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犯人探求編
6.実技試験②
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勝気な聖女・心愛の挑発を受けた途端、アバラが駆けだす。その目は、相手を完全に敵と判断している戦士の目だ。素早い判断に、荒事に慣れているのだと察する。
身体強化系の魔法か。そして前傾姿勢の踏み込みから縮地法さながらの距離を詰め、一気に心愛に向かってアッパーを入れた。心愛は光の魔法の応用は確かにできていたが、実戦は初めてなのだろう。
殴られて脳震盪を起こしたのか、光魔法など為すすべなく、地面に突っ伏した。
「ごめんなあ聖女さん。俺、頭悪いからごちゃごちゃ言われてもよ~わからんのや。でもあんたが本当はすっごい強いってことは分かったから、ほんま申し訳ないんやけど沈んどってな!」
アバラはごめんね!!というポーズを気絶する聖女に向けてする。
あまりの容赦のなさに、復讐に燃える私すらも戦慄したぞ・・・。相手が女なら、体が反射で手加減しないだろうか。
よく男女平等を主張して女性を殴る男性がいるが、あれは正確には自分よりも強い男は殴れないのである。だというのにこのアバラ、相手が男女だろうが本当に関係なく殴るタイプだと私は直感した。やはり、この学園には変人しか集まらないな・・・。
さて、私は試験の前日にマラカイに頼んで口づけを何度もしてもらった。非常に不快な行為だったうえに、途中何度も服を脱がされそうになったが、結果私の魔力は、ある程度蓄えがある。
この聖女の光魔法は私と相性が悪いために、いずれ脅威になりかねない。殺るなら早めがいい。
私はアバラが視線を聖女から外し、木々に目を向けた瞬間に巾着袋を心愛に向ける。闇魔法で、一気に体を燃やそうと。
けれどその瞬間、視界に光が満ちる。誰かが私の眼前に現れた。
「巾着袋なんて、不思議な魔道具を使うね?あのペーパーテストと言い、君は僕の興味をそそられる」
アウレリウス。生徒会長だ。
私の前に立ちふさがるようにして心愛を守るように降臨した。アバラも突然のアウレリウスの登場に大きな口を開けて驚く。
「ええ!?王子様やん、こんなところに何をしにきはったん?」
「死者が出ないように巡回してるんだよ。一応尋ねるのだけど、君はさっきその巾着袋を掲げて、彼女に何をしようとしたのか聞いていいかい?」
じろりと、私を見る。心愛はどう見ても戦闘不能の状態だ。その状態の人間に武器を掲げるのは、確かに止められても致し方ない状況だろう。
「・・・この場に女性をただ放置しておくわけにはいきませんから、草を生やして隠しておこうと思いました」
そうして私は巾着袋を掲げ、雑草に向けて詠唱する。するとにょきにょきと草が伸び、心愛の体を覆い隠した。この王子の言う通り、私は魔法を使って心愛の体を燃やすつもりだったが、予定変更だ。
王子は私の魔法に納得の表情を向けた。
「緑の魔法か。随分珍しいものを使うね。うん、僕の勘違いだったらよかった。魔塔主の意を組んで、なるべく試験で死傷者を出したくないのが僕の願いだから、疑いの目を向けて悪かったね」
「いえ、疑うのも当然の状況でした」
「本当は魔塔主と一緒で、僕もこの森で試験をするのも反対だったのだけれどね。校長に押し切られてしまったんだよ。だからこうして生徒同士で疑わしいタイミングを見つけたら制止しているんだ」
何とも高潔な王子様なことだ。勝気な立木心愛と違って、こちらは性格には小説とズレはないように思う。
本当に、あと一瞬王子のやってくるタイミングが悪ければ言い逃れが出来なかった。少し汗をかく私の顔を、王子はのぞき込む。王子のサラサラした髪が傾けた頭で少し動き、繊細な目元がこちらに近づく。
