・・まあ、結論から言うと失敗した。
私が生きていた日本とは違い、この国は貴族中心だ。そんな中で身分が低いものを救済したとて、貴族からの反発を招くだけだ。すると、私の悪評は率先して流れる。例えば金銭に恵まれずとも優秀な者であれば平民からも学校に優遇措置の元通えるというシステムを構築したが、古くからの伝統に固執する貴族からは絶大な反発を受けた。血統しか誇るものがない者は、私の悪評を徹底的に流し、伝統を維持しようとした。
制服も作った。何故なら、身分の差が顕著に出るのが服装だからだ。決して平民が恥をかかなくていいように。しかしこれも理解は得られなかった。魔法の訓練にも耐えられる品質にした結果、初期費用は高くなり、懐が寒い平民からは不平、もちろん着飾れない貴族からも反発を受ける。
もちろん、私も極端な平民政策をとったわけではない。貴族にも優遇措置を作った。政治は天秤だ。決して傾いてはならない。
例えば、学園の生徒会長には、実力より身分の高いものを優先するように、と。しかして魔法闘技会では、平民の者が貴族の者を圧倒したが、けれど余計なルールのせいで生徒会に入れなかった。
そう、私のせいで、その平民は進路を狭められた。周囲の平民から批判が殺到した。
治安の悪いエリアに魔法使いを配備する政策も実施した。しかし、民たちは私が監視のために施行したと思い込み、また配備した魔法使いも現地で問題を起こしたこともあって反発の声が上がった。
良かれと思って制定したルールは理解されず、やることなすことはすべて悪意に解され、恩恵の感謝など1分も続きやしない。元から折り合いの悪かった婚約者とも、関係はますます悪化し、やがて悪評は広まり、魔塔で働く者たちの心も段々と私から離れていった。
そして魔塔主になってから時は過ぎ、私は自室にいた時に、光の刃に心臓を貫かれた。背後から一突き。
「ぐ、ふ・・・・・・」
自分の体を、まずは冷たい何かが襲う感覚がした。そして、すぐに灼熱が襲う。
私は闇の魔法使いで、光とは頗る相性が悪い。私の血を吸うその光の刃は、毒のように私の命を蝕む。しかして私を刺したものは何も言わず、ただ雑に私の体を蹴って剣を抜き、地面に転がした。
刺されたという驚きよりも、その時の私の頭の中は疑問符で一杯だった。
まず、どうして私が殺されなくてはいけないのか。
そして、私の行いの何がまずかったのか。
どうして原作よりも早い段階で死なくてはならなかったのか。
一生懸命生きてきて、慣れないなりに頑張って皆を幸せにしようとして、その先にきっと自分が幸せになれる道もあると信じて。
けれど、地面に突っ伏した私にあったのは、ただの絶望と、後悔だった。自分のやってきたことが全て否定され、生きてきてこれまで使うことのなかった涙腺に、熱いものが通る。
涙で、犯人の顔は見えなかった。
どうして私はここまで恨まれなくてはならなかったのか。
犯人は私がもう助からないことを悟ったのだろう。凶器をしまい、足音は遠のいていった。私の呼吸もやがては細くなっていき、鼻腔には鉄の匂いが充満し、視界も暗くなっていく。
誰が悪役を殺したか。
それすら理解することが出来ず、私は命を落とすことになる。
私の名前はローゼルアリオン。この国の魔法使いの頂点にして、魔塔の主だった者だ。
この国では、魔法を使うものが国中の至るところに存在し、魔法で生計を立てる覚悟を決め、才能を持ったものだけがこの学園に通う権利を得られる。
私は闇魔法という非常に珍しい適性を持ち、学園生活では主席を維持。そして魔塔の主へと昇りつめた。絶え間ない努力の果てに、栄光を掴んだのだ。
今より遡って6年前に私は学園を卒業する。そこからとんとん拍子で、魔塔の主として選ばれた。
けれど魔塔の主としての任を拝命したその時、私の中には別の記憶が蘇った。そう、日本という別の世界で生きていた記憶だ。
私は30代のサラリーマンとして生きてきた。そして、過労によって死んだ。
その人生で何をしていたかなどという大層なことが出来たわけではない、本当にどこにでもある、ごく普通の人生だった。
そんな普通の人生で、私はある本を読んだ。
ここは、前世で読んだ小説と同じ世界だった。魔法の世界を中心として繰り広げられる学園の話。
主人公は日本から転移してきた聖女・心愛。そしてそれを支える、王太子のアウレリウス。
そしてそんな二人に立ちふさがる、悪役のローゼルアリオン。そう、私だ。
ローゼルアリオンの野望はシンプル。国の掌握だ。
魔塔を牛耳って勢力を伸ばし、学園も抑えることで自分の手の者を時間経過によって増やす。やがて魔物に国民を襲撃させ、自作自演でそれを跳ね除け、英雄視されることで国民たちの信頼を得るというもの。
やがては王族をも倒すために、得意の闇魔法を使って生徒会長である王子に襲い掛かるものの、王子は聖女と一緒にローゼルアリオンの悪行を露わにし、二人で倒すという、ごく普通のロマンス小説だ。
女上司が読んでいるということで話を合わせるために購入したものの、なんともまあありがちなロマンス小説か。
私は魔塔主の任命式を終え、今は自室で改めて自分の容姿を見ていた。さすが悪役、綺麗ではあるが毒々しい容姿だ。
小説でのローゼルアリオンは、悪役らしくみんなに嫌われていた。こちらも理由はシンプル。闇の魔法が最も得意で、支配において彼の右に出るものはいないから。
