誰が悪役(アリオン)を殺したか

ひまたろう

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プロローグ

3.悪役の復活

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「せんせ、せんせー!!起きてください!!せんせー!!」
「・・・・・・・・?」

 ここは、どこだ?閉じていた双眸から、少しずつ柔らかな光が入ってくる。私はゆっくりと目を開き、目の前にいる人物を視界に入れた。

「わあ、凄い!!せんせーってば本当に生き返った!どういう魔法を使ったんです?僕にも教えてくださいよ~!!」
「お前は・・・」

 目の前にいたのは金髪に碧眼の見た目だけは綺麗な男。名をマラカイ。我が元弟子にして、天才魔法使いである。私の顔を間近で覗き込んでいた。

 いや、そんなことよりも、私はどうしてここにいるのか。ここはどこなのか。どうして生きているのか。

 周辺は森で、辺りは光を放つ魔晶石の飾り以外に明かりは無く、やや暗い。
 心臓を刺された痛みを思い出し、咄嗟に胸を抑える。服は・・・私がさっきまで着ていたものと一緒で、しかし腕の部分がダボダボだ。

「全く、せんせーってば、心臓を背中から貫かれて死んだんですよ?まだ世間には公表されていないんですけれど、それはもう、僕が先生の死体を隠して一生懸命先生の魔力を辿って復活地点を探したからなんですけどね~褒めて褒めて!!」

 私は状況を全然把握できていないというのに、マラカイは綺麗な金髪をぐいぐいとこちらに押し付けてくる。

 死んだ。私は死んだのか。あの光の刃に貫かれたのは、やはり幻覚ではなかったのか。急いでボタンを外して胸の傷を確認する。けれど、本当に刺されたのか疑わしいくらい、そこには何もなかった。

「凄いですよね、せんせーってば残機をちゃんと残していたんですから!やり方を教えてくださいよー!!」
「そんなものを作った記憶は無いんだけどな。どうして私は生きているんだ・・・?」

 残機、ということはつまり、私の魂はこの体に移ったということだ。・・・確かに、前まで使っていた体よりも一回り小さい気がする。視界の上部もいつもより暗い。髪色が暗いからか・・・?

「マラカイ、鏡は持ってるか?」
「持ってませんけど、魔法で作ればいいんですよ~。はいどうぞ」

 マラカイは着け爪を付けた指を一振りする。この世の魔法使いは道具を用いるのだが、マラカイの場合はふざけている本人の深層心理を反映しているのか、爪が魔道具となっているのだ。
 マラカイの作った鏡で自分を見る。すると、容姿が変わっていた。

「・・・これ、実家の牢にいたころの私じゃないか」

 手入れのされていないくすんだ藍髪、幼い者特有のそばかす。実家にとらわれていたころのローゼルアリオンは、美しく成長する前は何とも地味な風体だった。それが魔法の才能が開花する15歳のころに、容姿も変貌していったという。

「せんせーはいつだって美しいですけれど、こっちの先生も青くて可愛いですね。ということはまだ処女だったころの体ということですかー!?ひゃっほい!!処女いただきまーす」
「おい、馬鹿!!離せ!!というか私はずっと性交経験なんてない!!」

 こいつは本当に、昔から頭のおかしい弟子だった。平民だというのに学園の生徒会を圧倒し、主席の成績をひっさげて卒業後に私の元へやってきた。
「あなたのしもべになりたいんです」と跪いてきたのだが、丁度そのころ私の執政のせいで彼は生徒会長の道は閉ざされていたため、そういった負い目があった。故に育ててみたのが、まあとんでもないド変態だったため一か月で私は師匠を諦めた。

 例えば過去には私のベッドに忍び込んで私の寝顔で自慰をしているなど、狂人の行動が見受けられたためしばらく魔塔から出禁を与えていたのだ。こいつはまだ私のことを師匠と思っているようではあるが。
 ・・・まあ、この行動も魔塔の、特に軍部出身の面々からは「優秀な人材を妬んで追い出す」というように勘違いされて私は更にヘイトを買ったが。

「それで先生?貴方ほどの方が一体誰に殺されたんですー?」

 先ほどまで軽快だったマラカイのテンションは、突然剣呑とした空気になる。彼の行動は私からすれば気持ち悪いものが多かったが、けれど慕ってくれることも多かった。嫌われてばかりいた私にとっては、彼の怒りは少しだけ救いになった。