「個人的な質問なのだけれど、君に兄っているかな?」
「いいえ・・・?」
「親族は?10歳以内の年上の男性っている?」
一体どういう質問だ・・・?私には弟はいるものの、兄はいない。特に今は平民に扮しているため、そんな質問をされても困る。
「いや、実は君が僕の知り合いにすごく似てる気がしてね。うん、目元もよく見ればそっくりだ。ローゼルアリオンっていうんだけど」
ギクっとした。
私はまだ魔法の才が開花していないころは、今のようにそばかすと藍色の髪だった。故に子供の姿をしている今と成長した姿の目元や鼻のパーツなどがごっそりと変わったわけではない。
王子からの探る目は続く。ローゼルアリオンはまだ訃報を発表していないため本人と疑われることはないだろうが、ここでローゼルアリオンの関係者だと思われるのもまずい。
特に私はアリオンと自分を名付けてしまった。安直な名づけに今更ながら冷や汗をかく。こんなにすぐに関連付ける者が現れるとは思わなかったのだ。復讐の最後に学園を殺戮で染める時、「アリオンは仮の姿、私こそがローゼルアリオンだったのだ!」と格好よくやりたかったのだ。そういったちっぽけな願いが足を引っ張る。
それにしても、大人の姿の私とこいつはたった数回しか会っていないはずなのに、どういう記憶力をしているんだ。さすがは王族、社交界に慣れている者はそれくらいできて当然なのか。
一方アバラは、そんな焦る私の前に立ち、かばう姿勢を見せた。
「俺は良いところの出じゃないから、言葉遣い悪くてほんまごめんな王子様。でもな、魔塔主に似てるなんて、そんな最悪の侮辱せんでもええやないか。いくら身分高くても、言っていいことと悪いことがあるで?」
私の名前が最上の悪口表現というのは気に食わないが、助かったアバラ。王子は不服そうに少し体を離す。
「ローゼルアリオンは魔塔主にして我が学園の理事長。君の発言こそ彼への侮蔑と受け取るのだけれど、まあ今回は勝手に詰め寄った僕にも原因はあるからいいよ。まだ試験中だし、これ以上引き留めるのは悪いから。じゃあ、僕は合格者発表の場で待っているから、健闘を祈るよ」
そしてアウレリウスは再びこの場を去っていった。
「ひやー。あんなカス魔塔主にも礼儀を尽くすって、やっぱ生まれながらの王子様は格が違うなあ」
「・・・・・・・」
ペーパーテストでの私の擁護と言い、先ほどの発言。ひょっとして王子は、私のことを嫌っていないのか?
小説ではアウレリウスは私のことをいたく嫌っていた。子供の頃に王城で私に暴力を振るわれ、魔法にトラウマを持ち、けれど聖女との出会いによってコンプレックスを解消していく。それが流れだったはずだ。
けれどこれまで見てきたアウレリウスからは自信しか感じない。魔塔主として私が接していた数少ない瞬間でも王子然として振舞っていたが、私がいない場所でも一切陰口に乗ることは無く、心優しい好青年でしかなかった。
「ともかく、レオは逃げていったし、俺たちもはよ2ペア狩ろ!!」
「そうだね。僕は戦闘は不得手だから、なるべくアバラ中心に動けるかな?」
「おうよ!学力でおチビに負担かけた以上は、俺に任せとき~」
先ほど使った緑の魔法は、生命系に属し、破壊を得意とする私とは頗る相性が悪い。故に、温存しておきたかった魔力を大きく使ってしまったのだ。なるべくアバラに任せておきたい。
アバラは私より先に駆けだしたものの、すぐに半べそをかいて戻ってくる。
「あかーん!!俺は探知は苦手やから、闇雲になっちゃう~」
「アバラ、今回のこの試験の制限時間って何だと思う?」
私の発言にきょとんとした表情をする。
「確かに言われてなかったなあ。夜になったらとか?」