闇魔法の適性を持つ者は蔑まれる運命にあるが、彼もまたそれは例外でなかった。故に子爵の出ではあるが、その闇魔法の才能から家族からは部屋に閉じ込められて育った。
やがて悪役は自分を認めてくれない世界に嫌気がさし、歴史に名を残すために野望を抱くのだ。
「けれど、私は私として生きてきたから、今のところまだ悪行はしていない」
そう、本当であれば学園にいる間に私は、自分より優秀な成績を出したものを陰謀で追いやっていたはずだ。けれど私はそんなことをするまでもなく、ストレートで主席卒業した。魔塔主になれたのも、洗脳を使っていた小説とは違って、先代に気に入ってもらえたからだ。
・・・とはいえ、私に嫉妬した者のせいで、事実無根の黒い噂は流れたが。
「王城に行った時も王子のことを殴っていない」
本来のローゼルアリオンであれば、学生時代に行った王城で、なんと第一王子に手を上げたのだ。相手は私より六つ下のまだ幼いころの王子。
原作では自分よりも環境的に恵まれた人間がただ気に食わず、殴った後に闇魔法で記憶を弄った。けれど、守護の魔法を持っていた王子はそのことを記憶に留め続け、早い段階から私の悪性に気が付くという流れだった。
けれど、私は王子を殴っていない。それどころか、他王族にいじめられていた年下の王子とは、雑談して終わっただけだ。
「私は、決して何もしていない。そしてこれからも何もしない」
だとすると、悪役に生まれ変わったのは決して絶望的なことではない。そう考えると勇気が湧いてきた。
小説の終わりには、悪役ローゼルアリオンは聖女と王子に、光の刃で心臓を貫かれて絶命する。
けれど、私ならその未来を回避できる。
・・・そう思って努力してきた、つもりだった。
魔塔の主というのは、いわば魔法使い達の社会の政治における執政者というべきだろう。けれど、政治というのは本当に難しい。
人は生きていれば、必ず意見の衝突が起こる。政治家というのは、それらのすべての意見のまとめ役というべきものだ。私は魔塔の主となり、「作品のローゼルアリオンが血縁主義でやってきたのであれば、逆に身分が低い者への融和的な政策をすればいいのではないか」と考えた。
・・・まあ、結論から言うと失敗した。
私が生きていた日本とは違い、この国は貴族中心だ。そんな中で身分が低いものを救済したとて、貴族からの反発を招くだけだ。すると、私の悪評は率先して流れる。例えば金銭に恵まれずとも優秀な者であれば平民からも学校に優遇措置の元通えるというシステムを構築したが、古くからの伝統に固執する貴族からは絶大な反発を受けた。血統しか誇るものがない者は、私の悪評を徹底的に流し、伝統を維持しようとした。
制服も作った。何故なら、身分の差が顕著に出るのが服装だからだ。決して平民が恥をかかなくていいように。しかしこれも理解は得られなかった。魔法の訓練にも耐えられる品質にした結果、初期費用は高くなり、懐が寒い平民からは不平、もちろん着飾れない貴族からも反発を受ける。
もちろん、私も極端な平民政策をとったわけではない。貴族にも優遇措置を作った。政治は天秤だ。決して傾いてはならない。
例えば、学園の生徒会長には、実力より身分の高いものを優先するように、と。しかして魔法闘技会では、平民の者が貴族の者を圧倒したが、けれど余計なルールのせいで生徒会に入れなかった。
そう、私のせいで、その平民は進路を狭められた。周囲の平民から批判が殺到した。
治安の悪いエリアに魔法使いを配備する政策も実施した。しかし、民たちは私が監視のために施行したと思い込み、また配備した魔法使いも現地で問題を起こしたこともあって反発の声が上がった。
良かれと思って制定したルールは理解されず、やることなすことはすべて悪意に解され、恩恵の感謝など1分も続きやしない。元から折り合いの悪かった婚約者とも、関係はますます悪化し、やがて悪評は広まり、魔塔で働く者たちの心も段々と私から離れていった。
そして魔塔主になってから時は過ぎ、私は自室にいた時に、光の刃に心臓を貫かれた。背後から一突き。
「ぐ、ふ・・・・・・」
自分の体を、まずは冷たい何かが襲う感覚がした。そして、すぐに灼熱が襲う。
私は闇の魔法使いで、光とは頗る相性が悪い。私の血を吸うその光の刃は、毒のように私の命を蝕む。しかして私を刺したものは何も言わず、ただ雑に私の体を蹴って剣を抜き、地面に転がした。
刺されたという驚きよりも、その時の私の頭の中は疑問符で一杯だった。
まず、どうして私が殺されなくてはいけないのか。
そして、私の行いの何がまずかったのか。
どうして原作よりも早い段階で死なくてはならなかったのか。
一生懸命生きてきて、慣れないなりに頑張って皆を幸せにしようとして、その先にきっと自分が幸せになれる道もあると信じて。
けれど、地面に突っ伏した私にあったのは、ただの絶望と、後悔だった。自分のやってきたことが全て否定され、生きてきてこれまで使うことのなかった涙腺に、熱いものが通る。
涙で、犯人の顔は見えなかった。
どうして私はここまで恨まれなくてはならなかったのか。
犯人は私がもう助からないことを悟ったのだろう。凶器をしまい、足音は遠のいていった。私の呼吸もやがては細くなっていき、鼻腔には鉄の匂いが充満し、視界も暗くなっていく。
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