「分からない、犯人の顔は見ることが出来なかったんだ。マラカイ、私の死体を見たんだよな。周辺に何か落ちていなかったか?」
「ああ、先生の体の修復にずっと力を使っていましたから現場は放置しています。ちょっと待ってくださいね?」

 私が生き返ることを期待して、体の修繕をしてくれたというのか。治癒や魔を祓う光魔法であれば確かに治せるかもしれない。マラカイには不得手な分野だろうに、一生懸命やってくれたのか。
 やがて、包みを持ってきた。

「まずはこれですね、先生の手の中に何かがありました。もう、死後硬直でせんせーの体ってば硬くなってて回収が難しかったんですからね!!」

 マラカイは私にハンカチに包んだボタンを渡す。これは、魔法学園に通う生徒の制服のボタンだ。ボタンには細かな傷がついており、また制服についていたようで、藍色の繊維がくっついている。これを握った記憶が私には残っていないが、つまり、私を殺したのは魔法学園の関係者・・・?

「もう一つはこれですね。赤い羽根。特別というほどの魔力もありませんし、何なんでしょうねこれは」

 今度はフワフワの赤い羽根を手渡してくる。とても綺麗な羽だ。これは魔法生物の羽のような気がするが、マラカイの言う通り微量は感じられるが、特別な魔力は感じない。

「以上ですね。さあ、犯人分かりましたか?教えてください、僕がリンチしたのちに血祭にして、死体にしてそいつの家族に送り付けてあげますから!」
「分かるわけないだろ。ただでさえ私は敵が多かったんだ。なんなら、学園関係者が全員容疑者じゃないか?」
「OK!!学園の奴ら全員殺してきます!!」
「やめなさい!!!それをするのは私だ!!!」

 そう、私は学園の面々全員に殺意を抱いていた。あいつらのために身を粉にして働いたのに、全部悪意に解釈してきたんだからな。殺すなら私がやる。やること全部悪い事態に陥っていくのなら、もう最初から悪いことをやった方がすっきりするのだ。小説の結末なんてもう知らん。全員殺してやる。

「でもせんせー?今の先生は魔力が一般人レベルに近いですよ?殴り込みしても一瞬で返り討ちに遭うのが関の山かと」
「・・・・・」

 私は空中に手を開き、火の球を念じる。すると、ライターくらいの火が灯った。

「0ではない。0ではないが、確かにこれでは一般人と変わらないな。くそ、銃火器を発明して、魔法しか知らない連中に鉛球の恐ろしさをその身で体験していただくか・・・」
「よくわかりませんが、今のよわよわのせんせーだったら押し倒しても抵抗できないってことですね?ざーこざーこ」
「やめろ離せ!誰が雑魚だ!!くそ、本調子になったらお前にも躾をしてやるからな」

 私は押し倒そうとし来るマラカイから何とか逃れる。本当に困った弟子である反面、彼のおかげで現在の状況は理解できた。

 私は殺されたこと、そして犯人は魔法学園内が有力であること。

 どうせこの姿で魔塔に戻っても、生きていることを知られれば恨みを買っている私はあっという間にまた殺されるだろう。なので、あそこには戻れない。すると、どこに行くべきかというと魔法学園だろう。

 誰が私を殺したのか。殺した犯人に復讐がしたい。
 これを成さずして、過去の自分に報いることがどうしてもできないからだ。

「・・・マラカイ、お前はしばらく私の死を隠して、頃合いになったらお前が魔塔主となれ」
「ええ~?いやですー!!僕もせんせーと一緒に学園に潜入して、同室でエッチなことしながら青春を送りたいです~!!」
「・・・魔塔主、つまり理事長になったら会いに来ていいから。頼む、私の死のタイミングが偽装できれば、潜入した私へのアリバイを作ることが出来るんだ。おそらく犯人は、私の正体を知れば再び殺しにやってくるだろうが、死体発見が遅くなればなるほど私の正体を誤認してくれるだろうから」
「ええー!?つまり魔塔主になったら、生徒ごっこしてるせんせーに理事長権限でエッチOKってことですか!?」