「定員の人数になったら、だよ。つまり、早くやろうが遅くやろうが焦ることないんだ。逆に早くやれば、こちらの位置がばれる可能性もあるしね。上手にタイミングを考えてやっていこう」
私は先ほど沢山茂らせた草に身を隠す。
「僕はここでランタンを守っているよ。だからアバラは周辺を見回りしてくれないかな?絶対に一人では戦わないようにしてね」
「おう!なんかおチビの言うとおりにしてれば勝てるような気がするもんな!ちょっとここで待っててな」
アバラは身を隠しながら再び先に進んでいった。
さて、正直に言うとあの単細胞に最初から私は偵察など期待してない。想像通り、アバラは偵察は慣れていないようで、自分の場所を知らせるように音を立てて動いている。するとどうなるか。
「おい、あっちに誰かいるぞ!」
「追え!こっちは10人いるんだ!!」
案の定人を引き連れてきた。アバラは焦った様子で全力疾走をしている。やはり、この試験にまで残った優秀な者たちだ、最初に人数を作った方が有利であることに気が付いたか。
私はそろりそろりと体を移動させ、音のする方向へ移動する。
言葉の通り、10人いる。アバラは追い立てられているが、しかし10人もの魔法の猛攻をしのげるわけがなく、ボロボロになって地面に転がっていた。
「おい、こいつランタンを持ってねえぞ?」
「近くで誰かに守らせてるんだろうな。探すぞ!」
そこで私は先ほど気絶させた心愛の体を目立つところに移動させる。やがて、探しに来た面々は気絶している心愛を発見する。アバラのペアは心愛だと誤認した。
今だ!
私は緑の魔法を使い、近くの草を急成長させる。やがてそれは意思を持ち、静かにランタンを一つ、そしてまたもう一つ破壊した。計二つ。これでミッションは達成できた。
「・・・なっ!?なんで!?なんで俺たちのランタンが壊れて・・・!?」
「うそ、私たちのランタンも!?」
壊したのは二つのみ。そして私の存在はばれておらず、アバラのペアっぽい人物を心愛というように偽装している。するとどうなるか。
「お前達、まさか裏切ったな!?」
「し、知らねえよ!お前がやったんだろ!?」
裏切りを疑いだす。互いに誰かも知らない即席パーティなんだ。少し揺さぶってやればあっという間に仲間割れを起こす。
「よこせ!ランタンには所有権は刻まれていない!奪えばまだ勝ちの目はある!」
「やめろ!俺たちは協定を結んだだろうが!!」
そして10人はランタンをめぐり、争いが勃発した。私はその隙にアバラの元へと戻る。
「アバラ、君のおかげでランタンを二つ破壊できたよ。あとは身を隠すだけだから」
「えー!?俺ほんま役に立ったん!?うれしー、ってことはもう合格確定や~ん!!」
そうだな、心愛を男女平等パンチしてくれたおかげでな。どういう役の立ち方なんだ。
それはともかく、今私たちは開けた場所にいる。ここは見られると良くない。急いで身を隠すか。
「こっち来て。ここを北東に進むと、丁度いい潜伏スポットがあるから」
「へえ、物知りやわあ。んじゃ、付いてくな。ああ、いてて」
腰を抑えながら、アバラは私についてくる。
さて、この紫紺の森は立ち入り禁止にした区域であるが、その理由は私が念入りに調査をしたためである。魔獣の多さはさることながら、危ない兵器も多いのだ。故に安全性の観点から立ち入り禁止にしたのだが、大規模魔法演習がこの区域以外では許可制ということもあって、手続きが面倒になったことから批判を受けた。
(だというのに、どうしてここの使用の許諾がおりているんだ?私はもう死んでいて、誰も許可を出せるはずがないというのに)
まるで、私の死を知っているものが仕組んだような・・・。王子はここの試験を決めたのは校長と言っていたな。
途中現れる魔獣は辛そうなアバラを酷使し、やがて、目的のセーフエリアに辿り着く。するとそこには先着がいた。
「あれ、あいつさっきのレオっていうやつやん。おーい、レオー!!」
「君たちは・・・」
「アバラ、馬鹿!!突っ込むな!!」
私の制止を聞かず、既にレオと友人になっている感覚のアバラはすぐにレオの元へと駆け寄る。けれど、レオの前方には、大量の魔物がいた。
身体強化系の魔法か。そして前傾姿勢の踏み込みから縮地法さながらの距離を詰め、一気に心愛に向かってアッパーを入れた。心愛は光の魔法の応用は確かにできていたが、実戦は初めてなのだろう。
殴られて脳震盪を起こしたのか、光魔法など為すすべなく、地面に突っ伏した。
「ごめんなあ聖女さん。俺、頭悪いからごちゃごちゃ言われてもよ~わからんのや。でもあんたが本当はすっごい強いってことは分かったから、ほんま申し訳ないんやけど沈んどってな!」
アバラはごめんね!!というポーズを気絶する聖女に向けてする。
あまりの容赦のなさに、復讐に燃える私すらも戦慄したぞ・・・。相手が女なら、体が反射で手加減しないだろうか。
よく男女平等を主張して女性を殴る男性がいるが、あれは正確には自分よりも強い男は殴れないのである。だというのにこのアバラ、相手が男女だろうが本当に関係なく殴るタイプだと私は直感した。やはり、この学園には変人しか集まらないな・・・。
さて、私は試験の前日にマラカイに頼んで口づけを何度もしてもらった。非常に不快な行為だったうえに、途中何度も服を脱がされそうになったが、結果私の魔力は、ある程度蓄えがある。
この聖女の光魔法は私と相性が悪いために、いずれ脅威になりかねない。殺るなら早めがいい。
私はアバラが視線を聖女から外し、木々に目を向けた瞬間に巾着袋を心愛に向ける。闇魔法で、一気に体を燃やそうと。
けれどその瞬間、視界に光が満ちる。誰かが私の眼前に現れた。
「巾着袋なんて、不思議な魔道具を使うね?あのペーパーテストと言い、君は僕の興味をそそられる」
アウレリウス。生徒会長だ。
私の前に立ちふさがるようにして心愛を守るように降臨した。アバラも突然のアウレリウスの登場に大きな口を開けて驚く。
「ええ!?王子様やん、こんなところに何をしにきはったん?」
「死者が出ないように巡回してるんだよ。一応尋ねるのだけど、君はさっきその巾着袋を掲げて、彼女に何をしようとしたのか聞いていいかい?」
じろりと、私を見る。心愛はどう見ても戦闘不能の状態だ。その状態の人間に武器を掲げるのは、確かに止められても致し方ない状況だろう。
「・・・この場に女性をただ放置しておくわけにはいきませんから、草を生やして隠しておこうと思いました」
そうして私は巾着袋を掲げ、雑草に向けて詠唱する。するとにょきにょきと草が伸び、心愛の体を覆い隠した。この王子の言う通り、私は魔法を使って心愛の体を燃やすつもりだったが、予定変更だ。
王子は私の魔法に納得の表情を向けた。
「緑の魔法か。随分珍しいものを使うね。うん、僕の勘違いだったらよかった。魔塔主の意を組んで、なるべく試験で死傷者を出したくないのが僕の願いだから、疑いの目を向けて悪かったね」
「いえ、疑うのも当然の状況でした」
「本当は魔塔主と一緒で、僕もこの森で試験をするのも反対だったのだけれどね。校長に押し切られてしまったんだよ。だからこうして生徒同士で疑わしいタイミングを見つけたら制止しているんだ」
何とも高潔な王子様なことだ。勝気な立木心愛と違って、こちらは性格には小説とズレはないように思う。
本当に、あと一瞬王子のやってくるタイミングが悪ければ言い逃れが出来なかった。少し汗をかく私の顔を、王子はのぞき込む。王子のサラサラした髪が傾けた頭で少し動き、繊細な目元がこちらに近づく。
「個人的な質問なのだけれど、君に兄っているかな?」
「いいえ・・・?」
「親族は?10歳以内の年上の男性っている?」