 私はそれに対して肯定しないが、もうそういう認識でもさせておかないと面倒な役を引き受けてくれそうにない。適当にうなずいておいた。マラカイはキャッキャとしているが、しかし突然周囲に警戒を走らせる。

「せんせ。動かないでくださいね。魔物の群れです」
「・・・まさかここ、紫紺の森か?」

 紫紺の森。それは私が立ち入り禁止区域とした森だ。危ない魔物が多いからというのが理由だが、しかし魔法学園ではこの森での実習が多かった。それを制限した結果、座学の割合が高くなったために生徒達から恨まれている。
 魔法は使うのが一番楽しいのは分かるが、命のほうが大事だろう!!

 マラカイは爪で空中に沢山丸を作り、魔法陣が一気に展開される。雷の魔法だ。正確な射撃と展開の素早さ。無駄なく狼の魔物たちを電気で焼き殺し、周囲には焦げた匂いが充満する。
 さすがは学園史上最優の破壊の天才。その表情は一切変わらず、あっという間に場を制圧した。

 一方の私は魔力が乏しいということは、すなわち敵の感知すらも間に合っていない。故に、ただマラカイの邪魔にならないように身を低くしていた。

「はい、一丁あがり!せんせー、ちゅーして褒めてください?」
「ふむ、あんな魔物にも私は無力だった。これは確かに、魔法学園の奴らの皆殺しどころか、そもそも入学試験に合格できるかもわからんな」
「せんせ?せんせー、ちゅーですよちゅー」

 唇をとんとんと指で弾いてくる弟子を無視して、物思いにふけこむ。せめて何か武器になる魔法があればいいのだが。
 一方のマラカイは私に距離を詰め、キスをしようと唇を近づけてきた。

 瞬間。

 生き残りがいたのだ。まずい、急いで何か魔法を撃たなくては!!
 体中に駆け巡る数少ない魔力をかき集め、私は体を集中させる。それは1秒にも満たない一瞬の判断ではあるけれど、緊急事態を察知した全身は、身を守るために変貌する。

 姿

「先生、その姿・・・」

 美しい薄水色の長い髪と、ワインレッドの瞳。
 そして子供の姿の時より長い腕を狼に向け、一気に魔力を放った。

「サンダーバースト」

 先ほどマラカイが使った雷魔法の上位互換。マラカイは破壊の天才なので、上位互換を使っても私では同威力程度しか出せないが、けれどありったけの魔力を込めた。爆発を伴う雷の一撃。それを前方向に撃つ。すると爆発は広範囲に広がり、他に潜伏していた魔物にも感電が移る。

「すっごー。魔法での破壊力は僕の方が上ですけれど、速度で言ったら先生より上はいませんね~」
「思ってもいない褒め言葉はやめろ!!」

 爆風をさわやかに受け流し、マラカイは私を称賛する。けれど、今の一撃で、私の体はあっという間に元の姿に戻った。それどころか、体がおかしい。体の奥がむずむずして、急に失った魔力を乞いでいた。体のバランスも崩れ、ただマラカイにもたれかかる。呼吸は荒くなり、生命魔力も大きく使ったせいか、心臓も痛い。

「先生、ひょっとしたら姿を元に戻すと、その後に魔力供給をする必要があるのかもしれませんね。うーん、どうすればいいんだろう。あ、そだ」

 マラカイは、身をかがめて私に口づけをして口内に自分の舌をねじ込む。そしてゆっくりとかき回し、静かに私の中を蹂躙していった。互いの体液が混ざり、マラカイの体温が何とも心地よい。

 しかし一番驚いたことは、これにより段々と体の異変が落ち着いてきたことだ。マラカイは満足したのか、口を離す。私たちの間には、一本の唾液の糸が引いていた。

「ふむ、つまり先生は元の姿に戻るたびに、僕と体液交換をしなくてはならないっていうことですね」
「・・・・・・・・・」

 高魔力持ちの体液にも魔力は宿るというが、まさか身をもって体験するとは。私は魔力が少ないが、魔法学園に潜入するには魔力が必要で、その魔力のカバーには今みたいにとなる。

 私は体を震わせた。
 つまり、私は体液を摂取しながら復讐に挑まなくてはいけないのか・・・?
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