一体どういう質問だ・・・?私には弟はいるものの、兄はいない。特に今は平民に扮しているため、そんな質問をされても困る。
「いや、実は君が僕の知り合いにすごく似てる気がしてね。うん、目元もよく見ればそっくりだ。ローゼルアリオンっていうんだけど」
ギクっとした。
私はまだ魔法の才が開花していないころは、今のようにそばかすと藍色の髪だった。故に子供の姿をしている今と成長した姿の目元や鼻のパーツなどがごっそりと変わったわけではない。
王子からの探る目は続く。ローゼルアリオンはまだ訃報を発表していないため本人と疑われることはないだろうが、ここでローゼルアリオンの関係者だと思われるのもまずい。
特に私はアリオンと自分を名付けてしまった。安直な名づけに今更ながら冷や汗をかく。こんなにすぐに関連付ける者が現れるとは思わなかったのだ。復讐の最後に学園を殺戮で染める時、「アリオンは仮の姿、私こそがローゼルアリオンだったのだ!」と格好よくやりたかったのだ。そういったちっぽけな願いが足を引っ張る。
それにしても、大人の姿の私とこいつはたった数回しか会っていないはずなのに、どういう記憶力をしているんだ。さすがは王族、社交界に慣れている者はそれくらいできて当然なのか。
一方アバラは、そんな焦る私の前に立ち、かばう姿勢を見せた。
「俺は良いところの出じゃないから、言葉遣い悪くてほんまごめんな王子様。でもな、魔塔主に似てるなんて、そんな最悪の侮辱せんでもええやないか。いくら身分高くても、言っていいことと悪いことがあるで?」
私の名前が最上の悪口表現というのは気に食わないが、助かったアバラ。王子は不服そうに少し体を離す。
「ローゼルアリオンは魔塔主にして我が学園の理事長。君の発言こそ彼への侮蔑と受け取るのだけれど、まあ今回は勝手に詰め寄った僕にも原因はあるからいいよ。まだ試験中だし、これ以上引き留めるのは悪いから。じゃあ、僕は合格者発表の場で待っているから、健闘を祈るよ」
そしてアウレリウスは再びこの場を去っていった。
「ひやー。あんなカス魔塔主にも礼儀を尽くすって、やっぱ生まれながらの王子様は格が違うなあ」
「・・・・・・・」
ペーパーテストでの私の擁護と言い、先ほどの発言。ひょっとして王子は、私のことを嫌っていないのか?
小説ではアウレリウスは私のことをいたく嫌っていた。子供の頃に王城で私に暴力を振るわれ、魔法にトラウマを持ち、けれど聖女との出会いによってコンプレックスを解消していく。それが流れだったはずだ。
けれどこれまで見てきたアウレリウスからは自信しか感じない。魔塔主として私が接していた数少ない瞬間でも王子然として振舞っていたが、私がいない場所でも一切陰口に乗ることは無く、心優しい好青年でしかなかった。
「ともかく、レオは逃げていったし、俺たちもはよ2ペア狩ろ!!」
「そうだね。僕は戦闘は不得手だから、なるべくアバラ中心に動けるかな?」
「おうよ!学力でおチビに負担かけた以上は、俺に任せとき~」
先ほど使った緑の魔法は、生命系に属し、破壊を得意とする私とは頗る相性が悪い。故に、温存しておきたかった魔力を大きく使ってしまったのだ。なるべくアバラに任せておきたい。
アバラは私より先に駆けだしたものの、すぐに半べそをかいて戻ってくる。
「あかーん!!俺は探知は苦手やから、闇雲になっちゃう~」
「アバラ、今回のこの試験の制限時間って何だと思う?」
私の発言にきょとんとした表情をする。
「確かに言われてなかったなあ。夜になったらとか?」
「定員の人数になったら、だよ。つまり、早くやろうが遅くやろうが焦ることないんだ。逆に早くやれば、こちらの位置がばれる可能性もあるしね。上手にタイミングを考えてやっていこう」
私は先ほど沢山茂らせた草に身を隠す。
「僕はここでランタンを守っているよ。だからアバラは周辺を見回りしてくれないかな?絶対に一人では戦わないようにしてね」
「おう!なんかおチビの言うとおりにしてれば勝てるような気がするもんな!ちょっとここで待っててな」
アバラは身を隠しながら再び先に進んでいった。
さて、正直に言うとあの単細胞に最初から私は偵察など期待してない。想像通り、アバラは偵察は慣れていないようで、自分の場所を知らせるように音を立てて動いている。するとどうなるか。
「おい、あっちに誰かいるぞ!」
「追え!こっちは10人いるんだ!!」
案の定人を引き連れてきた。アバラは焦った様子で全力疾走をしている。やはり、この試験にまで残った優秀な者たちだ、最初に人数を作った方が有利であることに気が付いたか。
私はそろりそろりと体を移動させ、音のする方向へ移動する。
言葉の通り、10人いる。アバラは追い立てられているが、しかし10人もの魔法の猛攻をしのげるわけがなく、ボロボロになって地面に転がっていた。
「おい、こいつランタンを持ってねえぞ?」
「近くで誰かに守らせてるんだろうな。探すぞ!」
そこで私は先ほど気絶させた心愛の体を目立つところに移動させる。やがて、探しに来た面々は気絶している心愛を発見する。アバラのペアは心愛だと誤認した。
今だ!
私は緑の魔法を使い、近くの草を急成長させる。やがてそれは意思を持ち、静かにランタンを一つ、そしてまたもう一つ破壊した。計二つ。これでミッションは達成できた。
「・・・なっ!?なんで!?なんで俺たちのランタンが壊れて・・・!?」
「うそ、私たちのランタンも!?」
壊したのは二つのみ。そして私の存在はばれておらず、アバラのペアっぽい人物を心愛というように偽装している。するとどうなるか。
「お前達、まさか裏切ったな!?」
「し、知らねえよ!お前がやったんだろ!?」
裏切りを疑いだす。互いに誰かも知らない即席パーティなんだ。少し揺さぶってやればあっという間に仲間割れを起こす。
「よこせ!ランタンには所有権は刻まれていない!奪えばまだ勝ちの目はある!」
「やめろ!俺たちは協定を結んだだろうが!!」
そして10人はランタンをめぐり、争いが勃発した。私はその隙にアバラの元へと戻る。
「アバラ、君のおかげでランタンを二つ破壊できたよ。あとは身を隠すだけだから」
「えー!?俺ほんま役に立ったん!?うれしー、ってことはもう合格確定や~ん!!」
そうだな、心愛を男女平等パンチしてくれたおかげでな。どういう役の立ち方なんだ。
それはともかく、今私たちは開けた場所にいる。ここは見られると良くない。急いで身を隠すか。
「こっち来て。ここを北東に進むと、丁度いい潜伏スポットがあるから」
「へえ、物知りやわあ。んじゃ、付いてくな。ああ、いてて」
腰を抑えながら、アバラは私についてくる。
さて、この紫紺の森は立ち入り禁止にした区域であるが、その理由は私が念入りに調査をしたためである。魔獣の多さはさることながら、危ない兵器も多いのだ。故に安全性の観点から立ち入り禁止にしたのだが、大規模魔法演習がこの区域以外では許可制ということもあって、手続きが面倒になったことから批判を受けた。
(だというのに、どうしてここの使用の許諾がおりているんだ?私はもう死んでいて、誰も許可を出せるはずがないというのに)
まるで、私の死を知っているものが仕組んだような・・・。王子はここの試験を決めたのは校長と言っていたな。
途中現れる魔獣は辛そうなアバラを酷使し、やがて、目的のセーフエリアに辿り着く。するとそこには先着がいた。
「あれ、あいつさっきのレオっていうやつやん。おーい、レオー!!」
「君たちは・・・」
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